【社会】「おにぎりブーム」どこまで続く? コメダ・象印・3COINSが飛び込む“具だくさん”の世界
【社会】「おにぎりブーム」どこまで続く? コメダ・象印・3COINSが飛び込む“具だくさん”の世界
数年前から続く「おにぎりブーム」。その火付け役と言われているのが、1960年創業、東京・大塚駅前にある「おにぎりぼんご」(以下、ぼんご)だ。2017年頃から長蛇の列ができる人気店となり、ぼんごに着想を得たおにぎり専門店も増えている。
ぼんごが唯一出店を認めたという「おにぎり こんが」(以下、こんが)も2021年11月の1号店開業時より順調に拡大が続き、2025年4月初旬時点で7店舗まで増えている。
そんななか、コメダホールディングス(HD、名古屋市)が「おにぎり専門店」事業に参入。新業態「おむすび 米屋の太郎」(以下、米屋の太郎)を、2025年2月に東京1店舗、埼玉2店舗の計3店舗開業した。
ブームの影響で競合店が増えるなか、コメダはどんな戦略で売っていくのか。2月22日にオープンした1号店「新宿センタービル店」を現地取材。さらに、国内外のおにぎりの普及に取り組むおにぎり協会の代表理事 中村祐介氏と、「こんが」を運営するFBIホールディングス社(横浜市)の合田正伸社長に、「おにぎりブームの現状と展望」を聞いた。
米屋の太郎では、注文が入ってからつくる“結びたて”をこだわりとする。主役のお米は、全国の米どころの個性をかけ合わせた、おむすびのためだけのブレンド米を使用。のりは食感や風味のいい愛知県鬼崎産の優等級海苔を採用している。
ラインアップは全23品で価格は150~580円。「紅しゃけ」「おかか」といった定番のほか、差別化戦略として「天むす」や「味噌ヒレカツ」「うなぎ」などの名物を使った「名古屋おむすび」も5種類そろえる。
コメダでは、東京、神奈川、愛知で展開する和喫茶「おかげ庵」のモーニングで2015年におむすびの提供を開始しており、今では人気メニューに成長。米屋の太郎は「その系譜を受け継いで、コメダらしいこだわりを詰め込んだ新たなくつろぎの場として誕生した」という。
米屋の太郎は、2月22日に「新宿センタービル」、2月26日に川口市の商業施設「樹モール」、2月28日に大宮駅東口近くの商業施設「大宮門街」に、それぞれ店舗をオープンした。
大宮東口店はテークアウトのみ、樹モール店はイートインも可能だ。新宿センタービル店はおかげ庵を併設しており、おかげ庵のイートインで一部のおにぎりを食べられるようにした。
オープンして1カ月ほど経過した4月初旬の平日午後1時頃に新宿センタービル店を訪れたところ、オープン当初の混雑が緩和されたのか、お客は1~2人ほど。その場で注文して数分で商品を受け取れた。モバイルオーダーを使えば、さらに待ち時間が減らせそうだ。
併設するおかげ庵にも立ち寄ってみると、店内利用率は3~4割と空いていた。両店がオープンして10日後のタイミングでコメダに取材を打診した際は、「来店客数が非常に多いため、安定した店舗運営を優先する目的で新規の露出を見送っている」との回答だったが、徐々に落ち着き始めたのかもしれない。
おかげ庵で、日替わりおむすび2個ときしめん(ハーフサイズ)のセット商品を注文して、おにぎりを食べてみた。サイズ感はコンビニのおにぎり(約100~120グラム)よりやや大きめな印象で、ご飯の旨みやふんわり感とたっぷりの具材が特徴的だった。
これは筆者の感想だが、人気店「ぼんご」のおにぎりを連想させる味わい。ぼんごほど具材の味の濃さやインパクトはないまでも、割としっかりした味付けだった。テークアウトした名古屋おむすびの天むすも、エビのプリッとした食感やダシの旨みなど本格的な仕上がりだった。価格は決して安くはないが、口コミを見る限り、味の満足度は高いようだ。
●象印や3COINS、大手が続々参入
おにぎり協会の中村氏に、コメダのおにぎり専門店参入への見解を尋ねると、「おにぎりの需要は世界的に急増している。コメダのような飲食店に限らず、雑貨の3COINSや家電の象印マホービンなどもおにぎり専門店を展開している」と、すでに多くの競合が参入している現状に触れた。
調べてみると、3COINSを展開するパルグループホールディングス(大阪市)では、2025年2月初旬に「3COINS 原宿本店」でおにぎりを販売開始。全国の郷土料理をテーマにした「スリコオニギリ」全10種類を扱う。
「にんじんしりしりー」「鮭のちゃんちゃん焼き」「いぶりがっこ&クリチ」など、メニューはバラエティーに富んでいる。価格は「だしむすび」が270円、それ以外は324円だ。
3COINSの公式Xの投稿では「原宿本店限定」と書かれていたが、報道によると、武蔵小山の商店街の中でも「スリコオニギリ」が販売されているという。
象印マホービン(大阪市)では、2022年4月、阪神梅田本店内におにぎり専門店「象印銀白おにぎり」をオープン。五ツ星お米マイスター・金子真人氏が厳選したオリジナルブレンド米を、同社の高級炊飯ジャー「炎舞炊き」で炊き上げ、おにぎりにして提供する。
30~50代の女性をメインターゲットに、月替わりで玄米やもち麦などが選べるほか、見栄えのいい「創作おにぎり」も扱う。価格は206~368円。2025年9月上旬には、大阪市にある商業施設「コムズガーデン」内にも「象印銀白おにぎり 京橋店」を出店予定だ。
さらに、2024年4月からは、おにぎりを世界にむけて発信する「ONIGIRI WOW!(オニギリ・ワウ!)」プロジェクトも開始。2025年4月13日~10月13日まで、大阪・関西万博で、ロボットが握ったできたてのおにぎりを販売する。
大手の参入は、競合店にはどう映っているのか。こんがの合田社長は、現在の物価高騰の状況を踏まえ「あまり激しい競争にはならないだろうと感じている。いつの間にか増えてきたなぐらいのペースで、他社のおにぎり店も出店していくのでは」と見解を話した。
こんがでは、ここ数カ月で新店舗の開業が続いており、2024年11月に「羽田空港国内線第3ターミナル店 」が、12月に名古屋市中村区に「名古屋本店」と神戸市中央区に「神戸元町本店」がオープンした。名古屋と神戸元町は、こんがにとって初のフランチャイズ店舗となる。
「新店舗を含めて好調が続いています。名古屋と神戸の店舗は、平日はオフィスワーカー、週末は家族連れやカップルの方が多く訪れます。神戸はすぐ近くに大丸があるので、大丸での買い物後にお土産として購入される女性も目立ちますね。最も売れ行きがいい羽田空港の店舗は、現在も1日当たり2000~2500個を販売しています」(合田氏)
●国内外のおにぎりブームは続くのか
ここ数年で多くの企業がおにぎり市場に参入しているが、「今後は淘汰されていくのでは」と、おにぎり協会の中村氏は言う。
「他の飲食ビジネスと同様に、シンプルにおいしい、または消費者に支持される仕組みができている店が生き残り、話題性だけで開店したような店は長続きしない、という前提があるでしょう。そのため、国内外のおにぎり人気は続くけれど、専門店が増加するわけではないと考えます」(おにぎり協会 中村氏)
こんがの合田社長は2024年10月の取材時、「おにぎりは原価が高く、当社の場合は具材にこだわっているので仕込みの人件費も高くつく。とはいえ、消費者にとってはコンビニのおにぎりの価格が基準となっており、売価を上げにくい。結果としてもうからない」と明かしている。
トレンドの行方について聞くと、「海外のおにぎりブームは加速していくと思う。 一方で、国内では米の高騰により、一旦ブームが落ち着くのではないか」と見解を示した。
海外でのおにぎりブームについて、中村氏は具体例を挙げて需要増に言及した。
「英国の『オックスフォード英語辞典』は、2024年3月に『Onigiri』を追加しました。ファッションブランドのFENDI(フェンディ)は、2024年のウィンタークリスマスコレクションから、おにぎりをモチーフにしたミニバッグを発売しています。また、欧州や北米で30代の日本人たちがおにぎり専門店を開業し、注目を集めています」(おにぎり協会 中村氏)
海外でオープンしたおにぎり専門店には、米国・イリノイ州シカゴの「Onigiri KORORIN」(オニギリコロリン)やドイツ・ベルリンの「Tokyo Gohan」(トーキョーゴハン)などがある。オニギリコロリンは地元メディアで紹介され、人気店になっているようだ。
国境を超えて広がるおにぎりブーム。米の価格高騰が叫ばれるなか、その需要は今後も続くのだろうか。
(小林香織)
