【社会】「クルド人問題」を抱える日本も他人事ではない…世界が羨む高福祉国から犯罪大国に転落したスウェーデンの現実
【社会】「クルド人問題」を抱える日本も他人事ではない…世界が羨む高福祉国から犯罪大国に転落したスウェーデンの現実
■「北欧の理想郷」が一番危険な国に
スウェーデンと聞くと、理想の国のように思っているのは日本人だけでなく、ドイツ人も同じだ。究極の高福祉・高学歴で、あくせく働かなくても豊かな生活が送れ、自然や景観は美しく、子供は天使のように愛らしく、すらっとした金髪の見目麗しい男女が歩いている国……といったイメージだ。
ところが、天国に一番近かったはずのそのスウェーデンが、いつの間にか、ヨーロッパで一番危険な国になってしまった。性犯罪、暴力団抗争、銃撃戦、射殺事件の件数が、どれも飛び抜けて多い。スウェーデンの統計によると、2023年は銃撃事件で53人が死亡。なお、英国国会統計局のデータを見比べると、スウェーデンでの射殺事件は、イングランドとウェールズにおける総数を上回っている。
スウェーデンの人口は1054万人だから、日本に置き換えると、1年で620人余りが、犯罪者の手によって射殺された計算になる。スウェーデン警察によれば、現在、殺人容疑のかかっている15歳以下の子供が、少なくとも93人もいるのだそうだ。これらの報告には、皆が言葉を無くす。
また、同じく23年、車や建物に爆弾を仕掛け、破壊した事件も149件起こった。やはりヨーロッパ最大規模だ。しかも、大きな問題は、これらの犯罪のほとんどが、外国生まれか、あるいは外国人移民の2世の手によるものだということだ。
■国民の2割が移民になった国で起きている現実
スウェーデンはこれまで、世界一と言ってもいいほど寛大な移民政策を敷いてきた。来る者は拒まず、しかも、条件を満たせばほぼ全員に永住権、さらには国籍を与えた。特に、2015年、メルケル独首相がドイツ国境を開いた時、そこからさらにスウェーデンに移動した難民が16万人に上ったという。多かったのが、シリア人、アフガニスタン人、ソマリア人だ。
結局、過去25年間にスウェーデンが受け入れた外国人は227万人で、今では国民の2割はスウェーデン生まれではない人たち。そして、気がつくと、かつての北欧の模範国は、犯罪王国になっていたわけだ。
スウェーデンの一定の都市の一角には、警察も足を踏み入れたがらない危険地区ができ、凶悪な犯罪組織がそこを根城にしている。移民系の犯罪者のほとんどはそれら犯罪組織のメンバーで、暴行、窃盗だけでなく、麻薬や武器の販売、人身売買などに携わっている(蛇足ながら、ドイツでもまさにこれと同じ現象が起こっている)。
それどころか、彼らの“業務内容”は、最近では殺人の請け負いにまで発展しているとされ、2024年8月23日付の英紙「ザ・タイムズ」がそれについて、「スウェーデンの犯罪組織が、若い殺し屋たちをスカンジナビアの隣国に輸出している様子」というショッキングなタイトルで報告している。つまり、今やスウェーデンの犯罪は隣国にまで浸み出しているらしい。
■「病的で腐った暴力の文化が広まる」と批判
例えば、お隣のデンマークでは、24年の4月から8月までだけで、スウェーデン人の手による凶悪犯罪が25件も起こったという。犯人のほとんどが18歳未満の未成年なのは、おそらく捕まった後、刑が軽くて済むからだろう。ちなみに、殺人の報酬は8000ドルから上限なしだそうだ。
この状況に激怒したデンマークの法相は、「スウェーデンで繰り広げられているような、完全に病的で腐った暴力の文化が広まることを、われわれデンマークは断固拒絶する」と、辛辣に批判。実は、過去のデンマークでもやはり外国人が増えすぎ、さまざまな弊害に悩まされたが、政府は方針を180度転換。デンマークは、スウェーデンともドイツとも橋でつながっており、電車でも、車でも、また歩いてでも入れるが、ここ数年、超党派で不法難民の撲滅に全力を注ぎ、国境も徹底的に監視している。
さらに通称「宝石法」という法律も作り、難民申請する者は、滞在費その他の経費を負担するため、手持ちのゴールドや宝石を全部、デンマーク当局に渡さなければならなくなった。手元に残せるのは結婚指輪など、ごく限られた特別な意味を持った物のみだという。
それにより、難民のデンマークを目指すモチベーションが低下したことは言うまでもなく、難民申請数は激減。現在、デンマークが受け入れているのは、国連の斡旋による本当の難民と、ウクライナ難民のみで、国境侵犯の難民は昨年も一昨年も認可していない。将来は、実質増加ゼロを目指しているという。
■「帰れば500万円あげます」破格の追い返し策
それに比べてスウェーデンは、犯罪がすでに制御不能のレベルに達してしまっているせいか、政府は弱気で、改革が徹底しない。それどころか昨年9月には、2026年からは合法移民として暮らしている人が自主的に帰国した場合、35万クローナ(約500万円)を支払うと決めた。同様の「祖国での新生活のための補助金」を出している国は他にもあるが、500万円は破格だ。現在、シリアの平均月収は81米ドル(約1万1000円)だそうだ。
ただ、言い換えれば、これだけのお金を出しても帰ってほしいということは、滞在されるとずっと負担が大きいということだ。移民を労働力にしようと思って受け入れ続けたスウェーデンでの結果がこれだという事実を、日本政府はよく吟味したほうがいい。
なお、現在、スウェーデンの犯罪輸出に戦々恐々としているのはデンマークだけでなく、ノルウェーやフィンランドも同様。これらの国々も国境の監視を強化しているが、もし、うまくいかない場合は、シェンゲン協定の中止も考えているという(シェンゲン協定とは、アイルランドとキプロスを除くEU25カ国に、アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインを足した29カ国が加盟している協定で、国境検査をせず、域内の自由な通行を保障している)。シェンゲン協定こそ、EUの崇高な理念の1つだったが、事態はそこまで差し迫っているのだ。
■日本とドイツだけが世界に逆行している
EUの多くの国と、米国などが、現在、難民の受け入れを制限し、不法難民の取り締まりに本腰を入れ始めているが、その中で唯一、いまだに、来る難民はすべて受け入れようとしているのが、ドイツの緑の党と社民党だ。だからドイツでは今も難民は入った者勝ちで、追い返される心配はほぼ無し。しかも、昨年夏、社民党は帰化の条件を大幅に緩和したので、就業移民は永住も夢ではない。
しかし、そこまで行きつかない人たちは圧倒的に多く、2023年、移民・難民にかかったコストは、統計データ会社「Statista」の資料によれば297億ユーロ(約4.5兆円)。これらすべてが国民の肩にのしかかってくる。
日本は幸いなことに島国なので、徒歩や自動車でやってくる難民はいないが、法務省の発表によれば、2024年末時点での在留外国人数は376万8977人で、極めて多い。しかも前年比10.5%増で、増加傾向は続く。さらに、日本国籍の取得も容易になっている。そして、外国人の4人に1人が中国人と、かなり偏っている。
なお、難民に関しては、最近、埼玉県のクルド人が問題となっているが、彼らが本当に難民と言えるのかということも含めて不明瞭なことが多すぎる。なぜ、日本とドイツだけが、他国とは逆行した移民・難民政策をとっているのだろう。
■40年住んで見たドイツの変わりよう
先月、『移民難民ドイツからの警鐘たった10年で様変わりしたヨーロッパ』(グッドブックス)を上梓した。40年以上も暮らしているドイツだが、ここ10年で街の風景がすっかり様変わりしてしまった。どんどん送られてくる難民の世話に、自治体は悲鳴を上げ、医療保険は傾き、学校は崩壊していく。それどころか、今では彼らが頻繁に起こす無差別テロで、しばしば罪もない市民が殺されている。
これまでスウェーデンはドイツにとっても模範国だったが、最近は、「スウェーデンの真似をしてはいけない」という声まで聞かれるようになった。
4月、ドイツの内務省が発表した犯罪統計は、戦慄を覚える内容だった。24年の暴行、殺人、性的犯罪など重犯罪が21万7277件で、前年比1.5%増。毎日ほぼ600件起きている計算。中でもナイフによる傷害、殺人事件が前年比10.8%増で1万5741件。こちらは毎日ほぼ43件。しかも、若年層の犯罪が急増しているという。
なお、容疑者のうち非ドイツ人の割合が7.5%増。婦女暴行、および性犯罪は9.3%増だ。
■これは「国の破産宣告」ではないのか
2月は、ドイツにおける最大のお祭り、カーニバルの季節だが、今年はいくつもの都市で開催が中止された。理由は、1)テロの危険があること、2)それに対する十分な警備をするお金がないこと、そして、3)たとえ警備を厳しくしてもテロを防ぐことはできないかもしれないことだった。ドイツ国の破産宣告のようなものではないか。
ドイツの場合、難民政策が、“ノー・ボーダー、ノー・ネイション”という左翼のイデオロギーに則っていることは確実だ。では、日本政府は? “ノーと言えないDNA”のせいだとしたら、あまりにも危うい。遠慮し、我慢しているうちに、治安も財政も急速に悪化する。そして、それらは簡単には元に戻せない。
日本人は、EU、およびドイツの状況をしっかり見て、取り返しのつかない事態になる前に一度立ち止まるべきだ。そして、歩むべき最善の道を、まずは真剣に議論してほしい。
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作家
日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)、『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』(ビジネス社)がある。
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