【国際】「思想の強いド素人」が引き起こす北朝鮮の重大事故
【国際】「思想の強いド素人」が引き起こす北朝鮮の重大事故
かつて、日本との間を行き来する万景峰号が就航していた東海岸の元山(ウォンサン)。そこから北西に40キロのところにある高原(コウォン)は北朝鮮有数の炭鉱と共に、鉄、タングステン、黒鉛、モリブデンの鉱山を擁している鉱物資源の宝庫だ。
数多く存在する鉱山の一つ、浮来山(プレサン)鉱山は良質の石灰石が採れることで知られている。採掘されたものはコンベアを使って西に1.5キロ離れた浮来山セメント工場に運ばれ、モルタルやコンクリートの原料となるポルトランドセメント、耐久性に優れたスラグセメントに加工され、全国に出荷される。
その工場で爆発事故が発生した。幸いにして死傷者は出なかったようだが、原因はよくある上層部からの「無茶ぶり」だった。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事故が起きたのは10月14日深夜のことだった。工場内の焼成炉が突然爆発を起こした。工場側はすべての作業を一時中断させ、作業員の安全の確認し、事故の収拾に当たっている。
情報筋は、事故の原因を次のようにまとめた。
「今回の事故は、自力自強精神を発揮することについてという中央の訴えを受けて、かつてないほどの成果を出せと道党(朝鮮労働党咸鏡南道委員会)からプレッシャーをかけられ、生産目標を高めた結果、焼成炉に過負荷がかかったことが原因だ」
工場側は、今回の事故について「不足しているセメントを供給するために、生産性向上と生産成果にのみ気を取られ、焼成炉の損傷に充分に対処できなかった」との分析を示した。
工場のイルクン(幹部)からは「焼成炉の容量通りに生産を行っていたならば事故は起きなかったはずだ」、「焼成炉の容量を遥かに上回る生産を行おうとして、むしろ大失敗した」との声が上がっている。
工場側は、生産工程の調整を行うと同時に、焼成炉の復旧を迅速に行い、生産を再開するとの立場を示した。また、今回の事故を契機に、焼成炉の安全管理システムの強化が必要だと認識し、内部点検に乗り出し、生産性と安全性の両方を高めるとの意思を表明した。
そのために、外部の専門家に安全点検を依頼し、内部のシステムを改善し、労働者に対する安全教育を強化すると示した。
ただ、通常の事故後の対応と異なっていることから、工場全体のコンセンサスが取れているのかには疑問符がつく。
北朝鮮で事件、事故が起きると、誰かが詰め腹を切らされる。幹部は責任逃れに汲々とし、現場の技術者や労働者に責任をなすりつける。重罰主義が生み出した弊害だ。
また、企業を取り仕切っているのが、技術や経営のプロではなく、朝鮮労働党の幹部という、思想が強いだけの頭でっかちのド素人という北朝鮮の企業のあり方、いわゆる「大安(テアン)の事業体系」が問題の根本にある。
現場に無茶なノルマの達成や実験を命じて、現場が「無理だ」と反論しようものなら「敗北主義」、「技術神秘主義」などと批判して、事故が起これば現場に責任をなすりつけるばかりだ。
近隣住民も事故の再発を懸念している。
「工場が安全はもちろんのこと、環境問題も無視して、生産にばかり気を使っている」
「事故から教訓を得て、対策を立てるべきだ」
そんな空気を察した工場側は、地域住民としっかりコミュニケーションを取って信頼回復に努める、安全な作業環境を構築すると、なだめるのに必死になっている。
安全を度外視する風潮は、北朝鮮全体に蔓延している。
工場の近隣を通る鉄道の平羅線では2006年4月、貨物列車と旅客列車が衝突し、670人が死亡する大惨事が起きた。