【国際】ウクライナの鉱物資源獲得へ動く米ロ中=3者それぞれが思惑―中国は対米優位の維持狙う
【国際】ウクライナの鉱物資源獲得へ動く米ロ中=3者それぞれが思惑―中国は対米優位の維持狙う
ウクライナのレアアース(希土類)など鉱物資源の開発に米国、ロシアさらに中国が強い関心を示している。戦争の行方にも影響する3大国の政治的思惑とは?
「鉱物資源の話に飛びついた」トランプ氏
ウクライナにはレアアース、チタン、ウラン、リチウムなど重要鉱物資源が眠っているといわれる。その価値は10兆ドル(約1500兆円)との推定もある。リチウムは欧州最大の埋蔵量を誇り、チタンは世界の上位10に入るとみる専門家もいる。とりわけ各国の関心を集めているのが、半導体などハイテク製品に不可欠なレアアースが豊富にあるとされている点だ。ウクライナの鉱物資源に注目が集まったのは2月初め、トランプ大統領がウクライナ支援の見返りに鉱物資源の権益を要求したと大きく報じられたことがきっかけ。米メディアは「トランプ大統領はウクライナの鉱物資源開発で得られる収益から4000億~5000億ドルの返還を要求した」と報じた。
もっとも、ウクライナ問題の専門家によれば、鉱物資源の話を先に持ち出したのはゼレンスキー大統領で、米国の軍事支援をつなぎ止めるため「ウクライナの鉱物資源がいかに価値があるかを説明したらトランプ大統領が飛びついたのが真相だ」という。また、ゼレンスキー大統領は鉱物資源の多くがロシア軍占領下の東部のウクライナ領にあることをことさら強調した。これについて米CNNのコメンテーターは米国が鉱物資源権益を欲するならロシア軍を追い払う必要があるとほのめかしたゼレンスキー氏のしたたかな発言と指摘している。
敏感に反応したロシア
米メディアによれば、レアアースなどの対米供給に関し両国政府間協議で協定案づくりが進む中、ゼレンスキー大統領がウクライナの「安全の保証」を米国が確約するよう求めたのに対し、トランプ大統領は難色を示し、双方に亀裂が生じた。それでも2月下旬には米国とウクライナが鉱物資源を共同開発し、新たに基金を創設することなどを盛り込んだ合意案が作成された。ところが、2月末にホワイトハウスで行われた両首脳の会談がけんか別れに終わったことで合意文書への署名は見送られることになった。
この米国とウクライナの動きに敏感に反応したのがロシアだ。米国とウクライナの協議進展が伝えられるや、プーチン大統領は国営テレビのインタビューで、ロシアが一方的に併合したウクライナの四つの州で米国と共同で鉱物資源の開発を行う用意があると述べた。これはウクライナとの共同開発に意欲を見せたトランプ大統領へのけん制と受け取られている。
ロシア問題専門家の間ではロシアはウクライナの鉱物資源に早くから目をつけていたとの見方もある。この見方に従えば、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻の重要な要因の一つが、前年の2021年にウクライナが重要鉱物資源プロジェクトに乗り出したことだというわけである。ビジネスマン的思考の強いトランプ大統領としてはレアアースが手に入るなら相手がウクライナであれ、ロシアあれどっちでも構わないはずで、そうした点を見越してプーチン大統領がわれわれと共同開発しようと提案したとみる向きもある。
「仲介役」中国も介入の動き
一方、中国は米国とロシアの間に割って入ろうとしている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ウクライナ戦争の停戦に向けた米ロの接触が伝えられたころ、中国はトランプ政権に対し米ロ首脳会談の開催と停戦後の平和維持活動に関する提案を行った。中国問題の専門家は「ウクライナ和平が米国とロシアだけで行われることを懸念し、中国も一枚かもうとしている」と分析する。中国はこれまでブラジルと組んでウクライナ和平を提案するなど「仲介役」を自任してきた。
実際、王毅・中国共産党政治局員兼外相は2月の欧州訪問の際、ウクライナのシビハ外相らとの会談で「ウクライナは友人、パートナーだ」と呼びかけ、「中国はウクライナ危機を傍観することは決してない」と今後も関与する姿勢を強調している。前述の専門家によれば、中国が提案した停戦後の平和維持活動には自らも加わる意向で、その目的の一つはウクライナの鉱物資源開発への関与ではないかという。レアアースの生産では中国が世界最大の産出国で全体の約70%を占めることはよく知られている。
それなのになぜ、ウクライナのレアアースを求めるかといえば、それは対米関係との絡みだとの見方が有力。米国はレアアースの調達では中国に大きく依存している。米国によるウクライナのレアアース獲得を阻止し、対米優位を維持したいと中国が考えても不思議ではない。ウクライナの鉱物資源を巡って米ロ中3者それぞれの思惑と利害が浮き彫りになった形だ。
