【国際】やっぱりプーチンに甘すぎる…電話会談の成果を自慢したいトランプ大統領が隠した”ロシアの要求”の中身

【国際】やっぱりプーチンに甘すぎる…電話会談の成果を自慢したいトランプ大統領が隠した”ロシアの要求”の中身

この記事では、トランプ大統領がロシアとの電話会談の成果を自慢する一方で、ロシア側の要求がどのようなものであったのかを隠していることが指摘されています。

3月18日トランプ大統領プーチン大統領が電話会談を行った。両首脳はウクライナ戦争の部分的な戦闘中止案で折り合ったが、戦闘の全面中止は実現できなかった。米メディアはプーチン氏に大きく譲歩したトランプ政権に冷たい視線を送っている――。

■ホワイトハウスは「平和への第一歩」と成果を強調

アメリカのトランプ大統領ロシアプーチン大統領3月18日午前10時(日本時間18日午後11時)から、2時間半に及ぶ電話会談を行い、ウクライナ戦争でエネルギー施設への攻撃を相互に停止することで合意した。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、ウクライナ側もロシアのエネルギー施設への攻撃を行わないことが条件となっている。対象となるのは発電所や変電所、送電網、石油・ガス関連設備で、ウクライナ側が同意すれば、こうした施設へのミサイルやドローン攻撃を双方が見合わせることとなる。

会談でプーチン氏はさらに、重傷を負った23人のウクライナ兵を解放し、今月末に双方から175人ずつの捕虜交換を行う意向も示した。

ホワイトハウス報道官はこの合意を、「平和への第一歩」であると強調。永続的な和平の成立への期待を示した。トランプ氏も自身のSNSで、会談は「非常に実りある建設的な内容だった」と振り返っている。

会談の成果は欧州でも報じられた。BBCホワイトハウスの声明を取り上げ、両首脳が「この紛争は永続的な平和によって終わらせるべきだ」との認識で一致したと報じている。

■トランプが掲げた「攻撃の全面停止」から大きく後退

ただし、今回の部分合意は平和への道筋を一定程度付けた一方、トランプ政権が先週打ち出した30日間の全面停戦の実現には至らなかった。プーチン氏は全面停戦に対して表向きは賛同の意を示しながらも、実際には部分合意にとどめる道を選んだ形だ。

ニューヨークタイムズ紙は、エネルギー施設への攻撃停止の合意について、ウクライナ戦争勃発から3年で初めて双方が合意した攻撃中断として評価する一方、前述のようにトランプ政権の想定した成果には到底届いていないとの厳しい見方を示している。

同紙の報道によれば、ホワイトハウス内の一部高官は、プーチン氏が交渉の時間稼ぎを図っていると見ているという。高官によると、プーチン氏の狙いは二つある。和平に取り組んでいる姿勢を演出するための最小限の譲歩と、時間を稼ぎ戦場での優位性を確保することだ。

BBCも会談の結果について、トランプ政権の当初案から後退した形になったと報じている。米代表団は先週、サウジアラビアのジッダでウクライナ側と協議し、陸海空全域での「即時」30日間停戦案にキーウの同意を取り付けていた。

■ホワイトハウスが隠した「プーチンからの条件」

ロシアウクライナの部分合意の背景には、プーチン氏の打算が垣間見える。

ワシントン・ポスト紙の報道によると、プーチン氏は全面停戦の前提条件として、各国からウクライナへの軍事支援と情報提供を全面的に打ち切るよう求めた。

ロシア側は声明で、これを「戦闘行為を終わらせるために欠かせない条件」と位置づけている。加えて、停戦の実効性確保や、ウクライナの兵力動員と再武装の防止も条件に盛り込んだ。

実はロシア側が示したこれらの条件は、ホワイトハウスが発表した会談概要からごっそりと抜け落ちている。米政治・文化誌のニュー・リパブリックは、ホワイトハウスが発表から省いた理由として、「ロシアの条件はウクライナとその同盟国には受け入れがたいもの」であり、意図的に言及を控えたためだと分析している。

さらに踏み込むならば、トランプ政権がロシアに対して協調的な姿勢を演出したいため、摩擦を避けた可能性が考えられる。トランプ政権はロシア側の要求に対する公式見解を示していない。

■ウクライナ側も大枠で受け入れの意向か

ウクライナは会談にどう反応したか。米ABCニュースの報道によると、ウクライナゼレンスキー大統領は記者会見で「懐疑的な気持ちはあるが、部分的な停戦が実現すれば良い成果だ」と語った。ロシアの意図に警戒しながらも、市民の安全確保につながる合意に前向きな姿勢がうかがえる。

ゼレンスキー氏は、ABCニュースの国際担当チーフ特派員ロングマン氏の質問に「トランプ氏と対話し、詳細を把握したい」と慎重に回答した。また、「我々はこれまでも一貫して停戦を求め、エネルギー施設への攻撃に反対してきた」と付け加え、自身の姿勢とも一致するとの認識を示している。

一方でゼレンスキー氏は、部分的合意への警戒感を同時にうかがわせている。BBCによると、「米ロ間でどのような提案が交わされたのか、内容を確認する必要がある」と強調したという。

さらに、「この戦争の当事者はロシアウクライナであり、ウクライナ抜きの話し合いでは解決につながらない」と訴えた。自国の将来が米ロ間でのみ協議されている現状への懸念が読み取れる。

■ウクライナが置かれた厳しい状況

現在、ウクライナ軍は厳しい状況に置かれている。米タイム誌の報道によると、ウクライナ軍は昨年8月、ロシア領クルスク地域に侵攻し、約1300平方キロメートル(500平方マイル)の地域を掌握する予想外の成果を上げた。しかし今、ウクライナ軍は撤退を強いられ、停戦交渉で使える重要なカードを失いつつある。

トランプ氏はウクライナの窮地を指摘し、プーチン氏に寄り添ったとも取れる発言をしている。3月17日、クルスク地域でロシア軍ウクライナ軍を「包囲した」と述べ、ロシア側の主張と同じ見解を示した。ゼレンスキー氏は反論している。

いずれにせよ、戦線での不利な状況は、交渉の場でもウクライナを苦しい立場に追い込んでいる。こうした厳しい現実から、ウクライナとしても限定的な停戦合意を模索せざるを得ない状況だ。

もっともエコノミスト誌は、ウクライナの情報筋が部分停戦案に不満を示していると伝えている。「我々がロシアの石油精製所を攻撃していることに対し、彼らは我々の行動を制限するよう求めてくる。その一方で彼らは、地上での攻勢を続けている」と述べ、エネルギー施設への相互の攻撃停止はロシア側に有利に働くと訴えた。

■エネルギー施設の確保はウクライナに吉報

それでもウクライナにとって、自国のエネルギー施設への攻撃停止は朗報となり得る。

ロシア軍は2022年の侵攻開始以来、ウクライナの電力網への攻撃を重ね、全土のインフラに甚大な被害をもたらしてきた。ニューヨークタイムズ紙が報じるように、ロシアはドローンとミサイルを駆使してウクライナの電力システムを組織的に破壊。厳冬期には暖房や電気の不足から市民生活が脅かされ、人道的な危機に発展している。

一方、エコノミスト誌は、この合意がロシア側にも大きな利点をもたらすと指摘する。最近ウクライナ軍はロシア本土の石油・ガス施設への攻撃を活発化させており、これがプーチン政権の主たる収入源に損害を与えていた。先週、ウクライナは射程1000キロの改良型ネプチューン巡航ミサイルを実戦投入。最前線から約480キロ離れたトゥアプセの石油精製所を破壊したと報じられている。

エコノミスト誌によれば、この新型ミサイルの出現はロシアにとって無視できない脅威となっている。ウクライナは元々対艦用だったネプチューン・ミサイルを陸上目標攻撃用に改良し、攻撃能力を大幅に向上させた。これによりロシア領内奥深くの石油施設や燃料貯蔵庫への攻撃が可能となり、状況は大きく変わった。ロシアの戦争継続能力そのものを揺るがす手段を手に入れたとする分析もある。

タイム誌は、エネルギー関連施設は両国にとって戦略上極めて重要な資産だと指摘する。部分的合意に含まれるであろう重要な施設として、ザポリージャ原子力発電所がある。ウクライナ最大の原発であり、開戦前はウクライナの電力供給の約4分の1を担っていた。

2022年にロシア軍の管理下に入って以降、国連の国際原子力機関(IAEA)は安全面での懸念を繰り返し表明してきた。トランプ陣営とロシア当局者は今回の会談で、この原発の今後についても話し合いを持ったとされる。

■アメリカ国内で噴出する厳しい評価

部分的合意に終わった会談の成果について、アメリカ国内からは不安の声も相次いでいる。

ヒルによると、民主党クリス・クーンズ上院議員はソーシャルメディアに「今回の発表から明らかなのは、ロシアこそが欧州の平和を脅かす存在だということだ」と投稿し、完全停戦に至らなかったと強調した。

クーンズ氏は「インフラ攻撃の中止は評価できる」と一定程度肯定したうえで、「武器供与や情報共有の禁止などプーチンの『要求』を見れば、彼の本音がわかる」と述べ、アメリカが今回示した譲歩に警鐘を鳴らしている。「プーチンは、自衛能力を奪われたウクライナを望んでいるのだ」と分析。西側からの武器供与を断つことで、ロシアは今後の侵攻への道筋を付けようしているとの分析を示した。

国家安全保障を専門に扱う米シンクタンク、防衛民主主義財団の軍事・政治権力センター上級ディレクターであるブラッドリー・ボウマン氏は、タイム誌の取材に対し、プーチン氏の真意を図りかねると率直に述べている。「本当に戦争終結を望んでいる」とも取れるが、「はたまた、焦りを見せるトランプ氏から譲歩を引き出すための時間稼ぎ」である可能性もあるとボウマン氏は言う。

ボウマン氏はまた、「米国がこれまで先に譲歩を重ねてきたせいで、米国とウクライナの交渉力が低下してきた」と指摘。「このままでは、ウクライナに不利で、プーチンに有利な結果を招きかねない」と警戒感を示している。

■欧州は独自の防衛力強化に走る

会談を受け、欧州では危機感が広がる。エコノミスト誌は、ロシアへの譲歩を見せるトランプ氏の影響で戦況が変化するなか、欧州各国が自国防衛の強化に乗り出したと伝えている。

トランプ氏とプーチン氏の電話会談直前、エストニアクリステン・ミッハル首相はGDPの5%を国防費に回す方針を発表した。この数字はNATO基準の2%を大幅に上回り、ロシアへの警戒感を表している。

また、ポーランドバルト三国3月18日、対人地雷を禁止したオタワ条約から脱退する意向を示した。トランプ政権がロシアとの関係改善を重視しており、今後NATO加盟国への安全保障体制が弱まる懸念を受けたものだ。

ドイツ議会は、防衛費に関する憲法上の財政規制を緩和し、インフラ整備のため5000億ユーロ(約82兆円)規模の基金の設立を決めた。ミッハル氏はSNSで「ロシアは帝国主義的な野心を捨てておらず、欧州とNATOにとって実在の脅威である」と強調している。

欧州諸国のこうした行動からは、米国の安全保障の傘への信頼が揺らぐなか、「自国の安全は自らの手で守る」という意識が高まっている現状がうかがえる。

■限定停戦から全面和平への道のりは長い

会談はロシアによるウクライナ侵攻を止めるうえでの一歩を踏み出したものの、前途多難だ。

エネルギー施設への攻撃中止に関する今回の部分停戦案は、すでに3年間続くウクライナ紛争で初めて双方が停戦に合意する可能性がある点で、ある程度大きな意味を持つ。だが、完全な戦闘終結への道のりは遠い。

プーチン氏は全面的な戦闘停止の条件として欧米諸国による軍事・情報面での支援中断を求めているが、ウクライナおよび欧州の同盟諸国からすれば、こうした要求は到底受け入れ難い。

1994年ブダペスト合意でウクライナ核兵器を放棄し、見返りとしてロシアやアメリカなどから領土の保証を約束された。だが、結果としてウクライナは核を失ったに過ぎず、2022年2月にロシアから再びの侵攻を受けている。

そのためゼレンスキー氏としては、もはやプーチン氏の約束は信頼できない。今回の停戦案に関しても、西側からの武器・情報の供与を絶たれるのみに終わり、いずれまた侵攻を受けるとの読みが働くだろう。

トランプ陣営はこの動きを「平和実現に向けた第一歩」と評価しているが、米国内では「ウクライナに厳しく、プーチンに甘すぎる」という批判も出ている。エネルギーインフラ攻撃停止が真の和平交渉への最初の一歩となるか、それともロシアに有利な単なる時間稼ぎに終わるのか。4年目に突入したウクライナの悲劇を止めるうえで、今後の交渉の行く末が注目される。

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青葉 やまとあおばやまと
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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2017年1月28日にワシントンで電話するドナルド・トランプ大統領(左)と、2023年12月27日にモスクワで電話するロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右)。 – 写真=AFP/時事通信フォト

(出典 news.nicovideo.jp)

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