【社会】今国会で皇位継承問題の議論はどこまで進むか…皇室研究家が「何らかの進展が期待できる」と話す根拠

【社会】今国会で皇位継承問題の議論はどこまで進むか…皇室研究家が「何らかの進展が期待できる」と話す根拠

皇位継承問題は、単なる法律的な視点だけでなく、国民の心情や皇室への敬愛の念とも深く結びついています。皇室研究家の意見をつねに注視しながら、今国会での議論が如何に進展していくのか、その動向に注目したいですね。特に、若い世代がこの問題にどのように関心を持つかも重要です。

1月24日に始まる通常国会では、皇位継承に関する協議が再開される見通しが出てきている。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「衆議院議長に額賀福志郎氏が再選されたのは、昨年、頓挫してしまった皇室制度の改正に政府・与党が引き続き取り組む意思を持っていることを示しているのではないか。しかし、そもそも各党協議が挫折したのは、議論の土台となる有識者会議の報告書があまりにもお粗末すぎるためだった」という――。

■皇室制度の改正に向けた動きが再始動

1月24日から通常国会が始まる。今回の国会で注目したい一つは、長年の懸案だった皇室制度の改正をめぐり、何らかの進展がある可能性が浮かび上がっている点だ。

昨年12月27日に衆院の額賀福志郎議長と玄葉光一郎副議長が会談し、今年の通常国会で各政党・会派の意見集約を図り、「立法府の総意」の取りまとめを目指すことで一致したという(朝日新聞DIGITAL令和6年[2024年]12月29日公開「皇位継承の意見集約、来年通常国会目指す 衆院正副議長が一致」)。このテーマで、重い責任を負う衆院の正副議長の考えが一致した事実は小さくない意味を持つ。

それに加えて、単に正副議長の合意というだけのレベルを超えた、もっと大きな背景を持つはずだ。

■正副議長合意の背景

そもそも昨年の衆院選後に額賀議長が再選されたのは、いささか異例だった。近年では、大島理森元議長が上皇陛下のご退位を可能にする皇室典範特例法制定に向けて立法府の総意の取りまとめを進めるために、選挙後に再選された前例がある。

それを考えると、額賀氏の議長再選は昨年、頓挫してしまった皇室制度の改正に政府・与党が引き続き取り組む意思を持っていることを示しているのではないか。

一方、玄葉氏はかつて野田佳彦内閣当時、全期間を通じて閣僚であり続けた政治家だ。その玄葉氏がこの度、野党第1党の指定席と言うべき副議長に就いたのは、立憲民主党の野田代表の強い期待を背負ってのことと考えられる。

野田氏は、首相在任当時みずから「女性宮家」の創設を検討課題としたように、皇室制度改正への関心が深く、責任感も持っている。

そのような背後の事情を視野に入れると、正副議長が通常国会での意見集約を目指すことで一致したというのは、政府・与党と立憲民主党が共有しているスケジュール感を映し出しているだろう。

■去年の各党協議が挫折した理由

昨年、衆参両院の正副議長が呼びかけて、皇室制度の改正をめぐり、全政党・会派が一堂に会した協議の場が持たれた。しかしそこでは、ただ各党派がそれぞれ意見を述べ合っただけで、合意形成に向けた歩み寄りはなく、たちまち行き詰まってしまった。

この時は額賀議長が前のめり過ぎて、参院側との足並みを揃えることができなかったという、失敗もあった。だがそれ以前に、政府・与党が議論の土台に据えようとしている有識者会議の報告書の中身が、以下にも述べるようにあまりにもお粗末すぎるためだった。

その昨年いったん挫折した各党協議が、月内に再開されるとの報道があった(読売新聞オンライン1月8日公開、「皇位継承巡る与野党協議、月内に再開へ…女性皇族の夫・子の扱いなど各党隔たり」)。

通常国会が終わる6月末までを、さしあたりゴールと見定める協議のゆくえは、どうなるのか。

■危機の原因は「男系男子限定」

まず目の前の皇室の姿はどうか。

次の世代を支える皇位継承資格者は、傍系の秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下ただお一方だけ。現に直系の皇女=敬宮(としのみや)(愛子内親王)殿下がおられるにもかかわらず、ただ「女性だから」というだけの理由で皇位継承のラインから除外されてしまう旧時代的なルールが、見直されることなくいたずらに放置されている。

その結果、皇室から皇族が減るばかりで、悠仁殿下のご結婚まで難しくなりかねない、危うい状態に陥っている。

この皇室の危機の原因は分かりやすい。明治の旧皇室典範で初めて採用された皇位継承資格を「男系男子」だけに狭く限定するという、そもそも側室制度とセットでしか維持できない“縛り”を、一夫一婦制のもとで少子化が進む社会状況にもかかわらず、そのまま“うっかり”維持していることだ。

このミスマッチな今の皇室典範の制度設計上の構造的欠陥こそが、最大の原因だ。だから解決策はいたってシンプル。男系男子限定ルールを解除してその欠陥を是正すればよい。それだけの話だ。

ところが政府も国会も、長年にわたってその是正を怠ってきた。問題の解決策はとっくに明らかになっているのに(「皇室典範に関する有識者会議」報告書、平成17年[2005年])、政治が果たすべき責任を回避し、“先延ばし”し続けてきたのだ。

本当は、上皇陛下のご退位を可能にした皇室典範特例法を制定した時(平成29年[2017年]6月)に、特例法ではなく皇室典範そのものの本則を改正して、退位という選択肢を恒久制度化するとともに、男系男子限定を解除して、皇位継承の安定化に向けたルールの変更にまで踏み込むべきだった。

しかし政府・与党は、皇室典範の本則改正を避けて特例法に逃げ込み、大切な安定的皇位継承という課題は、国会での附帯決議に盛り込むだけで、先送りしてしまった。

■有識者会議は論点をすり替えた

その後しばらくしてやっと内閣に設置された有識者会議(清家篤・座長、令和3年[2021年]3月〜12月)は、先の附帯決議で求められていた安定的な皇位継承策をまとめることが、本来の目的だったはずだ。

ところが報告書には、そのテーマについての提案がまったく含まれておらず、「白紙回答」だった。その代わりとして、皇族数の減少に目先だけ歯止めをかけるプランに、勝手に論点をすり替えてしまった。

このゴマカシはさすがに報道機関にも見抜かれているようだ。

たとえば共同通信1月13日に配信した記事では、見出しに「皇族数確保、国会議論再開へ……」とあって、これまでさまざまな報道で目くらまし的に横並びで使われていた“皇位継承”という言葉が、あえて避けられていた。同記事の詳細版に付記された「皇位継承」の解説では、とくに次のように触れられている。

「附帯決議は……速やかに安定的な皇位継承を確保するための諸課題などを検討し、国会に報告するよう政府に要請していた。政府の有識者会議は……報告書で『悠仁さま以降の皇位継承を具体的に議論するには機が熟していない』と切り離し、皇族数確保を喫緊の課題とした」

これまで私が繰り返し強調してきた論点のすり替えをストレートに指摘している(「切り離し」という少し強めの表現も見逃せない)。

■報告書のプランは無理があり現実味がない

しかも論点をすり替えた上で示された報告書のプランは、率直に言ってかなり無理があり、現実味のない内容だった。

報告書のおもな提案は次の2つのプランだ。

①これまで、内親王・女王が結婚されると皇族の身分を離れるルールだった(皇室典範第12条)。それを変更して、ご結婚後も皇族の身分を保持される一方、その配偶者やお子さまは国民(!)とする。
②皇室の方々が養子を取ることは禁止されている(皇室典範第9条)。だが、国民の中からいわゆる旧宮家系子孫の男性だけをその血筋・家柄=門地(もんち)を根拠に例外扱いして、特権的に皇族との養子縁組を可能にし、それによって皇族の身分を新しく取得できるようにする。

以上の2つのほかに③として、旧宮家系子孫男性を法律一本だけで国民から皇族にするという乱暴なプランも、提案されている。だが、昨日まで一般国民だった男性が、今の皇室とまったくつながりがない形で皇族になって、果たして国民にも皇室にも素直に受け入れられるのか、どうか。少しでも常識があれば分かるはずだ。

報告書自体も「②の方策に比べ、より困難な面がある」としているように、まともに取り上げるに値しない。

しかし③だけでなく、①②も国会での議論の土台になり得るレベルに達していない。昨年の全党協議が、たちまち暗礁に乗り上げてしまったのも、無理はなかった。

■「皇族と国民が一つの家族」という無茶なプラン

①は、「皇族と国民」という身分が違う夫婦・親子によって構成される、近代以降まったく前例のない家族を創出するとっぴなプランだ。もしそれが制度化されると、極めて不自然な家族が生まれることになる。

当たり前ながら、国民の家族はすべて国民であり、皇室の家族なら同じく皇族。つまり国民であれ皇族であれ、「家族は皆、同じ身分」だ。その近代以降の家族の構成原理を、根本から破壊する制度になっている。

そもそも、憲法は皇室の方々と国民に対して、まったく異なる位置づけをしている。皇室の方々には憲法第1章(天皇)が優先的に適用され、国民には憲法第3章(国民の権利及び義務)が全面的に適用される。

たとえば、憲法は天皇が国政にかかわる権能を否定しており(第4条)、ほかの皇族方もそれに準じた制約がある。一方、国民にはもちろん選挙権をはじめ、政治活動の自由が保障されている(第15条・第21条)。したがって、内親王・女王の配偶者やお子さまが国民という位置づけなら、その政治活動の自由を制限する根拠はないし、むしろ制限は許されない。

しかし社会通念上、家族は“一体”と見られがちだ。配偶者やお子さまがみずから自由に政治活動を行ったり、あるいは国民同士として接点を持つ何者かの政治活動に利用されたりした場合、それは内親王・女王ご自身の活動であったり、さらに皇室それ自体の活動と受け取られかねないのではないか。そうなれば、実際上の政治的効果としては、憲法が否定する国政権能を行使するにほぼ等しい。

かと言って、法的根拠もなく「無言の圧力」などで“国民の”憲法上の自由や権利を抑圧することは、決してあってはならない。よって難しいジレンマに直面する。

■憲法の仕組みを揺るがしてしまう

しかもこれは一例にすぎない。

憲法上、国民に保障されているその他の自由や権利、すなわち宗教活動の自由、集会・結社の自由、表現の自由、経済活動の自由などは、「国民統合の象徴」(第1条)である天皇およびそれに準じる皇族方のお立場とは、およそ両立できないだろう。

憲法は、皇族と国民が“1つの家族”を構成する事態を想定していない、と考えられる。①プランは、皇室に優先適用される「第1章」と国民に全面適用される「第3章」を、あえて“別立て”にしている憲法の仕組み自体を揺るがす、と言わねばならない。

そもそも当事者の内親王・女王殿下方ご本人が、そのようないびつな家族構成を受け入れられるのか、どうか。むしろ皇族の身分を離れて家族一緒に国民として暮らそうとされるとか、ご結婚自体に二の足を踏まれるケースも予想される。

先の報告書には、①について以下のように書き加えてあった。

「新しい制度とする場合でも、現在の内親王・女王殿下方は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは皇族の身分を離れる制度……のもとで人生を過ごされてきたことに十分留意する必要があります」

これは制度変更にともなう過渡的な措置として、当事者のお気持ちに配慮すべきことを示唆している。当然のことだろう。

■養子になる旧宮家子孫男性、養親になる皇族は実在するのか

②は、国民の中から旧宮家系という特定の血筋・家柄=門地の者だけを特別扱いするプランだ。なので、かねて「門地による差別」を禁止する憲法(第14条)に違反する疑いが指摘されている。これに対して、政府はいまだに説得力のある釈明ができないままだ(拙著『愛子さま女性天皇への道』94〜99ページ)。

しかも、旧宮家系の中で実際に対象になり得るのは、これまでに知られているところでは賀陽家・久邇家・東久邇家・竹田家の4家にとどまる。

その中に、養子縁組によって皇族になることに同意する人物がいるのか、どうか。いなければ強制できないし、してはならない。平成29年(2017年)当時の話として、政府が水面下で打診した結果だろうが、「いない」というのが安倍晋三元首相の認識だったようだ。

さらに、養子を受け入れる「養親」になることを同意してくださる皇族が、実際におられるのか。

こちらの対象になり得るのは、天皇ご一家と秋篠宮家は当然除外されるので、ひとまず“頭の体操”的な引き算の結果として、ご高齢のご夫妻だけの常陸宮家と、今のところ当主が不在で宮邸には瑤子女王殿下だけがお住まいの三笠宮家、久子妃殿下と未婚の承子女王殿下が同居しておられる高円宮家だろう。しかし、それらの方々のどなたかに養親をお願いするのは、普通に考えて無理ではないか。

■問題を解決し「愛子天皇」誕生を実現する方法

このように見ると、政府が国会に検討を委ねているプランは、一般常識に照らしておよそ無理で無茶としか思えない。このプランを土台に議論している限り、いくら各党間の協議を重ねても、失礼ながらまともな制度改正にはつながらないはずだ。

それよりも本来の課題に立ち返り、安定的な皇位継承を目指した方策を真正面から探るべきではないか。

こちらのアプローチなら、側室不在で一夫一婦制なのに「男系男子限定」という今の皇室典範が抱えるミスマッチ=構造的欠陥を取り除くことで、たちまち問題を解決できる。

その欠陥を是正して女性天皇を認めれば、「直系優先」の原則(皇室典範第2条)によって、令和の皇室で唯一の天皇、皇后両陛下のお子さまでいらっしゃる敬宮殿下が「皇太子」になられ、次の時代の天皇になられるという、多くの国民が願っている結論になる。

もとより、対立する意見がせめぎ合う政治の世界では、残念ながら一挙に百点満点の解決を求めることは難しいだろう。しかしさしあたり、少しでも満点に近い合意と、次の前進に確実につながる決着を望みたい。

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高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者
1957年岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/istock-tonko

(出典 news.nicovideo.jp)

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