【社会】日本人の死因1位、がんは「早期発見が大切」と言うけれど…病院が教えてくれない「がん検診」の不都合な真実

【社会】日本人の死因1位、がんは「早期発見が大切」と言うけれど…病院が教えてくれない「がん検診」の不都合な真実

がんの早期発見が重要であるとはいえ、がん検診がいつも最良の選択肢であるとは限りません。本記事は、病院や医療機関があまり触れない「がん検診」の現実を探求しています。正しい情報を知ることで、私たちが本当に求める健康管理や予防策について考えるきっかけになるでしょう。

「がんは早期発見が命を救う」。そう信じて、毎年のように高額な検診を受けている人も多い。しかし、主流となっているPET-CT検診には、重大な見落としと、知られざるリスクがあるという。医療ジャーナリストの木原洋美さんが「がん検診の盲点」を取材した――。

■がん検診の主流「PET検査」は8割のがんを見逃す

「全身のがんを一度にチェックするならPET検査が一番!」と、今や日本人の大半が思い込んでいる

だがちょっと待ってほしい

各検査機関のホームページには、「PET検査では、見つかりやすいがんと見つかりにくいがんがあります」と書いてある。内訳は以下の通りだ。

【PET検査に向いているがん】
甲状腺がん、頭頸部がん(咽頭がん、口腔がん、頸部リンパのがん等)、肺がん、乳がん、膵臓がん、大腸がん(進行した大腸がん)、卵巣がん、子宮体がん、悪性リンパ腫 等

【PET検査に不向きながん】
食道がん、肝臓がん、胃がん(とくに早期胃がん)、早期の大腸が、前立腺がん、子宮頸がん、腎臓がん、膀胱がん 等

お分かりだろうか。

1年間に日本で新たに診断されるがんの患者数は、男性の1位は前立腺がん、2位は大腸がん、3位肺がん、4位胃がん、5位肝臓がんと続く。女性では1位乳がん、2位大腸がん、3位肺がん、4位胃がん、5位子宮がんである。

患者数が多いがんのうち、前立腺がん、胃がん、肝臓がん、子宮頸がん、早期の大腸がんは、PETではみつけられないがんなのだ。

国立がん研究センターが2008年に発表した精度評価では、PET検査は従来の検査に比べて、感度(がんを正しくがんと判定する割合)が17.8%と非常に低いことが報告されている。感度17.8%とは、82.2%も見逃しがあったということだ。

実際、PETがあまり役に立たないがん種の患者数を単純に合算すると全体の80%程度になる。がんの早期発見に役立つとは到底言えない精度なのである。

※PET検査(陽電子放出断層撮影)は、放射性薬剤を体内に投与し、その分析を特殊なカメラでとらえて画像化することで、全身を一度に調べることができる。CT検査は、X線を使用して臓器の形状を映し出し、特定の部位を詳細に調べることができる。

■CTとの融合が招く重大問題

PET検診の専門家が集まった「日本核医学会PET核医学分科会PETがん検診ワーキンググループ」が作成した「FDG-PETがん検診ガイドライン2019」にも、「PETは一度に多くの種類のがんを発見でき、一般にがんの早期発見に少なくともある程度は役立つと期待されるが、他方PETがほとんど役に立たない種類のがんもあるため、がん検診にPETを用いる場合は他の検査を併用する『総合がん検診』が望ましい」と書いてある。

ちなみに昨今は、PET単独ではなくCT検査と組み合わせたPET-CTが標準仕様になっており、PETと言えばPET-CTを指す。PETとCTのいいとこ取りしている検査なのだが、今、このCTとの融合が重大な問題になっている。

■米研究機関「CT検査による被ばくで5%ががんに」

2025年4月、米国の研究機関がショッキングな研究結果を公表した。

米国における2023年のCT検査データ(総数9300万件)をもとに、将来的に何人が放射線によりがんを発症するかを予測したところ、10万人超のがんが将来発生する可能性があることが分かったと言う。

2023年に米国で実施されたCT検査は約9300万件で6151万人に対して行われた。その内訳は、小児が257万人(4.2%)、成人が5894万人(95.8%)。

分析の結果、CTを受けた6151万人のうち、将来的に約10万2700人(90%信頼区間:9万6400~10万9500人)が放射線によってがんを発症すると推定された。これは米国で1年間に新たに診断される全がん症例の約5%に相当する。

特に注目すべきは、成人が全体の95.8%の検査を受けていたことから、成人における放射線由来がんが9万3000件と推定され、小児は9700件。しかし、CT1件あたりのがんリスクは小児で顕著に高く、特に1歳未満でCTを受けた女児では、1000検査あたり20人ががんを発症すると見積もられている。

この研究結果は、日本でも複数の医療メディアで、「日本は世界的にもCT検査件数が常に上位にあり、毎年人口1000人当たり200~250件前後が受けている」「今後は、診断に必要とされるCT検査以外は、安易に行わないようにしましょう」的な考察と共に報じられたが、どういうわけか、健康な人が対象の、PET-CTによる「がん検診」には触れていない。

実は米国では2017年に、食品医薬品局(FDA)が「(多くの施設がPETと同時に行っているCT検査について)FDAは、症状のない個人の全身スキャンがスクリーニング対象の人々に害を及ぼすよりも多くの利益をもたらすことを示す科学的証拠を知りません。FDAは、そのような医療機器の安全性と有効性を保証する責任があり、CTシステムの製造業者が無症候性の人々の全身スクリーニングへの使用を促進することを禁止しています」と発表している。

■寛解していた長男が二次がんに

都内の会社員ホサカタカオさん(仮名)の長男は、およそ11年前、小児がんの一種・横紋筋肉腫を患った。発見時、すでにがんは進行しており、生命にかかわる状態だったが、1年以上にわたる入院と闘病の末、生還することができた。

その後は、3~4カ月に1回の定期検査・診察を約3年、続いて年に2回の定期検査と診察を経て、術後5年を経過しても再発がなかったことから、18歳のときにようやく寛解となった。

寛解とは、病気の症状が一時的または継続的におさまり、安定した状態にあることを指す。完全に治癒したわけではなく、再発の可能性もあるため、タカオさんは長男に、年に1回の定期検査を欠かさず受けさせて来た。高額ではあるが、がんの予防効果が高いと話題になった自由診療も受けさせた。

2年前の夏、一家は揃って山深い渓流のキャンプ場を訪れた。バーベキューの後、生き生きと釣りを楽しむ姿に、タカオさんは、これからもただ元気でいてくれさえしたらそれでいいと祈った。

しかし今年、恐れていた事態が起きてしまう。

「咽頭がんが見つかりました。二次がんでした」

がん治療終了後にまた別の新たながんを発症することを「二次がん」という。放射線治療や化学療法などのがんの治療により、正常な細胞がダメージを受けたことが原因と考えられている。

がんとの闘い再開。懸命に情報収集する中でタカオさんは前出の論文を見つけた。

「それはPET-CT検査が将来的ながんリスクを高める可能性があるというものでした。もしかしたら、息子の二次がんも関係しているかもと思い、ショックを受けました」

■熱心に検診を受けている人ほど高リスクの恐れ

長男の二次がんとPET-CT検査の因果関係はどれほどなのか。自分は長男を助けたい一心で、逆に、がんを誘発させるような仕打ちをしてしまったのではないか。

苦悩するタカオさんのため、ある小児がん病院の専門家が、実名を伏せることを条件に、以下のような試算を示してくれた。

・9300万回のCT検査で10万3000人のがんが誘発されたという論文のデータをもとにすると、1回のCT検査で0.11%のがんが誘発されることになる。
・PET-CTの感度は約18%(国立がん研究センターの報告)として、1000人が受検したと仮定すると、8.6人(←がん罹患率を0.86%として)のがん患者のうち1.5人のがんを検出することになる。
・一方、1000人のうち0.11%の1.1人にがんが誘発される。
・つまり、1000人がPET-CTを受けると、8.6人中1.5人はがんと正しく判定され、一方1.1人の新しいがんが生み出される。

2023年に日本で年間PET-CT実施件数は70万件(2022年)。年間で延べ70万人がPET-CTを受検すると考えると、そこに含まれる6020人のがん患者の内、1084人を正しくがんと判定。一方、PET-CTを受けなかったら健康でいられたはずの人を770人がんにしてしまう。

がん患者の総数に比べれば、小さな数字かもしれないが、がん予防あるいは早期発見・早期治療を願い、熱心に検診を受けている人ほど逆にリスクを高めているというのは、あまりにも残酷かつ皮肉なことなのではないだろうか。

※「多臓器を対象としたPETによるがん検診の精度評価に関する研究 国立がん研究センター」「第9回全国核医学診療実態調査報告書(公社)日本アイソトープ協会医学・薬学部会 全国核医学診療実態調査」を基に算出

■「体への負担」を軽視してはいけない

放射線被ばくが、二次がんを誘発する可能性は、成人よりも子供の方が高い。タカオさんの長男の咽頭がんにも、経過観察する上で不可欠だったとはいえ、PET-CTが影響している可能性は否定できない。

さらに日本のがん検診には、米国以上の被爆リスクがあることも知っておくべきだろう。

検診実施施設のホームページには、PET、CT、胃部X線(いわゆるバリウム検査)、胸部CTのそれぞれについて、「人が1年間で受ける自然放射線の量と同程度で、人体への影響はほとんどありません」と書いてあるが、それらを合算した場合のリスクについては言及されていない。

たとえば、「PET検査1回で受ける放射線の量は胃のX線検査より少ない」そうだが、同時にバリウム(胃がんはPETではみつけられないので)とCTを受けたら当然被ばく量は上がる。

実際、人間ドックを受ける人のほとんどは、健康意識が高く、がんを少しでも早く発見するため積極的にPET-CTを受ける傾向がある。家族をがんで亡くしたような人の場合は特に、できるだけの手段を講じようとする。筆者も一昨年兄を大腸がんで亡くしているのでその気持ちはよくわかる。

■リスクを減らし、費用を抑える選択肢

では、これからは、どう検診を受けるべきか。

注目されているのはDWIBS(ドゥイブス)法だ。

これは「MRI」を用いた全身のがん検査法の一つで、PET検査と似ているが、全く異なる。X線や放射線を使用せず、磁場を利用して高周波を人体に送ることで撮影するため、放射線による被ばくがなく、絶食や検査薬の注射も不要。待機時間も短いし、検査費もPET-CTより安価に設定されている。

人間ドックのポータルサイトでは数年前からPET検診に替わる全身検診法として、DWIBS法が紹介されている。さらに「全身の癌病変を、1回の検査で検索するMRI検査のDWIBS法は、PET-CTを凌駕するすごい検査です」(呼吸器専門医 薄田勝男氏)とブログ等で推奨している医師も少なくない。

日本テレビ “世界一受けたい授業‼” ‘日本のすごい医療‼’で、紹介されたDWIBS検査とは? | usuda-mri

万能な検査ではないので、やはり他の検査と併用する必要はある。導入施設もまだまだ少ないが、今後は増えて行くだろう。

前出のタカオさんも、「今後は主治医とも相談の上、PET-CT検査の実施を見直したいと考えている」と言っている。

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木原 洋美(きはら・ひろみ)
医療ジャーナリスト/コピーライター
コピーライターとして、ファッション、流通、環境保全から医療まで、幅広い分野のPRに関わった後、医療に軸足を移す。ダイヤモンド社、講談社、プレジデント社などの雑誌やWEBサイトに記事を執筆。近年は医療系のホームページ、動画の企画・制作も手掛けている。著書に『「がん」が生活習慣病になる日 遺伝子から線虫まで 早期発見時代はもう始まっている』(ダイヤモンド社)などがある。

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Asia-Pacific Images Studio

(出典 news.nicovideo.jp)

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