【国際】旅行が一瞬で台無しになる…海外紙が警告「アメリカの空港で続く”スマホ検査”の異様な実態」
【国際】旅行が一瞬で台無しになる…海外紙が警告「アメリカの空港で続く”スマホ検査”の異様な実態」
■トランプ政権下で厳格になった入国審査
旅行に最適なゴールデンウィークが到来する。アメリカ旅行や、アメリカの空港で入国を伴う乗り継ぎを計画されている方は、スマホのデータの護身術を覚えておきたい。
ワシントン・ポスト紙によると、空港で入国審査を実施する税関・国境警備局(CBP)職員からスマホのロック解除を求められ、中身を調べられるケースが増加している。トランプ政権下で入国審査が厳格化され、デバイス内のデータチェックが強化されているためだ。
入国審査場で「二次検査」に選ばれると、旅行者は別室に案内される。そこでCBP職員から「デバイスを検査する必要がある」と告げられ、スマホやラップトップのロック解除を求められる。
CBPの検査には主に2種類ある。第1段階の「基本的な検査」では、係官が直接デバイスを操作し、プライベートな写真やメッセージ、ブラウザ履歴などを目視で確認する。特別な機器を使わない検査であり、疑いを向ける合理的な根拠が特段なくとも実施できることになっている。
■第2段階ではスマホのデータを吸い上げられる
第2段階は「高度な検査」で、専用の機器をスマホに接続してデータを吸い上げる。削除されたファイルの復元や暗号化データの解析も可能だ。高度な検査は通常、「合理的な疑い」がある場合に実施されるが、「国家安全保障上の懸念」が生じた場合にも適用できる例外規定が存在する。事実上、あやしいと直感されれば、誰でも検査の対象となるおそれがある。
高度な検査で抽出されたデータは、米政府のデータベースに15年間保存される。このデータベースは、令状なしで多数のCBP職員が検索可能だ。つまり、一度高度な検査を受けると、写真、メッセージ、連絡先、ブラウザ履歴、SNSの投稿など、あらゆるプライベートな情報が15年間にわたってアメリカ政府のデータベースに保存され、多くの職員の目にさらされる状態になる。
入国検査は保安上必要なものだが、検査体制に行き過ぎがあるとして、多くのプライバシー専門家や市民的自由の擁護者から懸念の声が上がっている。
英ガーディアン紙によるとCBPは、2024年の越境者4億2000万人のうち約4万7000台の機器を検査したと述べており、その大部分が非米国民に対する検査だったという。割合としては約1万人に1台とわずかな割合だが、米著名テックメディアのライフハッカーは2016年度には1万9051件だったと指摘しており、件数としては8年間で2倍に増加した形だ。
■ドイツ人観光客を襲った46日間の拘留生活
検査はアメリカ国民も対象となるが、立場の弱い外国人旅行者の場合、さらに影響が大きい。ビザや事前申告制度のESTAで入国する外国人(日本人を含む)は、スマホ検査を拒否すれば、アメリカへの入国そのものを拒否される恐れがある。
ところが、堂々と検査を受けたところで、ほとんど難癖とも取れる理由を付けて問題にされるケースがあると報じられている。英ガーディアン紙は、フランス人科学者がスマホを検査され、トランプ批判のメッセージが見つかったことを根拠に、入国拒否された事例を報じている。単なる個人の見解を綴ったメッセージが、アメリカの脅威になり得ると判断された。
さらに、ニューヨーク・タイムズ紙は、ドイツ人観光客で29歳女性のジェシカ・ブロシェさんがアメリカ入国時に拘束され、強制送還された事例を伝えている。46日間拘束されたうえ、国外退去処分となった。
タトゥーアーティストのブロシェさんは、サン・イシドロ国境検問所で拘束された。彼女は多くの日本人観光客がするのと同様に、ESTAのシステムで入国申請を済ませたうえで旅行していたという。だが、入国時、荷物の中にタトゥーを彫る機器があることを指摘された。これにより、アメリカ国内でタトゥーアーティストとして働く意図があると誤解された可能性があるという。
ブロシェさんはサンディエゴの収容センターに送られた。当局は「数日間」拘束すると伝えたが、実際には「入国を拒否された後、9日間独房に入れられた」という。その後も彼女は、6週間以上収容センターに留置された。
友人は「何が起きているのか分からず、それだけで彼女は発狂しそうだった」とニューヨーク・タイムズ紙に語る。「彼女はそこにいる間、ほとんど眠れず、夜中に泣いていたんです」。ブロシェさんは46日間の拘束の末、ようやくドイツに戻ることができた。
■英語が聞き取れないばかりに…鎖で繋がれ収容所へ
同じくドイツからの観光客で25歳男性のルーカス・シーラフさんも、拘留された一人だ。彼はアメリカ人パートナーのタイラー医師に会うため訪米した。2人はティファナに車で向かい、戻ろうとした際、国境検問所で止められた。
ドイツ人のシーラフさんは、国境管理官が英語で行う質問を完璧に聞き取ることができなかった。係官が居住地について質問した際、不法にアメリカに住んでいるとも取れる回答になってしまったという。その後、彼は尋問室に連れて行かれた。
シーラフさんはドイツ語の通訳を要求したが拒否された。最終的に作成された尋問の報告書は、彼の発言を正確に反映しているとは言い難かったという。ニューヨーク・タイムズ紙の取材に、「私はここに住んでいない、90日以内にドイツに戻ると言ったのに、彼らは聞いてくれなかった」と語る。
尋問後、アメリカへの再入国を拒否され、他の検査対象者と一緒に鎖でつながれた。外では、パートナーのタイラー医師が係官と必死で掛け合っていた。しかし、彼女の車が捜索されることになり異議を申し立てると、彼女も職員に拘束され、屈辱的な身体検査を受けたという。
「生まれて初めて手錠をかけられました」とタイラー医師は語った。身体検査の後、彼女もしばらく鎖でつながれ、後に解放された。
一方、シーラフさんは国境検問所で2日間拘束された後、収容所に移送された。そこでは2週間、他の収容者8人と一緒の部屋に入れられた。最終的にはタイラー医師の尽力で、「自主的な国外退去」という穏便な扱いで解放された。だが、退去費用に2744ドル(約40万円)を要したという。
外国人旅行者はアメリカ入国時、脆弱な立場にある。政治的なメッセージをとがめられたり、通訳の同席を許されず言語の壁からあらぬ誤解が生まれたりと、長期の拘束につながる危険性が潜んでいる。
■「顔認証」と「パスコード」は捜査権限がまったく違う
私たちが観光や出張など商用でアメリカに入国する場合、どのような準備ができるだろうか。正当な入国審査は受け入れるべきだが、根拠のない疑いをかけられて強権的にスマホを調べられ、プライバシーを侵害される事態は避けたい。
ガーディアン紙は、入国前の対策として最も重要なのは、生体認証(顔認証・指紋認証)をオフにし、パスコードのみに切り替えることだと説く。顔認証と異なりパスコードは、アメリカ憲法修正第5条の保護対象となる可能性が高い。
法的には、パスコードは入国者が「知っていること」であるため、証言と同等の扱いとなり、開示しない権利が認められる可能性がある。だが、顔や指紋は「所持しているもの」、すなわち物理的証拠とみなされ、強制的に提出を求められる(すなわち、顔や指紋認証でスマホを解錠させられる)場合がある。
■2秒でスマホを最高のセキュリティレベルに
具体的な対策としてはiPhoneの場合、設定アプリの「Face ID とパスコード」から「Face ID によるロック解除」をオフにできる。
もし事前にこの処置を忘れていた場合でも、とっさの対応は可能だ。単純にiPhoneの電源を切るか、再起動したあとパスコードを入力しないでおく。電源ボタンとどちらかの音量ボタンを2秒ほど押し続ければ、どんな場合でもすぐに電源オフのスライダーを表示できる。
電源オフまたは再起動の後、まだパスコードを一度も入力していないiPhoneは、最もセキュリティの高い状態にある。このモードはBFU(Before First Unlock)と呼ばれ、一時的に顔認証・指紋認証を受け付けなくなり、パスコードでのみ解錠できる。
さらに、ほぼすべての内部データがファイル単位で暗号化されており、専門の機器を使った場合でもデータの抽出が困難となる。なお、一度でもパスコードを入力すると、AFU(After First Unlock)と呼ばれる通常のセキュリティレベルに戻る。
Androidも設定アプリから指紋認証や顔認証を無効にできる。Androidは近日、3日間ロック状態が続くと自動的に再起動を行い、高いセキュリティレベルの状態へ移行する機能の実装を予定している。
■入国目的と一致しない情報がねらわれる
このように入念な対策が推奨されている理由は、特にやましいことがなかろうと、一方的な嫌疑を掛けられるケースが多発しているためだ。
移民弁護士のマイケル・ワイルズ氏はニューヨーク・タイムズ紙に、「(仕事用ソーシャルメディアの)LinkedInを『求職中』のステータスにしていて、それだけで拘束された人もいます。ディズニーランドや結婚式に行くだけではない(就労目的である)という証拠になるのです」と説明している。
同紙によると、入国審査官は主に、申告された入国目的と実際の行動が一致するかを確認している。観光ビザで入国しようとする人の端末からアメリカでの職探しを示唆する情報が見つかれば、入国拒否の理由となる可能性がある。
さらに入国審査官は、ソーシャルメディアのアカウントや削除操作をしたメールの復元を要求することもあるという。休会したソーシャルメディアのアカウントが見つかれば再度アクティブ化するよう求め、内容を入念に検査することもある。
■日本人旅行者も無縁ではない
このような厳格な入国審査とスマホの検査は、日本人を含むすべての外国人旅行者が対象に選ばれる可能性がある。観光目的で訪米する場合でも、プライバシーの塊であるスマホの内容を徹底的に検査され、内容次第では曲解されて入国拒否に至るリスクが存在する。
特に、政治的な意見や批判的なコメントがソーシャルメディアやメッセージアプリに残っている場合、入国審査で問題視される可能性があることは意識した方が良いだろう。審査の不正な回避を推奨する意図はないが、あらぬ誤解を招かないための自衛策として、不要なデータの削除やクラウドへの一時退避、生体認証の無効化などは検討に値する。
アメリカは人気の旅行先であり、今年もゴールデンウィーク前後には大勢が渡航するとみられる。それだけに、楽しいはずの渡航が台無しにならないよう、事前の護身が有効となるだろう。入国時のトラブルを最小限に抑え、有意義な時間を過ごしたい。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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