【社会】「猛暑も豪雨も地球温暖化のせい」は間違っている…データで読み解く日本の異常気象の”真の原因”
【社会】「猛暑も豪雨も地球温暖化のせい」は間違っている…データで読み解く日本の異常気象の”真の原因”
※本稿は、杉山大志『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)の一部を再編集したものです。
■地球温暖化による影響はごくわずか
猛暑になるたびに「地球温暖化のせいだ」とよく報道される。しかし、本当だろうか?
例えば、2018年の夏は猛暑だった。そして、政府資料を見ると「東日本の7月の平均気温が平年より2.8℃高くなり、これは1946年の統計開始以降で第1位の高温であった」、「熊谷で最高気温が国内の統計開始以来最高となる41.1℃になった」とし、その原因には「地球温暖化の影響があった」としている(政府資料「はじめに」)。
だが、全国津々浦々の気象観測施設に足を運び、測定に悪影響を与える周辺環境を点検、改善策を提案していることから「気象観測の水戸黄門」と呼ばれる東北大学の近藤純正名誉教授による推計では、日本の平均気温の上昇速度は100年あたり0.89℃程度、過去30年でわずか0.3℃だった。
つまり、「熊谷で41.1℃になった」が、これへの地球温暖化の寄与は、もし過去30年間に地球温暖化がなければ40.8℃であったということだ。地球温暖化は、ごくわずかに温度を上げているに過ぎない。
平均気温についても同じようなことがいえる。政府発表で東日本の2018年7月の平均気温が平年より2.8℃高かったとしているが、これも、もし過去30年間に地球温暖化がなければ2.5℃高かったということだ。猛暑であることに変わりはない。
■猛暑の主な原因は「自然変動」
猛暑をもたらした最大の要因は自然変動だ。自然変動とは、具体的にいうと、太平洋高気圧の張り出しといった気圧配置の変化、ジェット気流の蛇行、梅雨前線の活動の強弱やタイミングなどである。つまりは、天気図で日々、われわれが目にする気象の変化のことである。
このような自然変動で起きる気温変化とは、地球規模で見てどのようなものなのか図表1を見るとよくわかる。
この図表では、2023年の気温が直近の10年間の平均と比較されている。これを見ると、日本では、2023年は暑かった(緑色)ことがわかる。だがその一方で、アフリカ、インド、中国などは寒かった(青色)こともわかる。
■地球全体が暑くなったわけではない
このように、日本が暑かったといっても、別に地球全体が暑くなったわけではない。気圧配置の変化やジェット気流の蛇行具合など、大規模な大気の流れの変化によって、南方の熱い空気が北方に運ばれ、北方が猛暑に見舞われた。そして、それと入れ違いに、北方の寒気が南方に運ばれ、南方で酷寒に見舞われたところがあった。
われわれが日常的に体感している「異常な暑さ」や「異常な寒さ」というのは、このような気象を感じているのである。
図表1からもわかるように、年平均気温にして2℃程度のプラス・マイナスは、地球上の各地で起きている。毎年のように2℃程度は上下するのだから、地球温暖化による気温上昇が30年間で0.3℃程度であるのとは文字どおり「ケタ違いの変化」である。
地球全体を見ると、毎年暑い場所と寒い場所がある。猛暑の主因はこのような自然変動であって、地球規模での温暖化の寄与はごくわずかである。
■東京が3.2℃も暑くなった理由
「最近の東京は暑い」と言う話をよく聞く。そして、それが地球温暖化のせいだと思っている人も多い。ところが、地球温暖化は感じることもできないほど、ゆっくりでわずかであることはすでに見てきた。猛暑の原因は、第一に自然変動だが、その次に大きいのは「都市熱」だ。
都市化することで、都市熱によって「ヒートアイランド現象」が起きて暑くなる。図表2は、年平均気温の比較である。東京はずいぶん暑くなったことがわかる。100年あたりでは、東京は3.2℃、大阪は2.8℃、名古屋は2.6℃も上昇した。すでに述べたように地球温暖化はこのうち0.9℃だから、都市化の影響のほうがはるかに大きかった。
ヒートアイランド現象の原因は、いくつかある。最大の原因は、アスファルトやコンクリートが増え、それが熱を帯びること。夏の夜に都市の中を歩くと、建物や道路からもわーっとした熱気を感じるが、あれのことだ。また、雨が降っても地面に浸み込むことなく、下水や河川に流れてしまうことも気温上昇の原因にある。地面に浸み込めば、それがやがて蒸発することで気温が下がるが、それがなくなるわけだ。
それから、建物が建て込んでいることも、ヒートアイランド現象の原因になる。東京では、臨海部の埋め立て地に高層建築が建て込んだために、都心部には風が入らなくなり、これも気温上昇を招いた。
■昔は「プール」のような水田がたくさんあった
高層建築でなくても、単に家やビルが建て込んだり、あるいは樹木が茂って風が遮られても、気温は1℃ぐらい上がる。これは「ひだまり効果」と呼ばれている。ひだまりはぽかぽか暖かいが、あれのことだ。
それから日本ではずいぶんと水田が減ったけれども、水田が減るとその周辺では1℃くらいは暑くなる。水田とはプールがあるようなものだから、水田があればその周りはプールサイドのように涼しくなる。
地球温暖化による30年間に0.3℃というゆっくりした気温上昇の影響などは、このような局所的な気温変化によってもかき消されてしまう。
さて、地球温暖化の推計値を示すときには、都市化などの影響を補正している。その補正とはどうするのかについて、簡単に触れておこう。
まず、地球温暖化を本当に正確に測ろうと思ったら、都市化の影響のない田舎の僻地に行って、野球のグラウンド(100m四方)ぐらいの土地に芝生を植え、その真ん中に通風筒を置いて計測しなければならない。
通風筒というのは、百葉箱と似たような風通しの良い箱のことだが、電動ファンで換気できるようにしたものだ。実際に米国では、そのような観測所がいくつも整備されている。けれども、日本には、そのような観測所は皆無である。長期にわたってデータをとってきたような観測所では大抵、都市化が進んでいる。
それに日本の観測所は、敷地が狭く、周りに建物や樹木が多くある。そこで計測された気温は、地球温暖化よりも、だいぶ早く気温が上昇するのが普通になる。
■都市熱の影響を取り除けていない
図表2で、気象庁は「比較的都市化の影響が少ないと見られる全国15地点の平均」を示しているが、このいずれも都市化が進んでいたり、周囲が建て込んだりしているので、地球温暖化による気温上昇を正確に表したものではない。このことは、気象庁のレポートでもはっきり注記してある。
けれども、政府機関やメディアが日本の地球温暖化の速さというときには、この15地点平均のデータがよく使われている。それは100年あたり1.25℃とされている。だが、前述の近藤純正名誉教授の推計だと0.89℃なので、かなり実際の地球温暖化よりも高い数値になっている。
このような都市熱などの混入の問題は、日本だけではなく世界共通である。地球温暖化による気温上昇についての世界規模でのデータのグラフをよく見るが、ほとんどの場合、都市熱などが混入したものになっている。
気温の補正について、さらに専門的な解説は近藤純正ホームページを、平易な解説は筆者によるものを参照されたい。
※杉山大志「日本の温暖化は気象庁発表の6割に過ぎない」
■地球温暖化の結果、豪雨が増えた?
「大雨が激甚化した。これは人為的な気候変動によるもので、原因はCO2などの排出によるものだ」。このような報道をよく見かける。
例えば、2023年7月12日付日本経済新聞電子版は、「熱波・水害、世界で猛威経済損失『2029年までに420兆円』エルニーニョ発生で今夏さらに暑く」という記事の中で、「豪雨45年で3.8倍」という小見出しを付けたうえで、こう記している。
「気温が上昇すれば大気中の水蒸気が増え、大雨のリスクも高まるとみられている。日本の気象庁気象研究所によると、国内で7月に降った『3時間雨量が130ミリ以上』の豪雨は1976年から2020年までの45年間で約3.8倍に増えた」。
確かに、ここで言及されている気象庁気象研究所のプレスリリースを見ると、雨量の増加についてはその通り書いてある。しかし、気候変動のせいだとはいっていない。なぜだろうか? そうとはいえないからだ。
元になっている論文を読めるのは残念ながら所属する学会の会員限定なのだが、これによると、上記の日本経済新聞電子版の記事で指摘している2023年7月ではなく、同年8月ではそれほど雨量は増大していなかったり、3時間雨量ではなく1時間雨量だと傾向がはっきりしなかったりするなど、数字はばらけている。
■たしかに大雨の日は増えているが…
ここでは、誰でも閲覧できる公開データとして、気象庁の気候変動監視レポート2022を見てみよう。確かに大雨の年間日数が増えているとする図表がある。例えば、図表3は、全国のアメダス1300地点で1日の降水量が300mm以上だった年間日数の合計の推移を見たものだ。
■降水量は年によってバラバラ
だが、ここには重要な但し書きがある。
「日降水量300mm以上といった強度の強い雨では、1980年ごろと比較して、おおむね2倍程度に増加している。このような大雨の頻度と強度の増大には、地球温暖化が影響している可能性がある。
ただし、極端な大雨は発生頻度が少なく、それに対してアメダスの観測期間は比較的短いことから、これらの長期変化傾向を確実に捉えるためには今後のデータの蓄積が必要である」
2段落目の意味を理解するには、同じレポートに出ている図表4を見ればよい。
この図表は、日本平均の年降水量「偏差」である。偏差という意味は、平年値に対する差分ということである。
図表4からまずわかるのは、年降水量の年々の変化は大きいことだ。日本の平年の雨量は1700mm程度であるのに対し、それより300mmも多い年、400mmも少ない年がある。
■短期間のデータを切り取るリスク
次にわかることは、長期的に年降水量の傾向は大きく変わることだ。
前述した日本経済新聞電子版の記事が対象としている1976年以降であれば、確かに雨量は増加傾向にある。しかし、1950年代も雨量は多く、これは2010年代に匹敵する。1950年代の年降水量がこれだけ多かったということは、大雨の頻度も高かったと考えられる。
1976年以降のデータだけを切り取って「大雨が増加傾向にある、これはCO2などによる人為的な影響だ」と断言するのは正しくない。
このように、大雨が激甚化しているという報道は、短期間のデータの切り取りに基づいている。長期のデータを見ると、雨量の増大は見られない。短期間のデータだけを見て長期的な傾向を判断するのは誤りである。
■大雨の「激甚化」とまでは言えない
図表4を見る限り、2010年代の大雨の増加は、1950年代同様、単なる自然変動であっても不思議はない。
ちなみに1950年代といえば、洞爺丸台風(1954年)、狩野川台風(1958年)、伊勢湾台風(1959年)など恐ろしい台風が立て続けに上陸し、大きな被害を出した。東京の日降水量の過去最大記録は狩野川台風による372mmで、これは第2位以下を大きく引き離し、今日に至るまでダントツで第1位のままである。
※杉山大志「東京で史上最強の大雨が降ったのは何年前か?」
では、地球温暖化の影響はまったくなかったのか? 論文でも言及しているが、理論的には、過去の約1℃の地球温暖化によって大気中の水蒸気量が6%増えて、その分だけ降水量が増えるという「クラウジウス・クラペイロン」関係が存在する可能性はある。
ただ、1976年以降の大雨の増大の理由が本当にこの関係によるものかはわかっていないし、仮にこの関係が成立するとしても、雨量の増大はせいぜい6%である。過去の自然変動の大きさには埋もれてしまう。
産業化前からの世界の平均気温上昇は約1℃である。100年以上かけて100mmの雨が106mmになったかもしれないということだ。大雨の「激甚化」というには及ばないだろう。
なお、雨量、特に大雨の長期的なデータについては、観測機器の変更や周辺の観測環境の変化などによる誤差は気温よりもさらに大きい。詳しくは以下を参照されたい。
※近藤純正ホームページ
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
東京大学理学部物理学科卒業。同大大学院工学系研究科物理工学専攻修了。電力中央研究所、オーストリア国際応用システム解析研究所(IIASA)を経て、現職。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書統括執筆者。経済産業省審議会委員、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術委員、慶應義塾大学特任教授、米国ブレークスルー研究所フェローなどを歴任。2020年より産経新聞「正論」欄レギュラー執筆者。著書多数。専門はエネルギー政策、気候変動問題。
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