【国際】銃撃事件で死亡した被害者をAIで蘇らせ、法廷で陳述(アメリカ)

【国際】銃撃事件で死亡した被害者をAIで蘇らせ、法廷で陳述(アメリカ)

AI技術が進化する中で、銃撃事件の被害者が法廷で証言するという形で蘇るという出来事は驚きとともに、多くの議論を呼んでいます。

 2021年、アメリカ・アリゾナチャンドラーで発生した銃撃事件で、37歳のクリス・ペルキーさんは命を落とした。

 その3年半後となる2025年、死から蘇った彼が再び法廷に現れることになる。AI生成によって「復活」した姿で被告人、ガブリエル・ホルカシタスに語り掛けたのだ。

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ロードレイジ:運転中の怒りにまかせた銃撃事件

 この事件は2021年11月13日に発生した。

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 クリス・ペルキーさんと加害者であるガブリエルオルカシタスが赤信号で停止中に、オルカシタスがペルキーさんの車に対して繰り返しクラクションを鳴らした。

 これに反応したペルキーさんが車を降りてオルカシタスの車に近づいたところ、オルカシタスが2発発砲し、そのうちの1発が致命傷となった。

 ホルカシタスはクリスさんを撃った後、救急キットを目撃者に渡して手当を頼み、自分は車に戻ったという。

 ホルカシタスは、クリスさんが自分を殴ろうとしたため撃ったと証言していた。

 運転中の怒りにまかせた暴力事件であることから、アメリカでは「ロードレイジ事件」と呼ばれている。

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AI生成した「被害者本人」が陳述を行う

 2025年5月初め、アリゾナ州の裁判所で、ある事件の判決公判が行われた。その際、被害者の男性による陳述が行われたのだが、現れたのは本人ではなく、その姿が映し出された映像だった。

 彼は映像の中でこう語った。

こんにちは。まず最初に、これをご覧になっている皆さんにはっきりとお伝えしたいのは、私はクリス・ペルキーのAIによる再現バージョンです。

この映像は、私の写真と声のプロファイルをもとに作られました。今日私はデジタル技術によってよみがえり、こうして皆さんと共有できる機会を得ました。

私が現実の世界でどんな人間だったのかについて、少し触れておきたいと思います。ぜひご覧ください

 そう、実は被害者のクリス・ペルキーさんは既に死亡しており、この日公判に姿を見せることはできなかった。

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 だが彼の姉妹であるステイシー・ウェールズさんが用意した、AI生成による彼の映像が、被害者本人による陳述として法廷に流されたのだ。

生前のクリスさん本人(左)とAIによって生成されたクリスさん(右)

銃撃事件の犠牲者の遺族が生成AIで動画を作成

 この「AI生成されたクリスさんに陳述させる」というアイデアは、もともとは彼の姉妹であるステイシー・ウェールズさんが、自分自身の陳述書を準備している時に思いついたものだった。

判決を言い渡す前に、判事は49通の陳述書に目を通すことができました。ですが、その中に一つ欠けているものがありました。陳述書の中にない声が一つだけあったんです

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 それは被害者であるクリスさん本人の声だった。そこでステイシーさんは、最愛の兄弟自身に陳述の機会を与えたいと思うようになった。

 ステイシーさんと夫のティムさんは共にテクノロジー業界で働いており、以前ある企業のコンファレンスで、CEOや創業者のAIによるレプリカ映像を作った経験があった。

 そこで公判を前に、同じ方法でクリスさんを映像としてよみがえらせてみることにしたのだ。

クリスさんの遺影を前に語るステイシーさん(左)

「被害者自身」がAIの力を借りて語り出す

 だがそのプロセスは、技術的な観点からすると非常に骨の折れる作業だった。

世の中には、「はい、これが音声ファイルで、これが写真です。これに命を吹き込んでください。そして言いたかったことを言わせてください」なんてことが簡単にできるツールなんて存在しません。

だからみんなあっちのツール、こっちのツール、また別のツールと試行錯誤を重ね、台本や音声、画像をつなぎ合わせて、どうにかして「愛のフランケンシュタイン」を作ろうとしてくれたんです

 大切なのは、クリスさん本人が言いたかったであろうことを、AI生成のクリスさんに語らせること、そして陪審員に共感してもらうことだった。

どのくらいの刑期を望んでいるかとか、犯人を許すかどうかとか、私には私なりの考えや感情があります。

でも、それをAIのクリスに代弁させるのは違うと思いました。私の気持ちをクリスの言葉として語らせないように、距離を取って、「彼」自身に語らせることが重要だったんです。

クリスの口からなら出てくるけど、私の口からは決して出て来ないような言葉が、そこにはあったんです

 クリスさんはかつてアメリカ陸軍の歩兵部隊に所属していた軍人で、バグダッドやアフガニスタンに3度従軍した経歴を持つ。

 退役後は地元の教会で積極的に活動し、国内外への宣教活動にも精力的に取り組んでいたという。

 こうしたクリスさんのバックグラウンドを取り込んで完成したAI生成のクリスさんは、まさに生前の本物のクリスさんならこう言ったであろう言葉を紡いでいた。

 こちらが実際の映像で、生成AIが創り出したクリスさんだ。

AI version of dead Arizona road rage victim addresses killer in court

 動画の中で、AIのクリスさんは次のように語っている。

皆さんこんにちは。今日はお集まりいただき、本当にありがとうございます。こうして皆さんが集まってくださったことに、言葉では言い尽くせないほど感謝しています。

私のために声を上げてくださった方、遠方から飛行機で来てくれた方、お仕事を休んでくださった方、リモートで見てくださっている方、そしてこの3年半、2度の裁判の間、ずっと僕の家族や大切な人たちを支えてくださったすべての方に、心から感謝します。本当なら、皆さんと同じ場所にいたかった。

ラング判事、再延期された裁判の日程が、娘さんの春休みと重なってしまったにも関わらず、この裁判を最後まで見届けてくださり、ありがとうございました。

今日ここで語られた声の数々に耳を傾けてくださったこと、そしてこれ以前に届けられた、私のために多くの方が書いてくださった陳述書を読んでくださったことにも感謝します。

その一つひとつに意味があり、それぞれが私とその方の人生を垣間見させてくれました。

そして、私を撃ったガブリエル・ホルカシタス被告へ。あの日、あの状況で出会ってしまったことは、本当に残念です。もし違う人生で出会っていたら、きっと私たちは友達になれていたかもしれません。

私は「赦し」と、それを与える神を信じています。昔からずっとそうですし、今でもそれは変わりません。

家族へ、そしてこれまで出会ってきたすべての人たちへ。楽しかったよ。私はいつも楽しんでいた。

どうか、お互いに愛し合うことを大切にしてください。人生がどれだけ続くかは、誰にもわかりません。だからこそ、一日一日を大切にして、自分の人生を生きてください。つまづくことがあっても大丈夫。神様があなたを支えています。

「年をとること」は、誰もが得られる贈り物じゃありません。だからそれを受け入れて、シワを気にするのはやめましょう

法曹界には危惧する声も

 この「AI生成された被害者による陳述」は、アメリカの法曹界に大きな波紋を投げかけた。

 クリスさんの裁判を担当したラング判事は、肯定的に受け止めたようだ。

AIで再現された映像、私はとても感動しました。ありがとう。ご遺族がどれほど怒っているか、その怒りがどれほど正当なものかも、私はよくわかっています。

でもその中に、私は確かに「赦し」の気持ちを聞きました。それは本物の赦しだったと、私は感じました

 また、元連邦判事でデューク大学法科大学院の教授でもあるポール・グリム氏は、次のように語っている。

私はこの裁判にAIが使われたことには驚きませんでした。アリゾナ州の裁判所は、既にほかの用途でAIを活用し始めています。

例えば州の最高裁判所が判決を下す際、その判決内容を一般の人々が理解しやすい形にするためにAIシステムを利用しているのです。

今後はケースバイケースでAIを活用していくことになるでしょう。この技術は避けられないものなのです

 とはいえ、AIがこのような形で裁判にかかわることを危惧する人たちも少なくない。

 カーネギーメロン大学ビジネス倫理学の教授であるデレク・レーベン氏は、AIの使用とこのケースが作る前例に対して懸念を示す。

私は(クリスさんの)家族の意図や行動に疑問を持ってはいませんが、すべてのAIの使用が被害者の希望に沿うわけではないことを危惧しています。

もし今後他の人がこの方法を使おうとする場合、私たちは常にその人自身、今回のケースでは被害者ですが、その本人が望んだことに忠実でいられるでしょうか?

 さらにアリゾナ州立大学の法学教授ゲイリーマーチャント氏は、AIで生成した証拠を法廷に提出しようとする者が増える可能性について警告する。

司法関係者や弁護士の間では、ディープフェイクの証拠がますます使用されることへの深刻な懸念が広がっています。そういったものは簡単に、誰でもスマホで作成できるからです。

そして非常に強い影響力を持つ可能性があります。なぜなら裁判官も陪審員も、私たちと同じように、目で見たものを信じることに慣れているからです

 ステイシーさんは最後に、次のように話していた。

クリスをAIで再現することは、私たち家族にとって癒しでした。公判で映像が再生された後、私の14歳の息子はこう言いました。

「作ってくれて本当にありがとう。もう一度クリスおじさんの声を聞いて、姿を見たかったんだ」

 そしてAI生成のクリスさんは、最後の最期にこんな言葉を残したという。

さて、これから釣りに行ってくるよ。みんな大好きだよ。あちら側で会おう!

 なお、ラング判事はホルカシタス被告に対し、殺人罪では無罪、過失致死罪で懲役10年6ヶ月を言い渡したが、弁護団は既に控訴したそうだ。

image credit: X @AwkwardMamaNews[https://x.com/AwkwardMamaNews/status/1920458031651041336]
AI video of Chandler road rage shooting victim used during hearing

References: Arizona road rage victim speaks to killer through artificial intelligence[https://ift.tt/Iitam53victim-speakskiller-through-artificial-intelligence] / AI of dead Arizona road rage victim addresses killer in court[https://ift.tt/vP4GLxIragevictim-ai-chris-pelkey]

本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。

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(出典 news.nicovideo.jp)


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