【社会】色恋営業禁止やスカウト規制で「悪質ホスト」は撲滅できる? 報告書評価を被害者支援弁護士に聞く
【社会】色恋営業禁止やスカウト規制で「悪質ホスト」は撲滅できる? 報告書評価を被害者支援弁護士に聞く
東京・歌舞伎町を代表格として全国に被害が広がっている悪質ホスト問題。1月24日に召集された通常国会で、警察庁は規制に向けた風俗営業法(風営法)改正案を提出し、成立を目指す予定だ。同庁が規制の方向性を示すため昨年12月にまとめた「悪質ホストクラブ対策に関する報告書」の評価と国会での議論でのあり方などについて、この問題にくわしい弁護士に聞いた。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●有識者の検討会で「報告書」はまとまった
報告書は、大学教授や弁護士などで構成する有識者検討会で取りまとめられた。昨年7月〜12月に計5回の検討会が開かれて、歌舞伎町商店街振興組合や被害者支援にあたる一般社団法人「青母連」なども出席し、事情を説明する機会もあった。
今回インタビューしたのは、青母連の理事で、刑事事件に多く関わっている渡邉美佳子弁護士。2023年7月に青母連が創立して以降、被害女性のトラブル解決に奔走し、時にホストクラブでホストと対峙することもあったという。
●ホストが提供する「疑似恋愛」が過度に行き過ぎている
――警察庁がまとめた報告書については、どう評価していますか?
全体的に非常にいい内容です。規制に関する着眼点も、現場で対応する我々が気になっている点を取り上げています。前向き、肯定的に評価しています。
特に、次の3点が注目ポイントです。(1)「色恋営業の禁止」、(2)「取り立て絡みで、売春や性風俗店で働かせることを禁止し、スカウトなどがキックバックをもらうことも規制」、(3)「店舗に対する罰金を大幅に引き上げる」になります。
――(1)「色恋営業の禁止」については、売掛金、立替金(前入金)の蓄積に関する規制で、「恋愛感情等につけ込んで客を依存させて高額な飲食等をさせるなどする行為」と報告書に記載されました。
ホストという職業は、来店した女性に対して、一定程度の疑似恋愛や恋愛じみたものを提供する職種かとは思います。しかし、過度に行き過ぎている状況です。
マッチングアプリでホストであることを隠して出会って親密になり、交際が始まってから明かす。自分を好きになってくれた状況を作り、「バースデーイベントで何百万が必要になった」と言ってくる。女性が無理だと断ると、「売上を作らなきゃいけないから一緒に居られない。別れてほしい」と迫る。
相手の女性は20代以下の若年女性がほとんどで、学生の場合はアルバイトぐらいしか収入がない。ホストが要求する資力はないため、2〜3割ぐらいの女性は消費者金融をギリギリまで回って数百万円を工面します。
ある女性はその額が約1100万円にもなり、経済的にも精神的にも追い詰められて、精神疾患を発症してしまいました。また、残りの多くは、売春や性風俗店での勤務に従事することになります。
●若年女性がスカウトと接点を持たないように法規制すべき
――(2)「売春や性風俗店で働かせることを禁止」につながる話ですね。報告書では「売掛金等の支払いのために、(中略)売春等の違法行為や性風俗での稼働等を求める行為」を規制すべき行為として考えられるとしています。
性風俗店勤務を仕事として積極的にしている方もいますし、それ自体を否定するつもりはありません。しかし、ホストから言われて、望まないかたちで入ってしまうと、性的な自己決定権など、自分の人権が踏みにじられる結果となる。
ある女性は、路上売春を始めると、そこで女性の仲間ができて、稼げる性風俗店を教えてもらえると言っていました。最初は軽い気持ちで始めても、どんどん深みにハマってしまうこともあります。
また、ホストが女性に性風俗店とつながっているスカウトを紹介している実態も問題です。
――報告書では「性風俗店を営む者が、スカウト等から求職者の紹介を受けた場合において、紹介料等として対価を支払うことを規制することが考えられる」とあります。
女性は、ホストに紹介されたスカウトから「風俗店に提案するために必要だ」と個人や身体についての情報や写真を求められます。その結果、顔や体のスタイルがはっきりと分かる写真を、スカウトに保存されてしまう。店が決まると、そこでの稼ぎはスカウト経由でホストに把握されます。すると、ホストから「今月、余裕あるだろ。もっと俺に使えよ」となるのです。
スカウトは、トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)とのつながりが指摘されています。トクリュウは、特殊詐欺を稼ぎの一つにしており、個人情報や顔、身体などの写真が把握されている女性が、受け子や出し子にされてもおかしくありません。
若年女性とスカウトが接点を持たないような法規制をしていくべきです。
●上限200万円は「ホストクラブへの罰金」としては安すぎる
――(3)「店舗に対する罰金を大幅に引き上げる」は、報告書では「『無許可営業等をするのは割りに合わない』と思わせる程度にまで罰則を強化すべき」と書かれており、報道では億単位になるともされています。
現行の風営法では、無許可営業や名義貸しをした場合などに、刑事処罰を受ける可能性がありますが、法に規定されている罰金の最大額は、200万円です。シャンパンタワー1回で、数百万円を女性に支払わせていることから考えると、ホストクラブへの罰金としては安過ぎます。
ホストは個人事業主で、店とホストは業務委託契約を結んでいます。ホストが問題を起こし、私たちから請求を立てたとしても、雇用関係にないから責任はないと店は逃げてしまう。自浄作用が働きにくい構図にあります。
問題を起こせば店にも相応の罰金が科されるとなれば、店がホストを教育する動機にもなるし、遵法意識も高まるかもしれない。私は特に新たな被害者を生まないための有効な対策の1つとして、この(3)の効果に期待しています。
――報告書で気になる点はなかったでしょうか。
私たちが「前入金」と呼ぶ、お金の事前支払いが報告書では「立替金」と表記されました。この前入金・立替金は、売掛について批判を浴びたホストクラブ業界が新しく始めた制度で、まだまだ実態を私たちも掴めていません。しかし、徐々に被害相談が増えており、規制の必要性や重みが増しています。
国会での議論でも、こうした状況の変化が常に起きている業界だと捉えたうえで、議論してもらいたいです。
たとえば先日、東京都の「ぼったくり防止条例」を適用して、ある事案の検挙ができないか都内の警察署に相談しました。条例では「不当な勧誘、料金の取り立て等の禁止」の項目があり、「客に対し、粗野若しくは乱暴な言動を交えて、(中略)料金又は違約金等の取立をしてはならない」とあります。
ところが、私が相談したケースは前入金だったことから、「取立には該当しない」として対応してもらえませんでした。背景事情がかなり悪質な事例だったので、なんとか検挙してもらえないかと、取立の解釈について議論を重ねました。しかし、「条例で想定しているのは、まったく別の行為なので難しい」と言われてしまった。
法改正はそんなに頻繁にはできませんから、先を見越した規制のあり方を考えてもらいたいです。
――悪質ホストの被害者に寄り添ってきた女性弁護士として、若年女性に呼びかけたいことは?
ホストクラブに行くなとは言いませんが、危険が付きまとう場所であることを十分に認識してください。今、担当している女性は、最初に相談されたのが昨年2、3月でした。心身を病み、仕事を辞めて1年間近く療養していますが、まだ回復できていません。
経済的、精神的に傷つく多くの女性と接してきました。そのため「これ、おかしいんじゃないか」となったら青母連でもいいし、どこかの弁護士事務所の無料相談でもいいので、連絡してほしいです。