【国際】「特権視」されるアメリカ市民権とグリーンカード…「破棄したい人々」が増加しているワケ
【国際】「特権視」されるアメリカ市民権とグリーンカード…「破棄したい人々」が増加しているワケ
日本の税金の高さなどから、アメリカ市民権やグリーンカードを望む日本人が増えています。またアメリカの南の国境付近では、何十万人という不法移民がそれらの権利を求めています。ある種「特権」のように見られている一方で、アメリカ市民権やグリーンカードを破棄する人が増えています。なぜ、このような皮肉なことが起こっているのでしょうか。国際税務のプロフェッショナルが解説します。
「特権」を破棄する人が増えているワケ
アメリカ市民権保持者やグリーンカード保持者を、アメリカでの特権と見做す人は多いです。なぜそういった考えがあるかというと、それは彼らにしかできないアメリカ国内の金融取引や仕事があるからです。
一方で、そうでないと考える人もおり、アメリカ市民権やグリーンカードの破棄者が年々増加しています。
このように「特権」を破棄する人が多い背景には、近年のIRS(米国内国歳入庁)のアメリカ人に対する海外口座に対する取り締まりの厳しさがあります。
具体的には、提出書類が多いこと、その提出をしなかった場合の罰金が大きいこと、刑事罰を科された際に刑務所行きになるケースも多いこと…このような事情から戦々恐々としているアメリカ人納税者が多数います。
特に海外に移住するアメリカ人やグリーンカードホルダーにとっては、市民権やグリーンカードは必要ありません。しかし、保持している場合、どこの国に住もうと毎年アメリカで本人の全世界収入の申告が必要になります。アメリカ国外の銀行口座、証券口座、法人等への一定の投資持分があればその開示も必要になります。その報告書類が煩雑になるため、煩わしさから自然と破棄したいと考えるわけです。
「アメリカ人」の子どもは自動的に「アメリカ人」に…
ただし、破棄しようと思った際には移民法や税金の問題が乗りかかってきます。とくに厄介なのが税金の問題です。Exit Tax等の問題を真っ先に考えないといけません。
なぜなら、この問題は子どもにも影響してくるからです。アメリカ市民は、両親が外国人であったとしても子どもがアメリカで生まれた場合にはその子どもは自動的にアメリカ人になります。その後、自国に戻ったとしてもアメリカ人であり続けます(
さらに、両親のどちらか一方でもアメリカ市民権所有者かつその所有者のアメリカにおける居住期間が一定の期間を超えていれば、その子どもはアメリカ市民権者になります。
17歳未満のアメリカ人は特権の破棄を行えない…
上記のように、アメリカ以外の海外で生まれた子どもであったとしても、自動的にアメリカ人になってしまいます。アメリカ大使館や領事館への届け出は必要ありません。アメリカ人パスポートを持っていなくても、です。
さて、彼らの生活基盤はアメリカにはありません。しかし自動的にアメリカ人になってしまった彼らは、全世界の収入をアメリカで申告する必要があります。
これはとても厄介なことです(その点でいうと、日本は国籍に関係なく、日本居住者のみ確定申告の義務を負います)。
そのため、市民権を放棄したいと考えるわけですが、未成年がアメリカ市民権を破棄する場合には困難を極めます。アメリカの法律では、市民権は個人の権限にあたります。そのため、両親が本人に代わって破棄申請を行うことはできません。しかし、17歳未満の場合、そのような意思決定や的確な判断を行えないと定めており、簡単には市民権の破棄が行えないという現実があります。
日本ではかなりの日本人がアメリカ永住権の取得を望んでいます。日本の相続税・所得税の高さが主流の理由です。また、アメリカの南の国境で何十万人という不法移民がアメリカの市民権や永住権の取得を求めて流れ込んでいます。
しかし、一部にせよアメリカ市民権や永住権の破棄を希望する人が増えているのは皮肉なことです。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾