【社会】旭川いじめ自殺「隠蔽しているのは、私ではなく市教委だ」元校長が異例のうったえ…黒塗り報告書が「歪み大きくした」の声も
【社会】旭川いじめ自殺「隠蔽しているのは、私ではなく市教委だ」元校長が異例のうったえ…黒塗り報告書が「歪み大きくした」の声も
北海道旭川市の女子中学生がいじめを受けて自殺したとされる問題をめぐり、異例の動きが起きている。
亡くなった生徒の遺族は今年2月、適切な対応を怠ったとして、市を相手取り、約1億1600万円の損害賠償を求める裁判を旭川地裁に起こした。
ところが、生徒が通っていた中学校の元校長らが第三者委員会の調査を公然と批判するなどしている。中にはこれまで報道されてきた事実と異なる話も含まれている。
一体、どういうことなのか。今年3月に札幌市で開かれたシンポジウムで、元校長らが語った話とはーー。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●2021年3月に凍死体で見つかる
はじめに、これまでの経緯を簡単に振り返る。
2021年3月、旭川市内の公園で中学2年の広瀬爽彩(さあや)さん(当時14歳)の凍死体が発見された。爽彩さんはその約1カ月前から行方不明になっていた。
遺体が見つかったあと、広瀬さんが友だちからわいせつな写真を送るよう求められるなど、いじめを受けて自殺したという内容を週刊誌が報じ、注目を集めるようになった。
これを受けて、旭川市教育委員会の第三者委員会が調査し2022年9月に報告書をまとめたものの、遺族が納得せず、市の再調査委員会が2024年に「いじめは自殺の『主要な原因』であった可能性が高い」と結論づけた。
報道によると、広瀬さんの遺族は今年2月、旭川市に約1億1600万円の損害賠償を求める訴訟を旭川地裁に起こしたという。
●「隠蔽しているのは私ではなく市教委」
こうした状況の中、広瀬さんが入学した中学校(亡くなった時は別の中学校に在籍していた)の校長だった金子圭一さんが3月23日、札幌市内で開かれたシンポジウムに出席した。
再調査委員会の報告書などによると、広瀬さんは金子さんが校長をつとめていた中学校に2019年4月に入学し、同年8月に別の中学に転校したという。
2019年6月に広瀬さんが川に入るという出来事があり、これが後に「自殺未遂をした」と報じられるようになったことについて、金子さんは「さあやさんが亡くなったあとに作られた言説だ」と反論。
金子さんは、広瀬さんの生前から死亡後に至るまでの間に学校関係者らとやり取りしたLINEの写真などを示しながら、その場しのぎの対応に終始したとして、旭川市教育委員会を次のように批判した。
「市教委は今まで一切説明していません。真相を語っていません。説明責任を果たしていません。隠蔽しているのは私ではなくて市教委です」
また、旭川市長についても「市教委の第三者委員会にほとんど土足で踏み入って、公正中立であるべき調査を歪めた」といじめ調査への政治介入があったことを暗示した。
金子さんは自身が実際に経験してきたこととこれまで報道されたり第三者委員会の調査で認定されたりしたことの間に食い違いがあるとし、「学校はさあやさんを救おうと思って一生懸命にやっていた。学校は適切に対応していた」とうったえた。
●報告書の黒塗り「問題を大きくした原因」
広瀬さんのいじめ問題に関する記事を掲載してきた月刊誌『北方ジャーナル』編集長の工藤年泰さんは、市教委の第三者委員会がまとめた報告書の黒塗りがない状態の文書を読む機会があったことを明かしたうえで、こう話した。
「正直驚きました。自分の知っている旭川いじめ凍死事件と全然違うじゃないかと。これだけ事実関係が違っていれば、当然あの事件に対する評価も違う。この問題の構造全体をもう一回冷静に調べ直す必要があるんじゃないかと思った」
市教委の第三者委員会の報告書は、現在も旭川市のホームページにアップされており、実際に目を通すとたしかに黒塗りは多く、ページ番号以外のすべてが塗りつぶされている部分もある。
工藤さんによると、報告書の黒塗り部分には、広瀬さんの死が全国的に注目されるきっかけを作ったメディアの報道内容に誤りがあったことなどが書かれており、今回の問題に対する社会の認識を大きく変えうる記載が含まれているという。
「そこが隠されてしまったことが、それ以降の問題を、歪みを大きくした原因だったんじゃないかなと思っています」
工藤さんはそう指摘し、問題の重要性を説明した。
「大手週刊誌の報道を中心にものすごいメディアバッシング、ネットリンチが起きて、学校の先生や加害生徒とされた人たちが顔を晒され、ひどいことを言われ続けている。
これは重大な人権侵害だと思います。この問題は現在進行形で、苦しんでいる人たちがいることを理解してほしい」
