【社会】「始業1時間前に出社」「メモを食べて覚えます」昭和の“モーレツ社員ノリ”を引きずるシニア社員の危うさ
【社会】「始業1時間前に出社」「メモを食べて覚えます」昭和の“モーレツ社員ノリ”を引きずるシニア社員の危うさ
人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回は企業側が止めなければならないほどモーレツなシニアの例を紹介する。
人手不足でシニア採用に舵を切った大手企業などでは、「シニアは真面目」と絶賛する場合がある。確かに現代よりもブラックな環境が当たり前の時代を経験したシニアには耐性があるかもしれないが、自己申告の元気を信用すると命に関わる事態にもなりかねない。
◆シニアは「ブラック労働」に慣れている?
著名なテーマパークでのシニア採用など、従来のイメージが変わるほどシニア採用が活発になっており、私たちもその傾向についてインタビューされることが増えている。
シニアを積極的に採用する企業の中には「シニアは我慢強く、真面目で現場に馴染みやすい」と考える採用担当も多い。確かにシニアは時代背景から、悪い言い方をすれば「ブラック企業に耐性がある」人も多く、ちょっとやそっとの過酷さでは音を上げない部分が評価されやすい。
もちろん、だからといって過酷な労働条件や環境、仕事内容をシニアに押し付けてはいけない。やる気に満ち溢れて、自らブラックでモーレツな働き方をしてしまうシニアもいるが、むしろ企業側が抑制する必要のある注意点も出てくる。
今回はそうした企業側からのストップが必要となった、モーレツシニアのエピソードを5つ紹介する。
◆気持ちはまだまだモーレツ社員だが体は…
その前に、モーレツシニアを企業側がセーブさせるべき理由について述べたい。もちろん、シニアのやる気や忍耐強さが企業に評価されるのは悪いことではない。実際に忍耐強いかは個々人によるが、現在の70代後半は「モーレツ社員」「企業戦士」と呼ばれていた団塊の世代であるし、60代が社会人となった当時も、まだまだ家庭より仕事優先、会社の命令は絶対という風潮は残っていた時代のため、過酷な環境への耐性がある人は多いだろう。
ただし、程度の差こそあれ、誰もが皆、若い頃よりは体力・気力が衰え、健康リスクも高まっている。つまり、もはや若い頃のような無理は効かないのだ。
まだまだ若い者に負けたくないという気持ちや、自身の体力を過信して、つい無理をしてしまうシニアも少なくないが、実際には体力がついてこないことで仕事のパフォーマンスが上がらないばかりか、大きな事故につながる場合もある。体調を崩しても回復しにくい。
だからこそ、健康面についてはシニアの自己管理に任せるのではなく、企業主導で多少の余裕を持って仕事をセーブさせる必要がある。私たちの社内でも、シニアのフルタイム勤務は基本的に全員8時間ではなく7時間にセーブしている。
◆始業ちょうどに出社する若手は悪?
では、これまでにシニア人材紹介の面談や、就職先の人事の方などから聞いた中から、企業や周囲がストップをかけたほうがいいモーレツシニアのエピソードを、象徴的なセリフとともにご紹介しよう。
まずは、真面目に出社するシニアの話だ。遅刻せず、始業時間に間に合うように出社するのは社会人として当然で、中には余裕を持って10分前、15分前などに出社する人も多いだろう。しかし……。
「始業の1時間前出社が当たり前!」
こう言って、まだ開いていないオフィスの前で待ち続けたシニアがいたという。シニアはカギを貰ってオフィスに入りたがったが、始業前から会社にいた場合も残業代が発生してしまうし、セキュリティ上も問題がある。当然、許可は下りなかった。
それでもそのシニアは、自分が若い頃は1時間前、1時間半前の出社も当たり前だったといい、始業ギリギリに出社する社員がたるんでいるのだと言って譲らなかったそうだ。
次は積極的に新しいことを学びに行くシニアの話だ。シニアには即戦力が求められるとはいえ、新しいことを覚える姿勢も必要で、評価されるのだが、若い世代に馴染みのない決意の表明に周囲は引いてしまったようだ。
「メモを食べて覚えます!」
実際に昔の人は暗記した辞書のページを破いて食べていたという話があるが、そんな話を知っている人はほとんどおらず、お腹を壊すからやめてくださいと冷静に止められたと、そのシニアは寂しそうに言っていた。
◆連勤・残業どんと来い!と本人は言うが…
ここからは自身の体力を考えずに無理をして、命を縮めかねないシニアのエピソードだ。
とある会社の営業職に応募したシニアの面接での話。面接官が「弊社のサービスを売るためには、どんなことが必要だとあなたは思いますか?」と質問すると、シニアは力強くこう言い切ったそうだ。
「契約が取れるまで会社に戻りません!」
刺さる人には刺さる力強い決意で、このシニアも採用されたというが、こうした働き方を求めない企業も増えている。このシニアもその姿勢が影響したのか不明だが、体調を崩して短期間で会社を去ったと聞く。
こうした体育会系の熱血シニアのエピソードは多い。私たちもシニアの人材紹介にあたって事前に必ず電話面談をするのだが、その際、残業の可否なども聞く。その時、こんな回答をするシニアが結構いる。
「残業大歓迎、3徹できます!」
ここまでくると驚きよりも、シニアで3日連続の徹夜はさすがに嘘ではないかと、かえって心象が悪くなる。若手でも寝てないマウントが有効な業界は減っているだろうに、シニアの徹夜も辞さない姿勢は頼もしさではなく、心配でしかない。
同じパターンは、週休2日や土日休の希望の確認でもある。
「連勤上等、月月火水木金金!」
先程の残業の話も含め、過剰な連勤は雇用主が労働基準法違反に問われかねないが、それを「やれます」とむしろ志願するシニアも存在する。
もちろん、「本人が希望しているから」と実際にやらせてはいけない。労基法違反であるだけでなく、何度も言うが、もう若い頃のような無理は効かないのだ。いつどこで命に関わる影響が出ても不思議ではない。
体力や健康は個人差が大きいため、元気で活躍できるシニアを押し留めるのはよくないが、令和の今、昭和や平成のモーレツをシニアに続けさせてはいけない。
<文/中島康恵>
【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中
