【社会】路上生活に追い込まれる「妊婦」も…「難民申請者」取り巻く厳しい状況、支援団体はどこまで持ちこたえられるか

【社会】路上生活に追い込まれる「妊婦」も…「難民申請者」取り巻く厳しい状況、支援団体はどこまで持ちこたえられるか

妊婦が路上生活を余儀なくされるという現状は、我々の社会が抱える深刻な問題を浮き彫りにしています。

難民申請している外国人の一部が路上生活に陥っている。緊急性の高い妊娠中の女性も、国の委託を受けて公的支援をおこなうRHQ(アジア福祉教育財団難民事業本部)の保護費を得られず、支援団体のシェルターを転々としている。

祖国から迫害を逃れて来日した外国人たちと日々向き合っている団体のスタッフや、個人の支援者は、彼・彼女らが置かれた厳しい状況について、そう話す。

コロナ禍の入国制限が解除された2022年10月以降、難民申請者の数は増加し、2023年は1万3800人強、2024年も申請者の数は1万人を超えるとみられている。

1981年の難民条約批准から44年。国際条約に基づく難民庇護制度が国内で確立されない中、日本の難民支援の現場では、住居、食糧、医療、そして法的支援まで、その多くを民間の支援団体が担っている。

当事者を、そして支援団体を取り巻く現状はどうなっているのか。生活困窮者支援の延長線上で外国の人を支援する「つくろい東京ファンド」(つくろい)に聞いた。(取材・文/塚田恭子)

●2、3年後には、仮放免者や被監理者が1万人を超える

公的支援を受けられず、就労も認められない状況が続けば、支援団体も困窮者を支えきれず、路上生活に追い込まれる仮放免者や難民申請者はさらに増えるのではないか。昨年5月の取材時にそんな懸念を示していた「つくろい」の大澤優真さんはこう話す。

「昨年以降、よかったのは、日本生まれの子どもたちに在留特別許可が出たことです。ただ、それも該当者全員に出たわけではなく、難民申請者や仮放免者の厳しい状況は変わっていません。中でも健康保険に加入できない仮放免者は、難病を抱えていても具合が悪くても通院を我慢する、悲惨な状況が続いています。支援団体は寄付をかき集めていますが、どこまで持ちこたえられるか、不確定な中で支援を続けています」

仮放免者や難民申請者の住居や医療費を寄付や助成金によって工面している支援団体は現在も綱渡り状態だという。だが、2、3年後は今以上に大変になるのでは、と大澤さんは続ける。

「2023年の難民申請者は約1万4千人、認定者数は過去最高の303人、認定率は約3%でしたが、その8割以上はアフガニスタンミャンマーの人でした。難民申請の結果が出るのは3、4年後です。却下されても帰国できない人は日本に留まり、仮放免者や被監理者の数は今後も増加するでしょう。

仮放免者が4000人ほどの今でさえ、当事者はもちろん、支援団体も音を上げかけています。国が難民認定するか、在留特別許可を出さない限り、その数は積み重なり、2、3年後、仮放免者や被監理者は1万人、2万人になる。その前に手を打たなければ、名古屋の入管収容施設で命を失ったスリランカ女性ウィシュマさんや、収容施設内で自殺に追い込まれた方のような、悲しい事件が起きてしまうと思います」

●妊娠中の女性が「路上生活」に陥る

2024年11月29日、難民支援協会、つくろい、反貧困ネットワークの3団体が、難民申請者への唯一の公的支援である「保護費」の予算増額を求めて政府(出入国在留管理庁)に申し入れた。その後、約2400万円が補正予算で計上されているが、住居不足の抜本的な改善には至っていない。

難民申請者の中でも緊急度の高い妊娠女性をサポートしているつくろいのスタッフの武石晶子さんは、2024年9月末に来日して難民申請した女性のケースについてこう話す。

「来日直後にRHQに連絡した彼女は、すぐに保護費申請のためのインタビューを受けています。RHQから返事が来るまで複数の団体を回り、つくろいに辿り着きました。それまでに路上生活もしていましたが、申請は11月初旬に却下されてしまいました。2009年にRHQの予算が枯渇したときでも、妊婦と子どもは却下されず、2023年までは申請から2、3カ月で保護費が出ていたので、この却下には各支援団体が驚きました。

結果が出たのが移住連の省庁交渉(*)の前だったので、その席で大澤さんが現状を伝えると、外務省の担当官も驚いて『一般論ではあるけれど、妊婦は最優先です』と回答しました」

11月11日の省庁交渉後、支援団体はRHQに外務省の担当官の名前を伝え、緊急性をうったえると同時に、各所に相談。妊娠中の女性への保護費が年明け1月6日に決まったときは、一同胸をなでおろしたいう。ちなみに保護費の申請は次の手順で進められる。

「まずRHQに電話を入れ、電話による聞き取り日時が決まります。この聞き取りのあと、申請書類を受領できますが、受領まで2カ月要することもあります。申請から受給まで数カ月から半年かかるように、保護費受給のハードルは高く、時間もかかるのが現状です」(武石さん)

もう一つ、申請者にとってハードルとなっているのが、インタビューに支援者の同席が認められない点だ。

「みなさん日本語ができないので、基本はオンラインで通訳がつきます。ただ、たとえばアフリカ圏出身でフランス語を話せる方でも、母語でないフランス語で込み入った話をするのは容易ではありません。言葉の問題から、電話で自身の状況をきちんと伝えることを諦めてしまう方も少なくないと思います」(武石さん)

●頼みの綱の困窮者自立支援制度も……

もともと生活困窮者の支援を起点に、その枠組みの中で外国の人たちを支援しているつくろいは約60のシェルターを持ち、その3分の1ほどを難民申請者や仮放免者にあてている。

「当初、申請から3カ月後にはRHQの保護費が決まるだろうと、家賃を負担してきましたが、始めてすぐ、想定通りに保護費が出ないことがわかり、私たちも厳しくなっています。昨年末、本当にお金が尽きかけたとき、たまたま寄付をいただくことができて支援は継続していますが、クラウドファンディングや助成金の申請によって、この冬を乗り切ろうとしています」(大澤さん)

難民申請者や仮放免者の家賃や光熱費はつくろいが払っているが、ここ2、3年の物価上昇を受け、シェルターの諸費用は値上がりしている。今まで無料だったファシリティも有料化され、団体の負担は大きくなっているという。

「住まいは基本的な人権」を理念に活動するつくろいでは、難民申請者の住居について、国(行政)と民間の、2つの方向で考えている。

「公的には、生活困窮者自立支援制度のシェルター事業があります。厚生労働省(国)は『この制度は国籍や在留資格を問わず、誰でも利用できる』といっています。

ところが自治体に行くと、『在留資格のない人は使えません』と言われてしまうんです。シェルターを利用できれば、入国間もない難民申請者の住居問題が改善されますが、これも”外国人支援あるある話”で、国はOKでも、現場はノーという。

自治体の方にとって、難民申請中の路上生活者という存在は”想定外”ということも、理由の一つかもしれません。ただ、最近の路上生活者は年齢、性別、国籍なども多様化しているので、もう少し間口を広げてほしいと思います」(大澤さん)

外国人支援団体の前には、特定の民族を攻撃する「ゼノフォビア」によるバッシングという壁もある。

だが、難民申請者・仮放免者の実情を知ってもらうことも支援者の役目です、と大澤さんは言う。また、全国で約900万戸といわれる空家問題も顕在化していることから、今後は空家利用も視野に入れていると続ける。

「雨漏りするような物件だと修繕費が高すぎて難しいですが、みなさん、いろいろな意味で自立しているので、建物さえあれば、何とかできる人は多いと思います。

もう一つ、これは行政の話ですが、兵庫県尼崎市では生活困窮者の居住支援として「あまがさき住環境支援事業」(REHUL/リーフル)プロジェクトをおこなっています。老朽化した公営住宅の空き室を支援団体が丸ごと借りて、住宅に困っている人に空き室を提供する。支援団体が間に入ることで住居を提供するこの尼崎システムが、全国に展開されることを期待しています」

●支援団体が国の役割を担っている

外国の人たちの諸々手続きにも同行している大澤さんと武石さんは、各自治体や病院による対応の温度差も肌で感じている。

「難民認定申請書は多言語対応していますが、自治体はサイトも書類も日本語のみのところが多く、多言語対応されていません。練馬区武蔵野市ではオンライン申請もできるようになりましたが、行政書類はPDFで置かれていて、自動翻訳しにくかったりします。予算や人材不足などハードルはあるのでしょうが、こと難民に限らず、多国籍化している現実への対応が進めばと思います」(武石さん)

「特定活動」や「特定技能」の対象を拡大するなど、増加を続ける在留外国人の数は2024年6月末時点で約359万人。人口の約30人に1人は、外国籍者という現実に日本社会は対応しているとは言い難い。

生活保護をはじめ、行政の制度に精通している大澤さんは、使える制度は使うというシンプルな権利が、日本人・外国人を問わず、今はまだあの手この手で弾かれているという。

「指定病院であれば、入院助産制度は外国の人も利用できるはずなのに、蓋を開けると使えませんと言われてしまう。こうしたことは生活保護でもありがちな話で、難民問題も、日本社会の困窮者問題に組み込まれていると感じます。

最終的に支援団体がなくなっても構いませんが、なくなることで救えない命が増えるとしたら、それは問題です。残念ながら、今は支援団体が国の役割を担っているので潰れるわけにはいきません。

でも、本当は私たちが緊急支援をやらなくてよい状況になって、料理教室や文化交流など楽しいことができるようになるのが理想ですね」

*)省庁交渉……移民、移民ルーツをもつ人々が抱える課題について移住連が省庁とおこなう年2回の交渉で、20年以上続いている。

●一般社団法人つくろい東京ファンド 「市民の力でセーフティネットのほころびを修繕しよう」を合言葉に、都内で生活困窮者支援をおこなってきた団体のメンバーが集まり、2014年6月に設立。住まいに関する支援事業を柱のひとつにしている。難民・仮放免者をホームレスにさせないための支援に取り組んでいる大澤さんと武石さんの活動は、2024年6月8日、ETV特集『あなたの隣人になりたい ~“難民”の人びとと歩む~』で紹介された。

路上生活に追い込まれる「妊婦」も…「難民申請者」取り巻く厳しい状況、支援団体はどこまで持ちこたえられるか

(出典 news.nicovideo.jp)

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