【鉄道】「給料が安すぎる」いつの間にか日本の運転士不足が深刻に 地方では減便、都市部は自動運転へ
【鉄道】「給料が安すぎる」いつの間にか日本の運転士不足が深刻に 地方では減便、都市部は自動運転へ
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https://gendai.media/articles/-/146754
2025年に入り、令和も7年目に突入した。鉄道会社にも様々な変化が生じている。
ここ最近で話題になっているのが、少子化等に起因する「運転士不足による列車の減便」だ。ただし、この現象は地方特有のものになりつつあり、首都圏の住民にとってはピンと来ない話題かもしれない。
しかし、都市圏の鉄道も少子化に備え、対策を打ち始めている。運転士不足による列車減便と自動運転の取り組みを筆者自身の取材経験も踏まえながら、現状を確認していきたい。
■衝撃を与えた熊本電気鉄道の減便
鉄道関係者、鉄道ファンに衝撃を与えたニュースは1月7日に発表された熊本電気鉄道の運行本数の減便だ。2月3日より、金曜日を除く平日は159本から121本に、日祝は120本から91本になる。
運行本数の減便となった要因は運転士不足だ。同社では3年ほど前から、定数を下回る運転士での運行を行ってきた。採用活動により運転士が入社しても、それを上回る離職者が発生し、慢性的に運転士が不足していた。昨年12月、新たに運転士から離職の申し出があり、現行ダイヤの維持が不可能になった、というわけだ。
運転士不足による運行本数の減便は何も熊本電気鉄道に限った話ではない。
九州内だと、肥薩おれんじ鉄道も2月1日から減便した。また、島原鉄道は昨年4月から減便ダイヤを導入している。熊本電気鉄道の場合は政令指定都市の熊本市内を走るだけに、同じ減便でも衝撃が大きかったのだろう。
■鉄道の世界も地方格差が顕著に
ここで参議院調査室が発行している雑誌『立法と調査470号』(2024年11月刊行)に掲載されたレポート「地方部における鉄道運転士不足の現状と対応策」(大嶋満著)を見ていきたい。
この中で、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」に基づいたデータによると、企業規模別の運転士の平均年齢(2023年)は1000人以上の事業者が42.1歳、100-999人は40.5歳、10-99人は48.9歳である。
全体的に平均年齢は上がっており、2018年と比較すると1000人以上は+0.7歳、100-999人は+1.9歳、10-99人は+10.2歳である。
次に、企業規模別の運転士の給与額6月分(2023年)だ。1000人以上は約42万8千円、100-199人は約39万7千円、10-99人は約29万2千円である。
上記2つの企業規模別のデータから、小規模な鉄道会社ほど若い運転士が少なく、給料が安いという現実がおぼろげながら見えてくる。また、小規模事業者と大規模事業者の間には厳然とした賃金格差が存在し、小規模事業者から大規模事業者への運転士の転職も少なくないだろう。参考までに、先述した熊本電気鉄道の従業員数は196名である。
■都市部の鉄道も対策を急ぐ
2025年1月現在、少なくとも首都圏の大手私鉄では運転士不足に起因する減便は見られない。
それでは大手私鉄は運転士の人数不足に対して我関せずかと言われるとそうではない。たとえば、南海電気鉄道は2023年時点で運転士の約70%が45歳以上であり、将来的な運転士不足が課題となっている。
そこで、2023年8月から自動運転の試験を始めた。鉄道における自動運転は地下鉄や新交通システムで実施されているが、高架線や地下線など自動車などが進入しづらい環境だ。
一方、南海の実験は踏切がある和歌山港線で実施した。筆者も取材したが、運転士は運転台にあるボタンを押して駅を出発。あとは特段の操作はせず、そのまま次駅に到着する。3駅中1駅通過といったダイヤもこなす。当日は運転士が対応したが、緊急停止などの訓練を受ければ、運転士に必要な動力車操縦者運転免許は取得しなくてよい。
京王も2025年春から井の頭線で出発ボタンを利用した自動運転の実験を行う予定だ。また、2023年12月からは独身寮を無償化。2024年度から新卒社員の初任給も引き上げ、自動運転の実現と運転士の待遇改善により、運転士不足の難問を乗り越えようとしている。
運転士不足の根本的解決は自動運転化だが、即座に全線を自動運転にすることは難しい。そこで、運転士の待遇改善も肝になるが、規模の小さい地方の鉄道会社にとっては簡単な話ではない。
一方、京王のように体力のある大手会社では待遇改善を進めている。地方では賃上げしても、首都圏などの都市部の水準に届くことは難しいだろう。若手運転士が地方から都会への流出を止めることは容易ではない。
近年は沿線自治体が鉄道設備を保有する形での地方私鉄・第三セクターの再生が見られるが、運転士の確保も鉄道会社だけでなく、地域の課題となりつつあるような気がしてならない。