【社会】“渋谷の北朝鮮”と呼ばれた“とんでもないマンション”で突然、管理費約1.7倍も値上げ→住民の怒り爆発…「管理組合vs.住民」の闘争が始まった経緯

【社会】“渋谷の北朝鮮”と呼ばれた“とんでもないマンション”で突然、管理費約1.7倍も値上げ→住民の怒り爆発…「管理組合vs.住民」の闘争が始まった経緯

最近、渋谷で管理費が突然約1.7倍も値上げされ、住民たちの間で激しい不満が噴出しているとのこと。これにより、管理組合と住民たちの間で緊張が高まり、闘争が繰り広げられている様子はまさに“狂気の沙汰”。状況がどのように進展するのか、興味深く注視したいですね。

「54台の防犯カメラで住民を24時間監視」「まるで北朝鮮」渋谷のマンションの“独裁体制”に住民が悲鳴…取材でわかった“管理組合の実態“〉から続く

 新宿駅からわずか2駅、最寄り駅から徒歩4分。都心の人気のヴィンテージマンションシリーズにもかかわらず、相場に比べて格段に安価なマンションがあった。その理由は、管理組合の理事たちによる30年近い“独裁的な管理”と、そこで強制される大量の謎ルールにあった。

 いったいそのマンションには、どんなルールがあったのか。管理組合と闘った住民たちの結末とは——。ノンフィクションライター・栗田シメイ氏の著書『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)より一部を抜粋・再編集して紹介する。(全2回の2回目/1回目から読む)

◆◆◆

総会で約30年ぶりの管理費増額が可決された

 2018年2月21日に開催された総会は、秀和幡ヶ谷レジデンスの歴史において分水嶺(ぶんすいれい)となる。 

 今井は体調を崩し、何年かぶりに総会を欠席していた。参加した桜井にとっても、この日も毎年となんら変わらぬ見慣れた総会でしかないはずだった。

 開会時刻の17時の少し前に席につき、ぼんやりと進行していく様子を眺めていた。序盤ではいつものように住民たちの意見を遮(さえぎ)るように、理事長が金切り声で怒鳴っている。反対意見は軒並み排除されていく。

 ところが、中盤に差し掛かる頃、あることに気づいた。発言者の声に聞き覚えがない。 

 そこで改めて会場を見渡して、例年とは異なる面々が参加していることに気づいた。それも1人や2人ではない。

「毎年の総会と比べると、明らかに声を上げる人の熱量が違ったんです。参加している住民たちが、本気で理事会に対して抗議しているのが感じ取れた。何かが変わるかもしれないと感じました」

 毎年の通常総会と今回(18年)では明確な違いがあった。約30年ぶりに管理費の増額が可決されたことだった。それも、1.67倍と決して小さな上昇ではない。独自ルールや住みづらさには黙認していた住人たちも、毎月の持ち出しが増えることは良しとしなかったのだ。住民たちの怒りは爆発していた。

 さらに怒りの火に油を注いだのが、「なぜ管理費が上がるのか」という住民の問いに対して、理事会が明確な答えを用意できなかったことだ。

「値上げの理由をきちんと説明して下さい」と住民が声を上げれば、「あなたはダメな区分所有者だ」「規約違反者だ」と理事長が強く𠮟責する。質問者に対して理事長による人格攻撃ともとれる発言も相次ぐ。

 しかし肝心の値上げの理由は、人件費の高騰ということしか明示されなかった。どこの人件費が高騰しているのかと尋ねると、理事会は言葉に詰まった。

 こんなやり取りが何往復も繰り広げられ、会場は次第に混沌とした空気になっていた。 

「これは持ち込み禁止だから」引っ越し当日に突然、管理人に呼び止められて…

 住宅設計事務所で働く佐藤彰は、この年、初めて総会に参加した。

 2016年に賃貸契約を結び、妻と子どもと共に秀和幡ヶ谷レジデンスに住み始めた。 

 違和感は当初から少なからず感じていた、と佐藤は記憶をたどる。

 アウトドアの趣味を持つ佐藤は、休日にはサーフィンスケートボードに興じることが仕事への活力となっていた。引っ越しの当日、スケートボードが搬入される際に管理人から突然呼び止められた。

「これは持ち込み禁止だから」

 不動産会社で働いた過去もある佐藤は、事前に持ち込み可能な所有物を確かめていた。 

 特に大型のアウトドア用品については、これまでの経験から、事前に確認する習慣もついていた。しかし、管理人からは執拗(しつよう)に注意を受け、その日持ち込むことが認められなかったという。

「ダメだ! 認められない! ルールだから!」と言い続ける管理人に困惑

 さらに佐藤が気がかりだったのが、なぜか管理人の大山氏が搬入中も運び込まれる荷物を全て確認するようにその場から離れようとしなかったことだ。

「ダメだ! 認められない! ルールだから! と、ずっと言い続けているわけです。こちらが解決策を見つけるために会話をしようにも、成り立たない。私からすると、禁止であることも知らないから、『なんのこっちゃ』という状態でした」

 早々に面食らった形だが、ぐっと言葉を吞み込んだ。管理人の存在は気になったが、賃貸で住み続けているうちは大きなトラブルに発展したことはなかったという。

 住み始めて1年が経った頃、会社から独立し、設計士として個人事務所を持つなど変化が生まれていた。渋谷区の一等地という環境は育児をする上でも魅力に映っていた。そこで賃貸ではなく、思い切って35年ローンで購入することにしたのだ。

 17年の秋、佐藤は秀和幡ヶ谷レジデンスの区分所有者となった。賃貸として過ごしていたこともあってか、すんなりと売買契約は進んでいった。

「これまで見てきた総会とは全く違う」参加した総会で目撃した異様な光景

 購入して半年が過ぎた頃、マンション内の告知で総会の開催を知る。不動産業界を知る佐藤にとって、総会への参加は区分所有者の当たり前の権利であり、可能な限り出席すべきだと考えていた。初年度から管理費が値上げされる、という事柄にも引っかかりを覚えた。

 佐藤の場合、毎月1万円ほど負担額が増加する計算になる。一家を代表して、総会の行く末を見守るべきだと判断した。

「これまで見てきた総会とは全く違う」

 それが、佐藤の第一印象だった。仕事柄、他マンションの総会の事情を知っていたが、このマンションでは様相が違っていた。

 反対意見が出ようが、議論が行われようが全く関係ない。

「委任状で過半数が集まっている」

「多数決でいうと、こちらが強い」

 といった具合に、管理組合側の意見だけが押し通されていった。何より佐藤が憤りを感じたのが、理事長の横暴な言動だった。

「何を言おうとも『私たちはこれまでこのスタンスでやってきたんだ』という言動は終始一貫していました。恐怖を感じたのが、自分たちが言っていることが少しも間違っていない、という確固たる態度だったことです。まるで自分たちと住民の間には、力関係が存在するというような自信すら感じました」

 管理費の値上げについてはまともな議論がされることを期待した。ところが、管理費の値上げの議案ではむしろ、より攻撃的に住民への批判が展開されたのだった。

「これだけ人の話を聞かない奴らがいるのか」

 総会の最中、佐藤は思わずそう呟(つぶや)いていた。

「不動産会社が出入り禁止に」管理組合に抱いた疑念

 佐藤のように憤慨する者もいれば、理事会の“暴挙”を静観する者もいた。この日、初めて総会に参加していた手島である。手島も同様に、管理費の値上げが幡ヶ谷に足を運んだ最大の理由だった。

 当時はまだ参宮橋に住んでいたが、将来的には幡ヶ谷に移住することを見越していた。 

 賃借人への説明のためもあるが、オーナーとして管理組合の動向を知る必要もあった。総会の議題は目まぐるしく入れ替わった。開会後早々に、不動産会社が出入り禁止になったという事案に対して説明がなされる。

 ある外部オーナーが、大手の不動産会社を利用して売却しようとしたことに対し、理事会の批判が飛び交っていた。全く知識がなかった手島ですら、管理組合の体質に疑念を抱いた。

カルト集団と錯覚するような結びつきの強さ」総会で感じた管理組合の“異常さ”

 この管理組合はおかしい——。手島の疑惑が確信に変わったのは、理事たちが理事長を擁護する必死な姿を目のあたりにした時だった。

「収まりがつかない住民に対して、『あなたたちは理事長がどれだけ働いているか分からないのか』と監事が大声を出したのです。その様子が本当に恐怖でした。理事長を心の底から崇拝(すうはい)し、陶酔しているようにしか映らなかった。カルト集団と錯覚するような異常な結びつきの強さでした」

 手島をさらに驚愕させたのは、管理費の値上げについて決を取る際の言動だった。

「理事の一人が委任状を見せびらかして、『私どもは、このマンションにとって一番最適なことをやっているんです』と」

 圧倒された手島は、何度も腕時計に目を向けた。2時間の予定の総会は、3時間を超えている。ようやく総会が幕を閉じると、深いため息をついた。

「なんだこの総会は。北朝鮮かよ」

 理事たちが退席するすんでのところで、住民からはこんな罵声(ばせい)が飛んだ。

明るみに出た理事たちの横暴と数々の謎ルール

 会場内には余韻(よいん)がまだ残っていた。少なくとも、一部の住民たちにとっては、とても納得がいく総会ではなかったからだ。心に残ったモヤモヤは誰しもが感じていた。心なしか、帰路につく足取りも重い。

 そんな中、投資目的で秀和幡ヶ谷レジデンスを購入したある男性オーナーが、沈黙を破った。

「このままでは帰れませんよね。よければみなさんで情報共有しませんか」

 一人、また一人とこの提案に応じる者が出てきた。手島も、佐藤も考える間もなく、首を縦に振った。桜井も同じだった。この日、8名の参加者が会場からほど近い大手珈琲チェーン店で顔を合わせることになる。

 参加者の面々は、大半が初めて総会に参加する者だった。

「いつも総会はあんな様子なのか」

「理事たちの人となりはどんなものか」

「こんな形で値上げが決まるのはおかしい」

 議論は次第に熱を帯びていく。手島や佐藤のように初参加の面々が、桜井のような常連組に質問を投げかけていく時間が続いた。その中で理事たちの横暴は、決して総会だけではなかったことを知る。手島が振り返る。

「総会の振り返りから始まり、時間が経つ頃には住民がどんな不利益を被っているのかという話題になった。そこで、数々の謎ルールが明らかになっていった。桜井さんたちの口から、どんどん常軌を逸した決まり事が出てくるのです」

(栗田 シメイ/Webオリジナル(外部転載))

写真はイメージです ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

(出典 news.nicovideo.jp)

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