【社会】こうして神経細胞がどんどん死んでいく…「アルツハイマー型認知症」発症と血管の老化との深い関係

【社会】こうして神経細胞がどんどん死んでいく…「アルツハイマー型認知症」発症と血管の老化との深い関係

アルツハイマー型認知症についての最新の研究結果に注目が集まっています。特に、神経細胞の死が進行する過程と血管の老化が密接に関連しているという発見は、今後の治療法に大きな影響を与える可能性があります。この研究を通じて、私たちは認知症を予防するための新しい視点を得られました。

BMI25 以上の肥満者の割合は男性31.5%、女性21.1(令和5年「国民健康・栄養調査」)。抗加齢医学を研究する伊藤裕さんは「メタボによって引き起こされる高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病はサイレントキラー(沈黙の殺し屋)と呼ばれ、放置しておくと、腎臓病、脳卒中、認知症心筋梗塞心不全などを起こす」という――。

※本稿は伊藤裕『老化負債 臓器の寿命はこうして決まる』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■脂っこいものでコレステロール値が悪くなるというのは誤解

【1】脂質異常症

悪玉コレステロールLDLコレステロール)が血管に蓄積すると、動脈硬化症が起こります。血管の内径が小さくなって血液が通りにくくなったり、血管の内側を覆っている内皮細胞が弱くなり、血栓ができて詰まったり、また「炎症」が起こって破れやすくなります。欧米の死因の第1位の狭心症心筋梗塞を起こしますし、血圧が上がりやすい日本人では脳梗塞脳出血がかつては死因の第1位でした。

肥満や脂っこいものを食べると悪玉コレステロール値が高くなると思われている方も多いのですが、これは誤解です。悪玉コレステロールの値は、かなりの部分が遺伝的に決められています。体重を減らしても悪玉コレステロールの値は下がることはありませんし、痩せている方でも悪玉コレステロールが高い方はたくさんいます。悪玉コレステロールが高い方は、両親のどちらかが高い場合がほとんどです。

はっきり原因がわかっている遺伝病としては、LDLコレステロールを結合して細胞の中に入れる“受け手”である、LDLコレステロール受容体と呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の異常がある病気です(家族性高コレステロール血症)。血中コレステロール値が160mg/dL以上あると要注意ですが、現在ではコレステロールを下げる強力な薬剤が開発されて、うまく下げることができるようになっています。しかし、かつては家族性高コレステロール血症の方ではコレステロールの値が500以上1000にまで達し、20歳代で心筋梗塞で亡くなる方が多数いました。

■コレステロールは体の中に蓄積し、心臓病を引き起こす

コレステロールは、排除されることなく年々確実に蓄積していくので、将来どれだけ血管に蓄積していくか予測することができます。一般的に、全身の血管にコレステロールが60gほど蓄積すると心臓病が起こるとされています。遺伝子は両親からそれぞれ受け継ぎ、1対、二つずつあります。その両方の遺伝子に異常のある人では、この蓄積の値に12.5歳で到達し、片方の遺伝子に異常がある人では35歳で達すると計算されています。まさに「負債病」の代表であり、「コレステロール負債」といえます。

遺伝病というと、稀(まれ)な疾患と思われがちですが、二つある遺伝子のどちらかに異常がある方は500人に1人といわれています。コレステロールの高い方は迷わず薬を飲まれることをお勧めします。

■痛風が怖い! 尿酸値が高くなるのは遺伝要素が大きいが…

【2】高尿酸血症・痛風

ビールを飲む人は尿酸を気にされる方も多いと思います。確かに高尿酸血症の方は食事に注意が必要です。しかし、高尿酸血症は遺伝の要因が大きいです。尿酸は遺伝子を構成する核酸の主成分となっているプリン体が代謝されて作られます。レバー類(210〜320mg/100g)、白子(300mg/100g)、一部の魚介類、エビ、イワシカツオ(210〜270mg/100g)や、干し椎茸などに高濃度で含まれています。

1日の摂取を400mg程度に制限することが推奨されています。アルコール飲料では醸造酒に多く含まれ、ビール350mLで10mg程度ですが、アルコール自体が尿酸の排泄を抑えるため、毎日飲む人は痛風の危険度が2倍、とくにビールを飲む人の危険度が高いといわれています。

ほとんどの動物では分解されますが、なぜか人間は分解することができず、尿と腸管に排泄されます。なぜ人間は尿酸を分解しないように進化したのか、その理由はわかっていません。尿酸は細胞を傷害する活性酸素を消去する作用もあり、その作用を人間は利用しようとしたとする説もあります。

■メタボの人は要注意、尿酸で腎臓が悪くなっている

1日約700mg程度作られて、尿から500mg/日、腸管などから200mg/日排泄されていて、血液の濃度が5〜6mg/dL程度に保たれています。ですから、腎臓が悪くなると、当然体に蓄積されます。また肥満、メタボの人では尿酸値が高くなります。これは、肥満の人では、腎臓や腸管にある尿酸を排泄するための通路が少なくなるためです。肥満の方では腸内細菌変化も原因となっている可能性があります。

尿酸は結晶を作り、コレステロールと同じように体に溜まって悪さをします。痛風は有名です。足の親指の関節に蓄積して、激しい腫れ、痛みが生じます。血液の尿酸濃度の基準値は7mg/dL以下です。9mg/dL程度の方では、いつ発作が起こっても不思議ではありません。尿にたくさん排泄されると腎臓結石を作り、発作が起こります。そうした派手な症状ばかり注目されがちですが、実は、尿酸は着実に腎臓にも蓄積して、コレステロールの血管に対する作用と同じように、腎臓を徐々に悪くします。腎臓が悪くなると尿酸値は高くなり、高くなった尿酸はさらに腎臓を悪くするという悪循環になります。

■「慢性腎臓病」患者は1300万人、心臓病や脳血管病も誘発

腎機能が6割未満に低下した場合、「慢性腎臓病」と呼ばれますが、その隠れたリスクになっています。慢性腎臓病は腎臓の機能を悪くするだけでなく、心臓病、脳血管病も起こす“万病のもと”です。現在1300万人の患者がいて、その原因は、昔は腎臓そのものの病気が多かったのですが、今は糖尿病が1位となっています。しかし現在は、腎硬化症と呼ばれる、腎臓に線維が溜まり萎縮する病態が増えています。その原因の多くは高血圧ですが、高尿酸血症も隠れた原因です。慢性腎臓病は“原因不明”のものも増えていて問題となっています。これは肥満を原因とした高尿酸血症が関わっているとわたしは考えます。まさに高尿酸血症は、痛風だけでなく全身の疾患を引き起こす「負債病」です。

高尿酸血症の方はプリン体を高濃度に含む食品を避ける、結石ができないように尿をアルカリ化する食品(海藻、野菜、イモ類など)を意識的に摂取する、肥満にならないようにする、水分を十分に取ることが勧められます。しかし、実際は高尿酸血症は遺伝の要素が強く、なかなか生活習慣の改善だけでは尿酸は下がらないので、わたしは尿酸を下げる薬を早めに服用することをお勧めします。

■脂肪肝の原因はお酒の飲みすぎと食べすぎ

【3】脂肪肝・代謝不全関連脂肪性肝炎(マフルド)

健康診断で肝臓に脂肪が溜まっていると言われる方は、少なくないと思います。肥満傾向になると、早い段階で、肝臓の細胞の中に脂肪(中性脂肪)が溜まってきます。これはメタボの代名詞である“お腹ポッコリ”の、内臓脂肪の蓄積と同じことが肝臓の中で起こっています。日本人は欧米人に比べて余分の摂取カロリーを皮下脂肪として溜める能力が低く、余分のカロリーはお腹の中の内臓の周囲、あるいは肝臓に溜められてしまいます。その結果、内臓脂肪の蓄積(いわゆる、“お腹ポッコリ”、内臓脂肪型肥満といわれます)や脂肪肝になります。日本では脂肪肝の方が非常に多く、約2000万人と推定されています。

肝細胞の5%以上の細胞の中に脂肪が溜まっている状態を脂肪肝といいます。その原因は主にお酒の飲みすぎと、栄養過多(あるいはその両方)です。検査でALT(GPT)、AST(GOT)の値が40U/Lを超えている方、とくにALTが正常値を超える場合は、肝臓が脂肪の蓄積で傷害を受けているので要注意です。

■お酒の飲みすぎと常飲は肝硬変をも引き起こす

アルコール性脂肪肝では飲酒をやめないでいると、約3〜4割が肝臓に線維が溜まり、その後、その中で約1〜3割が肝硬変になるといわれています。肝硬変は肝臓のかなりの部分が線維で置き換わった状態で、肝臓の機能(糖を作る、解毒する、血小板を作るなど)が相当に低下した肝不全という末期の病態をきたします。男性なら日本酒5合相当の飲酒を20〜30年、女性なら男性の3分の2ほどの量の飲酒を12〜20年継続すると、肝硬変に進行するとされています。

肥満、糖尿病などがあると、アルコールを飲んでいないのに、脂肪が肝臓に蓄積します。これが非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLD、ナッフルド)と呼ばれる状態で、7〜21年の間に5〜8%の人が肝硬変になります。さらに進んだ病態、肝臓に炎症が認められるようになった、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、ナッシュ)では3〜10年の間に30〜50%の人が肝硬変になるといわれています。場合によっては、肝臓がんまで発症します。

最近では、アルコールの摂取の有無に関係なく、肥満などの代謝の異常に関連する脂肪性肝疾患、代謝不全関連脂肪性肝炎(MAFLD、マフルド)という新しい疾患概念が提唱されています。肝臓といえばアルコールがいけない、というばかりではなく、肥満にも気をつけないと肝臓に脂肪が蓄積して、「肝臓負債」が起こります。

■認知症になるのは、血管の老化と関係がある?

【4】認知症・アルツハイマー病

現代の「負債病」の真打ちです。認知症の有病者は年々増加しており、厚生労働省の推計では認知症患者は2025年には700万人に達するといわれています。

65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症という時代になります。認知症の中でも日本人罹患者の60〜70%を占めるといわれているのが「アルツハイマー型認知症」です。

1906年、アルツハイマー(1864〜1915年)によって初めて報告されました。記憶障害で発症し、見当識障害、実行機能障害、理解判断力低下などが出現する進行性の疾患です。

超・超高齢社会に伴って患者が増え、人々が最も恐れる病気です。認知症の真の原因はいまだ不明ですが、神経細胞が老化する中で老廃物が蓄積することが一因と考えられています。アミロイドベータ(Aβ)、タウといった物質です。これらが蓄積するために神経細胞がどんどん死んでいきます。

■レカネマブが日本でも承認されたが…、認知症を治療できるか

本来、わたしたち人間の体には、脳内からAβを排除する仕組みが備わっています。脳の中のリンパの流れです。リンパの流れは血管の流れに逆行して走っていますが、生活習慣病などにより血管の老化が進んで血管の弾力性が失われると、リンパの流れが滞り老廃物が脳内に蓄積するといわれています。

これまでは、アルツハイマー病患者の脳内では神経の興奮を伝えるアセチルコリンが減少するため、その減少を抑制する薬剤が使われていましたが、なかなか症状を抑えることが困難でした。しかし、最近、Aβに対する抗体(レカネマブ)が日本でも製造販売承認を受けました。この抗体を投与して、蓄積しているAβを破壊消去しようとする治療法です。

軽度認知障害の方で、PET(陽電子放出断層撮影)でAβの存在が確認された場合に保険適用で投与され始めています。また、Aβの存在を示す、さまざまな血液の成分が探索され、慶應義塾大学病院でも検査を始めています。

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伊藤 裕(いとう・ひろし)
慶應義塾大学名誉教授
慶應義塾大学予防医療センター特任教授、医学博士。1957年京都市生まれ。京都大学医学部卒業、同大学院医学研究科博士課程修了。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、抗加齢医学。世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。著書に『幸福寿命 ホルモンと腸内細菌が導く100年人生』『なんでもホルモン 最強の体内物質が人生を変える』(以上、朝日新書)など。

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/masamasa3

(出典 news.nicovideo.jp)

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