【国際】「息子が助かるなら、自分は処刑されてもいい」ロシアに送られた兵士を思う北朝鮮の親たち
【国際】「息子が助かるなら、自分は処刑されてもいい」ロシアに送られた兵士を思う北朝鮮の親たち
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、自身のX(旧Twitter)アカウントに、ロシア・クルスク州の戦場で捕虜となった北朝鮮兵士の動画を投稿した。
2005年生まれのこの兵士は、自らの所属を「偵察局2大隊1中隊所属」だと明かし、自分が派兵されたことを自らの母親は知らずにいること、そしてここ(戦場)に来ても戦う相手がウクライナ軍とは知らなかったなどと答えた。
(外部リンク:ゼレンスキー大統領が投稿した動画)
一方、北朝鮮国内には、自国の兵士が派兵されたことを知っている人が少なくないようだ。
当局は、国民の動揺を防ぐために情報を遮断してはいるものの、噂は各地に広がりつつある。軍隊に息子を送り出した親たちは、心配のあまり夜も眠れずにいるという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
中国との国境に接している会寧(フェリョン)では、ロシアに派兵された兵士が死地に追いやられつつあるとの噂が広がっている。
密輸や送金のため、中国キャリアの携帯電話を使って中国や韓国とやり取りしている人たちがこの情報を耳にし、それを別の人に話すことで、情報が広がっているのだ。
昨年11月ごろから「派兵された」との噂が出回るようになり、最近では戦死者や捕虜が出ているとの話も広がっている。情報筋の伝えた噂の内容とはこのようなものだ。
「全身血まみれで顔がパンパンに腫れて、誰だかわからないほどだった」
「目を開けたまま亡くなった、まだ幼い兵士もいた」
この噂を聞いた人びとは、「呆れて言葉もない」「塩漬けの大根と白菜ばかり(の貧弱な食事を)食べさせられ、戦場に送られ命の犠牲に強いられるなんて胸が張り裂けそうだ」などと、驚きと同情、そして怒りを示した。
中でも、自分の息子を兵役に取られている親たちは、この噂に激しく動揺し、不安とストレスに苛まれている。
「3年前に軍に入った息子が心配で、毎日心配で夜も眠れない。去年の末から息子と連絡が取れなくなっている。そのころからロシアに軍人が派兵されたとの噂が立ち、息子のことが心配で、水一杯ですら喉を通らない」(会寧在住の40代の市民)
「昨年末から軍に行った息子から連絡がなく不安だ。派兵のことを噂で聞いたが、(兵士は)誰もが自分の息子のように大切なのに、地獄のような国(北朝鮮)で生まれたばかりか、遥か遠くに連れて行かれて死ななくてはならないとは、天は無情だ」(会寧在住の50代の市民)
咸鏡北道の西隣の両江道(リャンガンド)でも噂が広がっている。
現地のデイリーNK内部情報筋は、道内最大都市の恵山(ヘサン)では、息子が戦場に連れて行かれたのではないかと戦々恐々としている親たちが少なくないと伝えた。中には、「自分たちが処刑されたり、追放されても構わないから、息子だけは逃げて命だけは助かってほしい」と口にする人もいるとのことだ。
息子が戦場から逃亡したり、捕虜になったりして、韓国に行くことを選択すれば、北朝鮮に残された家族には連座制が適用され、都市から寒村への追放、管理所(政治犯収容所)への収監など、重罰が科せられる。メディアに顔出しして、北朝鮮当局に都合の悪いことを話せば、家族はもはやまともに生きてられないだろう。それでも生き残ってさえくれれば自分たちはどうなってもいいという親心だ。
情報筋はそんな親たちに同情を示すと同時に、国に対して怒りをあらわにした。
「子どものためなら命も惜しくないというのが親といものだ。大切に育てた息子を外国の戦場で命を落とすことを望む親など、この世のどこにもいない」
「(国家は)親から息子を奪い取り、長期間、兵役を務めさせるだけでも飽き足らず、外国の戦場に追いやって命を犠牲にさせている。親たちが悲しみのあまり胸がつぶれるのも当然のことだ」
そんな親たちの間で、息子を戦場に追いやった国に対する不満と怨嗟の声が徐々に大きくなりつつあり、もはや家族の範囲を超えて大きな問題になりつつあると、情報筋は伝えた。