【社会】学び直して起業も「シニア大学生」が増加中「それでも無償化は若い世代に100%割いた方がいい」
【社会】学び直して起業も「シニア大学生」が増加中「それでも無償化は若い世代に100%割いた方がいい」
「人生100年時代」になり、年を重ねてから学び直すシニアが増えつつある。早稲田大学は3年前、50歳以上を対象にしたコースを創設し、受験倍率が2倍以上になるなど人気を集めている。学生たちは「隠居するには早い」「キャリアをより充実させたい」と意気込む。
他の大学でも、退職後に学び直して、60代で“同期”と起業する人がいる。働き手としての高齢者の可能性は、今後もっと広がるのか。『ABEMA Prime』では、当事者である“シニア大学生”と考えた。
■中退した大学に定年後、再入学「やり残したことをやり遂げたい」
アサイラムさん(63)は、産業能率大学の3年生だ。21歳で追手門学院大学を退学し、アパレル・不動産業界で勤務。60歳で退職を機に「やり残した“大学卒業”をやり遂げたい」「残りの人生の選択肢を広げたい」と、大学を再受験した。63歳の現在は、卒業までの単位を取得済みで、行政書士資格をめざし受験予定だ。
学び直した理由は「大学をくだらない理由で辞めた後悔が残り、『いつか入り直したい』と思いながら、踏ん切りがつかなかった」と振り返り、「産業能率大には、60歳になると“シニア奨学金”が出る。そのタイミングで再入学して、仕事をしながら“シニア大学生”をしている」。
小学1年生と中学1年生の子を持つ親でもあり、「子育て世代で、働かなきゃ生きていけず、隠居という感じは全然ない」と語る。「若く見られるとは思うが、若い人たちと接していることが、プラスになっている面もあるかもしれない」。
60歳の定年が、ひとつの節目になった。「やりきった上で、次のステージを考えるいい機会になった。1年だけ再雇用したが、もういいかなと。(これまでの職場に残るより)次の仕事に行きたいなと感じた」。
■元ANAの女性役員が学び直して起業→また役員に
卜部美緒さん(62)は、学び直しを経て起業した。22歳で慶応大学文学部を卒業し、全日本空輸(ANA)に入社。一般職から総合職へ転換して、グループ企業の執行役員などを歴任する。59歳で情報経営イノベーション専門職大学に入学し、10・20代とともに経営やICTについて学び直した。そして61歳で、大学の40歳年下の“同期”と、メディア会社「MediAlpha」を起業した。
大学生活を通して「若い人から刺激を受ける」といい、「おばさんでも一緒に会社をやってくれる人に出会ったのはギフトだ」と喜ぶ。「通っている大学は『卒業までに全員起業』をうたっている。1年生で大学のプロジェクトに参加して、ビジネスプランまで書いた3人で会社を作った」。
ビジネスプランを見た学長から「会社にすれば」と提案されて、起業を決めた。仕事仲間とは「互いに戸惑いがあり、得意なこととできる・できないことを補いながら、リスペクトし合っている」という。「周りはデジタルネイティブだが、無理せず私に話を合わせてくれる。みんな親と仲が良く、近い感覚で話しかけてくる」。
学び直すにあたり、「若い人と交流する中で、自分の経験を生かせることがあれば、起業できたらいいな」と考えていた。「雇用延長しても、70歳で終わってしまう。ならば、ここでひと息入れて、リセットしようと思った。人生100年時代で、この先もまだ長い。次の10年、20年のために違う世界を見たかった」。
■年代関係なく“働き手”に 大学無償化は「子どもたち優先で」
近畿大学 情報学研究所 所長の夏野剛氏は、「日本では『ひとつの会社で長く勤めた方が幸せだ』と考えられているが、僕自身が複数の会社を渡り歩き、その度にリセットした経験からすると、キャリアチェンジがやりやすい社会になった方がいい」と提言する。
シニア大学生には、仕事に生かすために学び直す人も多く、それが若者の仕事を奪っているという声もある。しかし、夏野氏は「日本は働き手が足りないことが明確だ。人口が減り、インバウンドも増え、心配する必要がないのに、世代間対立をあおる声がでるのは良くない。『何歳でも元気だったら働く社会』でいい」と反論する。
シニア学生向けに、大学独自の支援も広がりつつある。産業能率大学では、満60歳以上に「シニア奨学金」として、半期分の授業料(10万円)を給付する。大阪商業大学の「シニア特別授業料減免制度」では、入学年度の4月1日の年齢×5000円を4年間減免。満65歳の場合は32万5000円が減免される。
世間では“大学無償化”に、シニア大学生も含めようとする声もある。しかし卜部さんは、「大学にはキャリアのために行く人もいれば、純粋に学び直したい人もいる。税金を使うのは理解が得られず、公費ではなく大学側が『定員割れするぐらいなら、学費を安くしてシニアを歓迎する』とした方がいい」と考えている。
その上で、「シニアはいろいろな働き方や考え方があるため、無償化は若い世代に100%割いた方がいい」と語る。アサイラムさんも、同様に「シニアだが子育て世代でもあるので、大学無償化は子どもたちを優先して欲しい」と求めた。
(『ABEMA Prime』より)