【国際】なぜインドは「誰とも組まない」?ロシアとの武器取引から見える“世界第4位の軍事大国”の戦略

【国際】なぜインドは「誰とも組まない」?ロシアとの武器取引から見える“世界第4位の軍事大国”の戦略

「誰とも組まない」というインドの選択は、冷戦時代の影響や地域的な安全保障環境を考慮した結果だと感じます。特に、ロシアとの関係を重視しつつも、新たな同盟を形成することを避ける姿勢には、インドの独立性と戦略的判断が色濃く反映されています。今後の国際情勢の変化がどのようにインドの戦略に影響を及ぼすのか、興味深いです。

 いま、インドパキスタン両国のあいだで戦争が起きかねない状況になっている。インド政府は5月7日早朝、パキスタン領9カ所を攻撃したと発表した。両国をめぐっては先月末、カシミール地方のインド支配地域で観光客がイスラム過激派の武装集団に殺害されるという事件が発生し、緊張が高まっていた。

 10日、互いに攻撃を即時停止し、停戦することで合意したが、国境では依然にらみあいが続いており、予断を許さない状況だ。なぜインとパキスタンの関係は急速に悪化したのか?

 高校チュータイ外交官として知られ、『13歳からの国際情勢』を上梓した島根玲子氏にその理由を解説してもらった。

(本記事は、『13歳からの国際情勢』より一部を抜粋し、再編集しています)

インドとはどういう国か

 インドとはどのような国かをまず見てみましょう。

 何よりもまず、インドは大きな国です。面積は日本の8.7倍、世界第7位の面積を誇り、人口は中国を抜き世界第1位となりました。その数14億3千万人ほど。

 世界の人口はおよそ82億人ですので、世界の5.7人に1人はインド人ということになります。

 インドにはたくさんの民族がいて、それぞれ違う言語で話します。国としての公用はヒンディー語ですが、このほか21もの言語が公認されています。

 インドの宗教はどうでしょう。インド国民の約8割がヒンドゥー教徒で、今の首相であるモディ首相もそのひとりです。

 多数派を占めるヒンドゥー教徒の一方で、国民の14%がイスラム教徒です。14%というと数字の上では少数派ですが、なにせインドは人口の多い国です。14億人の人口のうち14%というと、その数は2億人近くになります。

 この数は、世界最大のイスラム教国家・インドネシのイスラム教徒の数(約2億4千万人)と同規模ですので、インドにもたくさんのイスラム教徒がいるということがわかります。

 このように、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が共存していることから、宗教の違いによる問題も、今のインドでは生じています。

◆誰とも組まないインドの外交

 インドの外交姿勢についてもみてみましょう。

 インドは外交理念として、「非同盟主義」を挙げています。これは、どこの国とも組まないという意味で、「全方位外交」とも呼ばれます。

 日本はアメリカと同盟を結んでいて、日米同盟を軸に外交を展開するというスタンスですが、インドにはそのような軸となる同盟国はありません。

 どこの国とも組まず、その都度インドにとって何が一番いいのか考えながら外交していく、という手法です。

ご都合主義」とか「したたか」などと表現されることもありますが、目まぐるしく変わる世界情勢の中で、自国の利益を最大限に追求していくという、インドなりの外交手法です。

 たとえばロシアとは、同盟こそ結んでいませんが、伝統的に近い関係にあります。その理由のひとつが武器の輸入です。

 インはロシアからたくさんの武器を輸入していて、武器の調達に関してロシアを頼りにしています。

インドが中国との国境で直面する課題

 インドは、3500kmにわたり国境を接する中国と国境紛争を抱え、軍事衝突も起きています。

 日本の北の端から南の端までの距離が約3300kmですので、インドがいかに長い距離を中国から防衛しなくてはいけないかがわかります。

 インドとしては、そんな大きな問題を中国との間で抱えている中で、ロシアまで敵にまわってしまったら大変と考えているのでしょう。

 さらに、ロシがウクライナに侵攻してからというもの、インはロシアから安い原油をたくさん買っています。

 ウクライナ侵攻をきっかけに、日本や欧米諸国がロシアに対して制裁をかけたので、ロシアの原油の値段は下がりました。

 しかし、インドは欧米がしているこの対ロシア制裁に参加していません。そこで、ロシアへの制裁に加わっていないインドは、価格の下がったロシア産の原油を多く輸入しているのです。

 これはまさに、欧米諸国とも組まずというインドの全方位外交が、インドに利益をもたらしているいい例といえます。

◆孤立する外交政策に伴う高いコスト

 しかし、こうした方法はとてもコストがかかります。どことも同盟を組まないということは、誰も助けてくれないということなので、自分のことは絶対に自分で守らなければいけません。

 インドのように中国と長い国境線を共有し、隣国のパキスタンとの間で問題を抱えるような国が、自分だけで自分のことを守るのは大変なことです。

 実際インドの軍事費は、アメリカ、中国、ロシアに続いて世界第4位で、その額は日本の2倍近くの規模です。このように、孤高の戦士でいるのには、それなりのコストがかかるのです。

 では、その軍事費がかさむひとつの原因となっている隣国パキスタンとの関係とはどのようなものなのでしょう。

インドパキスタンの関係はどのようなものか

 インドを語るときに忘れてはならないのが隣国のパキスタンです。インとパキスタンはもともとひとつの帝国で、イギリの植民地でした。

 インがイギリスから独立したのは1947年8月15日ですが、実はその1日前、8月14日に、パキスタンが独立しています。

 まるで競うように独立していることからも、両国のライバル関係がうかがえます。

◆両国の対立を生んだカシミール問題

 インとパキスタンは長年対立関係にあります。その大きな理由の一つが、カシミール地方の帰属問題です。

 イギリの植民地であったインド帝国には、およそ600の藩王国があり、それぞれに藩王という人がいました。独立にあたり、それぞれの藩王国は、インかパキスタンのどちらに属するのかという判断を求められました。

インドパキスタンに挟まれたカシミール地方は、住民の大多数(約3/4)はイスラム教徒だったのですが、藩王がヒンドゥー教徒だったため、独立の際にインドへの帰属を決めました。

 これに黙っていなかったのがカシミール地方に住むイスラム教徒です。インドへ帰属することに対して、イスラム教徒の住民が反対し、それはインとパキスタンの戦争にまで発展しました。

 その後、インとパキスタンは3度にわたり戦火を交えたのですが、カシミール問題は未だ解決していません。

 このような背景から、カシミール地方では、インドからの分離独立を目指す武装勢力によるテロも起き、住民が被害にあう事件も起きています。

 このように、インとパキスタンに挟まれるカシミール問題は、長年解決していない問題のひとつです。

〈文/島根玲子〉

【島根玲子(しまね・れいこ)】
1984年埼玉県生まれ。高校時代に2度の留年と2度の中退を経験。一念発起して大検を取得後、青山学院大学文学部に進学。早稲田大学法科大学院を経て、2010年に司法試験および国家公務員Ⅰ種試験に合格。2011年に外務省入省後、スペイン駐在を経て、中南米外交やアジア外交に携わる。外交官として働く傍ら、国際情勢やキャリア設計についての講演活動も行う。著書に『高校チュータイ外交官のイチからわかる! 国際情勢』がある。

(出典 news.nicovideo.jp)

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