【社会】ノストラダムス再び?「2025年7月に大災難」予言ブーム、信じる心理と”的中のカラクリ”専門家が解説
【社会】ノストラダムス再び?「2025年7月に大災難」予言ブーム、信じる心理と”的中のカラクリ”専門家が解説
ノストラダムス再び?「2025年7月に大災難」予言ブーム、信じる心理と”的中のカラクリ”専門家が解説 …2025年7月に大災難がやってくる──。そんな予言が記述された漫画『私が見た未来』が社会現象になっている。 SNSや動画サイトなどでは「津波がくる」… (出典:) |
2025年7月に大災難がやってくる──。そんな予言が記述された漫画『私が見た未来』が社会現象になっている。
SNSや動画サイトなどでは「津波がくる」や「隕石が落ちる」などどいった根拠のない情報が溢れているほか、香港の航空会社が利用客の減少を見込んで、日本行きの飛行機の減便を決めるなど、影響は海外にまで及んでいる。
「1999年7月、空から降ってくる恐怖の大王によって、世界は滅亡する」。かつて、ノストラダムスの大予言に日本中が振り回されたように、非科学的と思われるものに自身の行動を左右されることがある。
そのメカニズムはどんなものなのだろうか、疑似科学にくわしい信州大学人文学部の菊池聡教授に聞いた。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)
●東日本大震災を「的中」させたことで注目された
ベストセラーになっている『私が見た未来』は1999年に刊行された。作者が日記として残していた夢の内容を取り上げたマンガだ。
この本が最初に話題を呼んだのは東日本大震災の発生後。「大災害は2011年3月」と震災を予知させる記述があったからだ。
2021年7月に発売された「完全版」には「これから起こる大災難の夢をみた」「その災難が起こるのは2025年7月」との記述があることから、今ふたたび注目されている。
報道によると、香港の航空会社、グレートベイエアラインズは5月12日から10月25日まで、仙台便と徳島便をそれぞれ1便減らすと発表した。”予言”の影響で需要が減ると見込んでの判断で、両県の知事が会見で言及するなど異例の事態となっている。
●これまでと違う「風物詩」
菊池教授は「何年何月に破滅的な事件が起こるとする大災害予言や終末予言は、これまでも数限りなく繰り返されてきました。予言業界ではお馴染みの風物詩がまた現れたなという感じです」と話す。
一方で、これまでとは異なる点もあるという。
「これまでの大災害予言の多くは古代暦の解読や未来人のメッセージなどオカルト的な啓示が目立ちましたが、今回は東日本大震災というショッキングな出来事を的中させたように見せたという点で新基軸と言えそうです。
さらに、海外の風水師がこの予知夢に乗っかって、風水をアピールしようとしたことも相まって、これほどの広がりを見せているのではないでしょうか」
●予言は合理性よりも感情に働きかける
なぜ、人は科学的根拠のない予言を信じてしまうのか。その鍵は「感情」にあると菊池教授は分析する。
「理屈ではありえないことでも『的中した』という事実が人の感情を動かします。その『的中感』を生み出すのが『回顧性予言』と呼ばれるものです。
これは曖昧な表現をしておいて、事象が起きた後に予言に当てはめて解釈するものです。このような予言や占いの基本テクニックとして用いられている手法です」
加えて、無数に発信される予言の中で、偶然一致したものだけが注目される「選択的記憶」も無視できないという。
「外れた予言を気にする人なんていません。メディアも取り上げることがないので、やがて忘れ去られていきます。偶然でも当たったように見える予言だけが着目されることで、過大評価されるのです」
●不安の「受け皿」になっている予言
社会心理学の世界では根拠のない予言やデマと人の心理について、数多くの研究が積み重ねられてきた。
その中の一つに「オルポートの公式」と呼ばれるものがある。
デマや流言の流布量は当事者にとっての重要性と証拠のあいまいさの積に比例するというものだ。つまり、人々の関心が高い話題についてのデマは中身があいまいであればあるほど、人々の憶測を呼んで急速に広がっていく。
「現在の日本において、大災害への対策は国家的な重大事です。しかし、具体的にいつどこで災害が起こるのかという一番の関心事は『あいまい』な形でしかわかっていません。災害に関する根拠のない情報が急速に広がる基盤は備わっていると言えるでしょう」
さらに、「近い未来に悲惨な事態を予測することで、現在の不安が低減される」と菊池教授は強調する。
たとえばテストが終わった後、それなりに手応えがあったにも関わらず、「全然できなかった」と周囲に言い回った経験はないだろうか。
これは「セルフ・ハンディキャップ」と呼ばれるもので、結果が悪かったときに「あらかじめわかっていた」と自分を納得させることで、予想ができないことへの不安を拭おうとしているのだ。
「現在のようにいつ巨大地震が起こるかわからないというのは、心理的に大きなストレスになります。高まる不安に対して、具体的な日時を特定して形にする。さらにそれを多くの人と共有することで自分の不安を正当化し、安心を取り戻そうとしているのです」
予言を信じることも未知の恐怖に備えるための、一種の「予防線」と言えるのかもしれない。
●情報に踊らされないために必要なこと
「デマが広がっていく要因として、もし本当に起こるとしたら多くの人に伝えてあげたいという善意によるものも少なくありません」と菊池教授は語る。
インターネットやSNSの発達により、今は個人が簡単に情報を発信できる時代だ。デマのニュースは真実のニュースに比べて、約6倍早く拡散するという研究結果もある。私たちはこうした予言や不確かな情報に対して、どのように向き合えば良いのだろうか。
「ネット社会の一員である私たちは、単にサービスの享受者としてだけでなく、ネット上の情報の意味について、よく考え、不確実な情報は拡散せずに止めるという責任が生じています。
こうした予言を信じる心理的メカニズムを理解したうえで、批判的に吟味し、適切な判断を下すクリティカル・シンキングの態度やスキルが重要になってくると思います」
【取材協力】 菊池聡(きくち・さとる)信州大学教授、同大地域防災減災センター長。専門は認知心理学。著書:『錯覚の科学』(放送大学教育振興会 )、『なぜ疑似科学を信じるのか』(化学同人)など
