【社会】死ぬまで払い続けるのか…退職後も残る「住宅ローン」に絶望。〈年金月13万円〉72歳男性が直面する「ありえない現実」
【社会】死ぬまで払い続けるのか…退職後も残る「住宅ローン」に絶望。〈年金月13万円〉72歳男性が直面する「ありえない現実」
定年を機に手にする退職金。老後のための大切なお金ですが、老後資金として全額貯金する人、住宅ローン返済に充てる人、趣味に使う人など、どう使うかは人それぞれ。どのような方法であれ、納得できればそれが「正解」になりますが、なかには「不正解」となってしまう人も珍しくないようです。
「退職までに完済するはずだった」住宅ローン、残債500万円が重くのしかかる
「まさか、70を過ぎても住宅ローンを払っているとは思いませんでした」
そう話す野口稔さん(仮名・72歳)。定年後の生活は、もっと穏やかでゆとりのあるものになるはずでした。ところが実際には、月11万円の住宅ローンを今なお支払い続けています。35歳のときに戸建てを購入。借入金は3,000万円、35年ローンで月々の返済額は11万円。65歳まで働き、年金生活に入ると同時に600万円強残っているだろうローンを一気に完済……そのような計画を立てていました。
しかし、62歳のときに体を壊し、予定外の退職。この時点で残債は約970万円ありました。すでに退職金は受け取っていましたが、まずは長年の治療費に消えました。生活のためにと、年金は繰上げ受給を選択。65歳で受け取るはずだった年金額から18%減となり、結果、月14.5万円、手取りにして約12.7万円になりました。
老齢基礎・厚生年金は原則として65歳から受け取ることができますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰上げて受け取ることが可能です。1ヵ月早めるごとに0.4%*ずつ減額され、最大24%まで減額されます。また、受取開始のタイミングを遅らせる繰下げ受給では、老齢基礎と厚生年金のうち一方だけを繰り下げることが可能ですが、繰上げ受給の場合は同時に繰上げ請求をする必要があります。
*昭和37年4月1日以前生まれの場合、ひと月当たりの減額率は0.5%
夫婦で生活するには精いっぱいに。結果、退職金はすべてなくなり、繰上げ返済どころではなくなったのです。
「病気の治療中は返済額を減額してもらい……結果、あと3年、ローン返済が残っています」
築40年の戸建て住宅、迫る「大規模修繕」…住み続けるために必要な出費とは
ローン完済まであと3年――完済が見えてきましたが、今度は別の現実が突きつけられます。自宅の老朽化です。野口さんの家は、購入からすでに40年近くが経過。築年数に応じて各所に不具合が出始めています。
「外壁が一部剥がれていたり、水回りの調子が悪かったり……業者からは、そろそろ大規模な修繕の時期に来ているといわれました」
外壁の塗装、屋根の防水工事、キッチンや浴室のリフォーム、配管交換など、必要とされる工事の見積もりをとると、最低でも250万円以上。しかも、建物の状態によってはそれ以上になることも珍しくありません。定年後の限られた収入で、このような金額を捻出するのはかなり厳しい状況です。
「いっそ、売ってしまって賃貸に引っ越そうかとも検討しました。でも、それも簡単じゃない」
高齢者の住宅確保は難しいというのは、よく耳にする話です。株式会社R65が全国の賃貸オーナーを対象に行った『高齢者向け賃貸に関する実態調査』によると、高齢者の入居を「受け入れていない」賃貸オーナーは41.8%。一方で「積極的に受け入れている」オーナーは19.0%にとどまりました。家主が高齢者に家を貸したがらない理由……それは保証人の問題や、健康・介護、孤独死リスクへの懸念などから。しかも、お金があろうとなかろうと、高齢者が家を借りられないという状況は変わらないといいます。
「お金があっても貸してもらえないなんて思いもよりませんでした。賃貸に移るにも、高すぎる壁があると聞いて、あきらめざるを得ませんでした」
つまり、ローンを返し終えたあとも、「この家に住み続けるしかない」状況が待っているのです。
「死ぬまでローンを払い続ける……そんな絶望的な状況が現実になろうとしています」
国土交通省『令和5年度 住宅市場動向調査』によると、新築注文住宅を建てた世帯主の平均年齢は44.8歳。30年近くのローン返済を抱えてマイホームを実現しています。当初、「ローン完済は70代」というのが一般的なわけです。
その後、「繰上げ返済を駆使し、定年前には完済」とか「年金を受け取る前には完済」と計画する人も少なくありませんが、野口さんのように想定通りにいくとは限りません。野口さんは当初、「65歳までは問題なく働ける」と思っていたものの、現実は違いました。健康寿命という言葉がありますが、仕事を続けられる期間は意外に短いこともあるのです。
老後資金や住宅ローンの返済計画において、よくある誤算のひとつが「働き続ける前提」です。再雇用や嘱託勤務制度の普及により、「65歳まで働ける」という思い込みが定着しつつあります。しかし、現実には病気、介護、家庭事情などによって離職するリスクも考慮しておく必要があるのです。
[参考資料]
日本年金機構『繰上げ受給』
