【国際】プーチンの本当の狙いはウクライナの領土ではない…元駐日露大使が明かす「戦争終結後の大統領プラン」の全貌

【国際】プーチンの本当の狙いはウクライナの領土ではない…元駐日露大使が明かす「戦争終結後の大統領プラン」の全貌

元駐日露大使が語るプーチン大統領の真の戦略には、驚かされるばかりです。表面的にはウクライナの領土拡大を狙っているように見えますが、実際にはより大きな目的が隠されています。

ウクライナでの戦闘をめぐって、トランプ次期米大統領が「即時停戦」を訴えている。どうすればプーチン大統領を止められるのか。元外交官の東郷和彦さんは「相手理解なしに交渉は進みようがない。『プーチン悪玉論』に終始するのではなく、まずはロシアの論理を正確に知るところから始めるべきだろう」という。元駐日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏との対談から、その一部をお届けする――。

※本稿は、アレクサンドル・パノフ、東郷和彦『現代の「戦争と平和」 ロシアvs.西側世界』(ケイアンドケイプレス)の一部を抜粋したものです。

■ロシアは現状をどう認識しているのか

【東郷】ウクライナ戦争の結果、国際秩序は大きく変化しつつあります。ロシアは新しい国際秩序をどう考えていますか。

【パノフ】ロシアは特別軍事作戦で、プーチン大統領が当初設定した目標に加え、長期的な目標も達成しようとしています。具体的には、欧州だけではない新しい集団安全保障システムを構築することです。

欧州安全保障協力機構(OSCE)が設立されて以来、欧州の安全保障はこのシステムに基づいて構築されてきました。もともとロシアはこのユーロ・アトランティック・モデルを基礎とし、新たな歴史的状況に照らして改革を進めることが必要だと考えていました。しかしソ連崩壊後、これが実現不可能なことが明らかになりました。

いまロシアはユーラシア大陸を一つの大陸と捉え、ユーラシア安全保障システムを構築することを提案しています。ラブロフ外相が述べたように、モスクワと北京はすでにそのような構想について話し合いを始めています。

■プーチン大統領は「独裁と暴力の原則に断固として反対」

【東郷】ロシア指導部は未来をどう見ているのでしょうか。

【パノフ】プーチン大統領は2023年10月5日、ヴァルダイ国際フォーラムで講演し、ロシアの未来の世界像と国益について次のように説明しました。

ロシアは独裁と暴力の原則を公言する人々に断固として反対します。ロシアは万人のために平等と正義を保証する国際秩序を支持します。

すべての国家の利益のために普遍的な安全保障を確立し、ブロック化や植民地時代の遺産から国際関係を解放することが重要であると考えています。多極化した世界は、多様性と集団的意思決定に基づいて構築されるべきです。

■「欧州は『新たな鉄のカーテン』を降ろそうとしている」

【パノフ】また、国連は変わらなければなりません。

世界でますます重みを増している国を安全保障理事会に加える必要があります。

その中にはインドやブラジル、南アフリカが含まれます。世界の急激な変化にともない、国際法もそれに沿ったものに変えていく必要があります。

そのような世界秩序を築くには、多くの時間と努力が必要です。現時点では、アメリカと西側諸国は自らの利益を守ることを優先し、世界の多極化に対応する準備ができていません。

欧州はその主権をほとんど失い、アメリカに従属する立場に甘んじています。欧州のエリートは、自分たちの中から自国の国益のために戦える指導者を生み出せなくなっています。欧州はロシアを囲い込み、事実上「新たな鉄のカーテン」を降ろそうとしています。

これがロシアの現状認識です。

■ロシアにとって「ウクライナ侵攻」とは何か

【東郷】パノフさんが今日の国際状況をどのように見ているか、改めて教えてください。

【パノフ】ロシアの特別軍事作戦は、第二次世界大戦後、もっと言えば冷戦終結後の最初の数十年において確立された世界秩序を全面的に見直し、根本的に崩壊させるプロセスの始まりであると言われています。

しかし、このプロセス自体は以前から始まっていました。ウクライナでの出来事はそのプロセスを加速させ、今後の方向性をある程度決定づけただけです。

世界秩序を再構築するプロセスが始まったのは、ソ連崩壊からです。冷戦の勝者と自任するアメリカは、彼らの見方によれば、リベラル・デモクラシーによって国際社会の新たな構造を創造し、その指導者になることを決意しました。

ブッシュジュニア大統領が2001年に「我々でない者は我々に敵対する」と言ったのは偶然ではありません。同じテーゼは、2024年2月のミュンヘン安全保障会議で、ブリンケン国務長官によって繰り返されました。それは、各国は既存の世界システムのテーブルにつくか、メニューに載るかの選択をしなければならない、というものです。つまり、テーブルにつかなければ食料として消費されるということです。

アメリカは自らの偉大さを信じ、自らの可能性を過大評価していました。そして、自らが確立した法と秩序にしたがって一極世界を構築し始めました。

しかし、アメリカは国際社会に自分たちのイデオロギーを押しつけることに失敗しました。アメリカン・ドリームが多くの国の賛同と支持を得られなかったことが主な原因です。

■冷戦崩壊後、多極化が進む世界

【パノフ】アメリカとソ連という硬直した二極世界が崩壊したあと、多くの国は覇権国の顔色をうかがうことなく、自国の主権をより断固として主張し、自国の国益のために行動し、その可能性を生かしたいと考えるようになっています。

グローバリゼーションの結果、それまで世界経済の中で重要な位置を占めてこなかった国々が急速に発展し始めたのですから、なおさらです。中国やインド、ブラジル、イランなどを見れば明らかでしょう。

アメリカは彼らの政策に不満を持つ国々を、自国の軍隊で、あるいは同盟国と連合を組んで鎮圧したり(たとえばイラクアフガニスタン)、第二線から、つまり同盟国の背後から攻撃したり(たとえばリビアユーゴスラビアに対するNATO諸国の武力行使)、さらにカラー革命を利用することで、多くの国で親米政権を誕生させてきました。

しかし、こうした行動は期待された効果をもたらしませんでした。アメリカの介入は至るところで破壊や混乱、不安定化、そして新たな世界的脅威の出現をもたらしました。ISISの出現がまさにそうです。

アメリカは唯一の超大国として残ったものの、事あるごとにその弱さを露呈してきました。アフガニスタンから米軍がパニックになりながら逃亡したことが、その最たる例と言っていいでしょう。

■今後世界はどうなっていくのか

【東郷】アメリカは今後どうなっていくでしょうか。

【パノフ】アメリカは唯一の世界的リーダーとしての役割を果たすことができず、大小を問わず世界のすべての国に、主権の尊重を基礎とする新しい世界秩序を形成するように促すことができませんでした。

国際社会では、自分たちの自由な選択によって自国の問題を解決する平等な権利が保障されていないことに不満が高まっています。それが現在の世界政治において非常に複雑な状況を生み出しています。

米中央情報局(CIA)のリチャード・バーンズ長官は2024年に議会で証言し、アメリカはもはや世界において無条件の支配力を持たないことを認めました。そのため、アメリカではどんな犠牲を払ってでもこの力を取り戻すことが目標になりました。

しかし、このようなアプローチをすれば、世界にグローバルな破局がもたらされることになるかもしれません。

昨今では権威主義的なアメリカのリーダーシップに賛成できない国々が、新しい公正な世界秩序を構築するための独自のアプローチを考え始めています。その一例がBRICSです。

■ロシアから見た「アメリカの姿」

【パノフ】BRICSは過去1年間で加盟国を2倍以上に増やしました。いまや人口と経済規模で世界の多数派を占めています。

まだ十分に組織化されていませんが、その主な目的は外部の圧力から国益を守ることです。BRICSは世界秩序の歴史的舞台から後退しつつある既存の秩序に対する挑戦となっています。

もう一つの例は、ロシアの多極世界構想と中国の「一帯一路」構想です。これらは互いに矛盾するものではなく、十分に両立可能です。

アメリカとその同盟国は経済力と金融の力に立脚し、大規模な制裁をはじめ様々な圧力をかけることで自分たちの立場や経済的利益を守ろうとしていますが、これは異常で不公正な振る舞いです。

これを排除することを可能にする具体的な行動がすでにとられているのです。

【東郷】今後、世界はどこに向かっていくと思いますか。

【パノフ】現在、国際社会では分裂と競争、対立と矛盾が拡大しつつあります。世界秩序の将来を予測することは極めて困難であり、新しい秩序ができるまでに多大な時間と労力を要することは明白です。

にもかかわらず、多極的な世界秩序に向けた動きは始まっています。

現段階では、アメリカはNATOとウクライナでの出来事を利用し、ヨーロッパ支配を維持することに全力を注いでいます。

■なぜアメリカはNATOを解散しないのか

【パノフ】ソ連が崩壊し、NATOとワルシャワ条約機構の対立が消滅したあと、NATOの存在意義は失われました。しかし、NATOを解散させるどころか、NATOの部隊と組織をロシア領土に可能な限り近づける戦略がとられました。

ロシアの安全保障に対する恒久的な脅威をつくり出し、それによって包括的な封じ込めを行うことが目標とされたのです。

NATOが崩壊すれば、アメリカは軍事面だけでなく外交面でも欧州をコントロールする強力な手段を失い、欧州大陸で米軍を維持することができなくなります。

ある意味、アメリカは世界に残された最後の帝国であり、主に欧州を支配し、アジアでは同盟国である日本や韓国、オーストラリアを支配してきました。

ウクライナでの出来事は、アメリカにとってヨーロッパ支配を維持するチャンスです。彼らはこのチャンスを最大限生かすつもりなのです。

インド太平洋地域では、アメリカは意図的に朝鮮半島と台湾周辺に緊張関係をつくり出し、それを高い水準で維持しています。これはアジアの同盟国を支配するためでもあります。

世界規模ではアメリカの政治力と権威はどんどん小さくなっていますが、経済的、軍事的な資源は依然として大きく、世界各地で米軍のプレゼンスが維持されています。

■西側の中露政策はどうなっていくのか

【東郷】ロシアと西側の対立はどうなるでしょうか。

【パノフ】結論から言うと、ロシアと西側の対立は長期にわたって続くでしょう。ロシアに対する制裁も、ウクライナ紛争がどのような形で終結するかにかかわらず、継続されるでしょう。

アメリカと欧州の中国封じ込め政策も、現在と違った形になったとしても維持されると思います。

アメリカよりヨーロッパのほうが中国との経済協力に関心があるので、アメリカの封じ込め政策のほうがより厳しく、欧州のほうがより柔軟なものになるでしょう。

世界の軍事的・政治的緊張が緩和されるとは思えません。

中東情勢は悪化しており、他の地域でも紛争が起こる可能性があります。国際社会は危険で不安定な状態が続いています。今後、緊張が拡大する可能性もあり、それを抑え込むのは極めて困難になるかもしれません。

軍事費が増大し、武器の生産は増加し、軍拡競争が進められ、軍産複合体が巨大利益をあげる一方、社会的ニーズや環境保全、気候変動、伝染病の予防や対策といった普遍的問題を解決するために配分される資源は少なくなると思います。

ロシアとアメリカ及びEUの関係は、歴史的な観点から見れば、これまでと同じレベルになることはないでしょう。それでも欧州諸国がロシアとの関係正常化を目指す可能性は否定しませんが、ポーランドチェコバルト諸国などの「若いNATO加盟国」は反ロシア政策を維持するでしょう。

■「ロシア・中国・アメリカ」の三角関係は

【パノフ】NATOとロシアの戦争が直近において起こるとは思いません。しかし、緊張関係は残ります。いずれ関係が改善されるときが来るかもしれませんが、それでもウクライナ危機以前には戻らず、互いに不信感が残るはずです。

近い将来、ロシア・中国・アメリカの三角形の関係が、国際関係と国際政治の発展を大きく左右するでしょう。

中国とロシアはアメリカの封じ込め戦略にもかかわらず、漸進的な発展を続けています。

IMFが2024年4月16日に発表した予測によると、中国のGDP成長率は2024年は4.6%、2025年は4.1%です。すでに中国の工業生産はアメリカの2倍になっています。また、ロシア指導部は2030年までにGDPで世界第4位になることを目標に掲げています。

多極化した世界が生まれるまでには長い時間がかかりますし、その間に様々な同盟や連合が生まれるでしょう。それらの同盟や連合は公然と対立しなくても、自国の利益を確保するために競争し、争うはずです。これが私の近未来に関する見通しです。

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東郷 和彦(とうごう・かずひこ)
静岡県立大学グローバル地域センター客員教授
1945年生まれ。1968年東京大学教養学部卒業後、外務省に入省。条約局長、欧亜局長、駐オランダ大使を経て2002年に退官。2010年から2020年3月まで京都産業大学教授、世界問題研究所長。著書に『歴史と 外交 靖国・アジア・東京裁判』(講談社現代新書)などがある。

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アレクサンドル・パノフアレクサンドル・パノフ)
元駐日ロシア大使
1944年モスクワ生まれ。1968年ソ連外務省入省。ソ連外務省太平洋東南アジア局長、ロシア外務省アジア太平洋局長、駐韓国ロシア大使などを経て、1994年にロシア外務次官。1996、モスクワ国立国際関係大学で政治学博士号を取得。同年から2003年まで駐日ロシア大使。その後、ノルウェー大使、ロシア外交学院長を経て、現在はモスクワ国立国際関係大学教授、アメリカ・カナダ研究所上席研究員。日本での著書に『不信から信頼へ 北方領土交渉の内幕』(サイマル出版会、1992年)、『雷のち晴れ 日露外交七年間の真実』(NHK出版、2004年)などがある。

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ウラジーミル・プーチン大統領。2024年12月24日、ロシア、サンクトペテルブルク – 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

(出典 news.nicovideo.jp)

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