【国際】プーチンの断末魔が聞こえてくる…トランプ次期大統領の「会談のお誘い」にすがるしかないロシアの苦しい懐事情

【国際】プーチンの断末魔が聞こえてくる…トランプ次期大統領の「会談のお誘い」にすがるしかないロシアの苦しい懐事情

最近のロシア経済は、厳しい制裁や国際的な孤立により大きな打撃を受けています。

米国のトランプ次期大統領は、泥沼化するウクライナ戦争をめぐりプーチン大統領と面会する意向を示している。「トランプ和平」は実現するのか。ジャーナリストの岩田太郎さんは「不安定なロシア経済を考えれば、プーチン大統領が早期停戦に動く可能性はある。同時にトランプ氏にとっても、和平交渉は『米国第一主義』政策に欠かせない」という――。

■「就任24時間終結」は後退したが…

2024年の大統領選挙中、「就任して24時間以内にウクライナでの戦争を終わらせる」と豪語して返り咲きを果たした米国のドナルド・トランプ次期米大統領。再選直後から、まるで現職大統領のように「トランプ和平」を実現させるべく活発に動いている。

トランプ氏は2024年12月22日に、「プーチン大統領はできるだけ早く私と会談したいと言っている」と述べ、早期に面会する可能性を強調した。プーチン氏も12月19日に、トランプ氏と会談する用意があると語った。

ロシアのラブロフ外相12月30日、「ウクライナ北大西洋条約機構(NATO)加盟を20年間保留する代わりに停戦するトランプ案は受け入れられない」と早期休戦を拒絶する一方で、「どうなるか見てみよう」と語り、話し合い自体は継続する柔軟な姿勢を示した。

休戦が本当に成立するかは予断を許さない。トランプ氏は1月7日に停戦について、「(交渉期間に)6カ月はほしい。(しかし)できればそれより早く終わらせたい」と語り、従来の立場を後退させている。だが、3年間近くに及ぶ戦争でロシアウクライナも国力が限界に近付く中、2025年中の停戦のお膳立ては整いつつある。

■「親ロシア」のトランプ氏にゼレンスキー大統領は…

休戦条件のカギを握るのは、対ウクライナ支援に消極的な姿勢を強調してきたトランプ次期大統領その人だ。

トランプ氏は「親ロシア」と見られているため、ウクライナは米国からの軍事援助を失い、一方的に不利な条件をのまなければならないのではないだろうか。

ところが、ウクライナゼレンスキー大統領1月2日、「彼はこの戦争で決断を下すことができる」「プーチン大統領を止めることができ、我々を助けることができる」と明言している。

実はウクライナは、一般的に想像されるよりも強い立場にある。トランプ氏が新たにウクライナへの軍事支援継続を示唆したからだ。

本稿では、①現在のウクライナにおける戦況、②トランプ氏の「米国第一主義」にとってのウクライナ鉱物資源の価値と重要性、③トランプ次期大統領から停戦交渉をまとめる担当特使に指名されたキース・ケロッグ米陸軍退役中将の「戦後構想」から読み解く。

■兵士1700人の大脱走、起死回生は望み薄

①ウクライナの戦況

侵攻開始当初はロシア軍の猛攻に押されていたウクライナ軍。

バイデン政権の巨額援助を受けた反転攻勢が成功した2022年の秋、ゼレンスキー大統領ロシア軍を一気に追い込むために、バイデン大統領に高度な兵器の追加供給や使用制限緩和を訴えた。

だが、ここでバイデン氏は躊躇する。追い詰められたロシア核兵器使用に踏み切る可能性を怖れたためだ。結局この弱腰が仇となり、プーチン大統領は形勢を再逆転させることに成功した。

現在、東部戦線で戦うウクライナ軍は兵員と弾薬の不足が深刻化し、士気も落ちて1700人が集団で「大脱走」、さらに敵への投降も増加するなど、起死回生が望み薄となっている。

■「勝利はあと一押し」に見えるが…

ゼレンスキー大統領の戦争指導の稚拙さや政府の腐敗も目立つ中、ウクライナ軍は一方的に押され、ロシアが併合を狙う東部ドネツク州とルハンスク州のいわゆるドンバス地方前線で重要拠点を次々と奪われている。2024年だけで小国ルクセンブルグの面積より若干大きい2800km2を喪失したのだ。

一方、ウクライナ軍は2024年8月にロシアの西部クルスク州への越境攻撃を敢行することにより、ロシア軍主力をクルスク方面に転用させて、ウクライナ東部のロシア軍の攻勢を弱めようとした。占領地を休戦交渉の材料に使う意図もあったとされる。

ところが、ロシア北朝鮮軍の助けも借りながらクルスクの被占領地の半分を奪還。ドンバス正面のロシア軍主力を逆に強化して、ウクライナ軍を押しまくっている。ロシアは2025年春までにクルスクの被占領地をすべて取り戻すと見られている。

全領土の20%を奪われたのみならず、東部前線におけるウクライナ軍がついに崩れる可能性さえ指摘される中、プーチン大統領が早期にトランプ次期大統領の停戦仲介に応じる動機付けは、表面的にはない。あと一押しで勝てるように見えるからだ。

■ロシア経済は好況も実態は火の車

だが、勝利を続けながらも、無理に無理を重ねた戦時体制のため、ロシアの社会と経済も疲弊している。好況に沸きながらも、同時に消耗戦で累積した損害がボディーブローのように効いており、深層ではロシアもまたギリギリの状態にある。

具体的には、ウクライナからの小刻みな領土奪取は、毎日1500人を超えるとされる甚大なロシア兵の死傷と莫大な兵器の損失によってのみ可能になっている。ロシア軍の累計の人的損害は60万〜73万人強にも達すると推定される。だが、30カ月の戦闘を経てなおドネツク州全体さえ取れていない。

日々強化される西側諸国の経済制裁で主力輸出品の原油・天然ガス販売による財政立て直しが妨害される中、ロシア政府は戦費調達に苦労している。

国防費は2022年の5兆5000億ルーブル(約8兆2500億円、1ルーブル=約1.5円)から2025年予算の13兆5000億ルーブル(約20兆円)に膨張し、国家予算の32.5%を占めるまでになっている。

■シリアの政変で露呈した「張り子のトラ」

2025年のロシア連邦予算は、1兆1734億ルーブル(約1兆7601億円)の財政赤字を見込み、2022年から4年連続で赤字になる見通しだ。さらに、2026年2027年の予算計画でも赤字を見込んでいる。

軍事が最優先され、国民をなだめてきたバラマキの財源も限界に達している。加えて、兵役を嫌い、母国を捨てて海外に逃亡する若者や専門家も急増。その数は100万人を超えたと見られる。

あと一押しで勝利できるにもかかわらず、兵員を補強するための大量動員はロシア国民の猛反発を受けることが確実なため、プーチン大統領は踏み切れずにいる。

こうした中、戦時過熱経済による9%超えの狂乱インフレを抑制すべく、10月にロシア中央銀行が政策金利を21%という驚異的な水準にまで引き上げた。これにより、事業資金借り入れのコストがかさむロシア企業にとっては、ますます利益が出しにくくなった。さらに、本業のモノづくりや商取引に投資するよりも、資金を銀行に預けておくほうがもうかるという異常な状態となっている。

そのため、好景気のロシア経済は徐々に冷え込み始めている。事実、ロシアの株価平均は過去1年で20%も下げた。経済活動の停滞と物価の持続的な上昇が同時進行する、恐ろしい「スタグフレーション」に突入する可能性が高いことを市場は見越しているのだ。

直近12月の中東シリアの政変では、ロシアウクライナ侵攻継続に精一杯で、長年支援してきたアサド独裁政権を支えるだけの軍事的・経済的な余裕を失っていたことが露呈した。ロシアの大国としての地位や実力が「張り子のトラ」に過ぎないことが、世界各国に見透かされてしまったのである。

■停戦でロシア経済は回復するのか

だが極論すれば、世界にとり本当に大事なのは、ウクライナにおいて誰が勝利するかではない。むしろ、ウクライナ侵攻の結果としての中長期的なロシア社会・経済・政治の不安定化が関心事であろう。

プーチン氏が3年前に開始した「特別軍事作戦」の目的は、あわよくばウクライナ全土の併合であったが、それは現実的には不可能だ。他方、「ウクライナに失地回復と念願のNATO加盟を断念させる」という次善の目的を達成できれば、ロシア国民に対しては一応「戦勝」だと宣伝できよう。

だが停戦になっても、すぐには西側の経済制裁が解除されず、財政の逼迫とインフレが悪化する可能性が低くない。カンフル剤として外資導入を試みようにも制裁で思うに任せず、西側資本も現体制を信頼せず二の足を踏むだろう。ロシアが原油や天然ガスを安く売ろうとしても、多くの西側の買い手はロシアへの依存を避けようとすると思われる。

■ウクライナは第2のアフガニスタンか

加えてロシアは、その領土的野心を警戒するようになったNATO諸国の軍備増強に対抗するため「準戦時経済」を維持しなければならない。軍縮により浮いた軍事費を平和目的に割り当てる「平和の配当」は、もはや期待できない。

こうして軍事支出が高止まりしてバラマキができなくなれば、やがて国民の生活が苦しくなって民心が揺らぐ。

国力を極度に消耗させた日露戦争第一次世界大戦アフガニスタン戦争の結果として、ロシア(ソ連)政治は不安定化し、ロシア革命やソ連崩壊へつながった。プーチン大統領ウクライナ侵攻は、領土拡大という「戦勝」をもたらしたとしても、オチとしては1991年ソ連崩壊の遠因となったアフガニスタン侵攻(1978年1989年)の二の舞になりかねないのだ。

この中長期的な地政学的文脈において、ウクライナ侵攻を「第2のアフガニスタン」としたくないプーチン大統領が早期停戦に動く可能性がある。栄光のソ連再興を目指して実施したウクライナ侵攻が、ロシアの不安定化や崩壊につながれば本末転倒であるからだ。

■トランプ氏も対ウクライナ軍事援助を継続

②ウクライナ鉱物資源の価値と重要性

一方のトランプ次期大統領の和平仲介を動機付けるのは、ロシアウクライナの停戦を調停することにより米国が経済的利益を享受し、さらに紛争解決能力のある大国として米国の地位や栄光を高める構想だ。

ロシアが2022年2月に侵攻を開始して以来、米国は1830億ドル(約28兆8682億円)という巨額な予算をウクライナに対する軍事・経済援助に費やしてきた。

2024年12月30日にはバイデン政権が政権移譲を目前に控えて、高機動ロケット砲システムの「ハイマース」や防空用の弾薬を含む米軍兵器の備蓄から12億5000万ドル相当、さらに防衛企業やパートナーから装備品を調達する「ウクライナ安全保障支援イニシアティブ(USAI)」から12億2000万ドル相当、合計およそ25億ドル(約3925億円)分の追加支援を行うことを発表した。

■「早期終戦」が「失地回復」を上回った

しかし、パンデミック以降の累積インフレで米国民の多くが「生活がとても苦しくなった」と感じる中、そのような支出の継続は正当化しにくくなっている。

トランプ氏が「ロシアとの停戦に応じなければウクライナ向けの軍事支援をカットする」と主張して2024年11月の大統領選挙で返り咲きを果たしたのも、そのような有権者の意向の表れだ。

世論調査大手のギャラップによれば、2022年の侵攻開始当初は米国民全体で「ウクライナの失地回復を支援すべき」との回答が65%と過半数を大きく上回り、「早期の終戦が必要」は30%ほどに過ぎなかった。

ところが、2024年12月には「早期の終戦が必要」の割合が50%、「ウクライナの失地回復を支援」が48%と初めて逆転し、国内問題で疲弊した米国民がトランプ次期大統領の提言する停戦に傾いていることが明確に示されたのである。

■それでも軍事援助を継続するワケ

一方で、親ロシアと見られているトランプ次期大統領は、ロシアウクライナ領土の20%を取らせても、残り80%は渡すわけにはいかない。

ウクライナロシアに対する完全敗北は、トランプ氏のモットーである「力による平和(Peace through StrengthあるいはSpeak Softly and Carry a Big Stick)」に反するからだ。

そのため、トランプ次期大統領は選挙中の公約を修正し、1月20日の就任後も対ウクライナ軍事援助を継続する方針だと、英フィナンシャル・タイムズ紙が12月20日に報じた。

これは、和平交渉に決定的な影響をもたらすだろう。

■休戦後に米国が狙うウクライナ資源

同時に、トランプ次期政権はウクライナから、バイデン政権が求めなかった「ウクライナ産の重要鉱物による武器代金の支払い」を要求する方針だと、トランプ氏の盟友である共和党のリンゼー・グレアム上院議員や米保守派論客のマーク・ティーセン氏が明らかにした。

これにより米有権者に対して、対ウクライナ軍事継続支援をしばらくは継続させる名分が立つ。

ウクライナ全土に眠る鉱床の価値は総計11兆5000億ドル(約1815兆円)にも上ると推計されている。グレアム上院議員は、「ウクライナ人は金鉱の上で暮らしており、その鉱脈はロシアや中国には絶対渡せない」と断言している。

たとえば、半導体製造のレーザー光源となるネオンの大半はウクライナ産であるし、電気自動車(EV)バッテリー製造向けのリチウムニッケル、さらに人工知能ブームで急増するAIデータセンターの電力需要を満たす原子力発電に必須のウランなど、ウクライナの重要鉱物資源(レアメタル)は米テック大手や製造業にとり垂涎の的だ。

■こうして米国は中国に勝利する

トランプ氏の「ディール」によって、ウクライナウランは米AIデータセンター暗号通貨マイニング、米国に回帰する製造業などで急伸する電力需要に対応する次世代型小型モジュール原子炉(SMR)で使われる未来が構想されている。

また、同国のリチウムニッケルはトランプ氏が頼りにする実業家イーロン・マスク氏が経営する米EV大手テスラバッテリー製造を支え、ウクライナネオンが米半導体の製造コストを下げるという構図だ。

こうして、トランプ次期政権が推進するテクノロジー分野のイノベーションをウクライナの資源が盛り立て、ウクライナから得られる鉄鉱石、チタンマンガンアルミ、コバルトで製造業がさらに米国に回帰して「米国が再び偉大になる」。

そして、米国産業のルネッサンスがそのまま、中国に対する米国の技術的な優位と国力の差になって具現化するという算段である。

■「トランプ和平」で米国が偉大に?

③米陸軍退役中将の「戦後構想」

和平交渉をまとめる担当特使に指名されたケロッグ米陸軍退役中将の「戦後構想」では、ウクライナが強い立場でロシアとの交渉に臨むことが明記されている。

つまり、米国がウクライナの重要鉱物資源と引き換えに同国への兵器供与を続行し、ロシアに対しては経済制裁の継続や拡大をちらつかせることで、強気を装うプーチン大統領を休戦交渉のテーブルにつかせる。

直近ではバイデン政権が、ロシアに流入する外貨の半分強を稼ぎ出す金融機関のガスプロムバンクに対して制裁を決定し、ロシア通貨のルーブルが急落してインフレが加速している。こうした制裁の強化あるいは解除はトランプ次期大統領にとり、交渉をさらに有利に進める切り札となり得る。

■「米国が再び偉大に」トランプ氏のシナリオ

加えて、トランプ次期大統領欧州連合(EU)に対して、米国の貿易赤字の削減のため米国産の石油や天然ガスを買うよう要求し、受け入れられない場合は関税を課すと脅している。

これを受けてEUのフォンデアライエン委員長はトランプ氏に対し、ロシアから輸入している液化天然ガス(LNG)を米国産に切り替えることを検討すると伝えた。

また、欧州は過去3年にわたり米国産原油の最大の買い手となっている。トランプ次期大統領ロシア産原油の価格上限をさらに引き下げ、制裁をかいくぐって原油を輸出する「影のタンカー船団」を取り締まれば、ロシアの国家財政が圧迫されて米国が出す停戦条件の多くをのまざるを得なくなる。

一方、対EUの原油・LNG輸出を行う米国では化石エネルギー産業の利潤が膨らみ、対ロシア軍備を増強するEU諸国への米国製兵器輸出が増え、米国内の雇用や賃金が増加して「米国が再び偉大になる」わけだ。

■「過去100年間で初めて」の称号を手に

翻って、トランプ次期政権が示す和平条件にロシアウクライナ双方が合意する保証はなく、受け入れられるにしても数カ月から1年ほどの時間を要するかも知れない。だが、両国とも3年にわたる戦争で継戦能力がギリギリの状態に達している。

ウクライナにおいても、「平和のため領土面の譲歩を受け入れる」と回答するウクライナ人の割合が2024年10月の32%からトランプ再選後の12月には38%に増加し、「領土面の譲歩は受け入れられない」と回答する割合は58%から51%に低下したと、キーウ国際社会学研究所が実施した世論調査が明らかにしている。

こうした中、プーチンゼレンスキー両氏が「トランプ和平」を受諾する可能性は、皆無ではないだろう。

トランプ氏が和平を成立させることができるかは不明だが、もし成功すれば、「過去100年間で初めて、欧州大陸における大きな紛争を交渉によって終結させた人物」(コロンビア大学国際公共政策大学院のステファン・セスタノヴィチ名誉教授)として、そのレガシーを不動にできるかもしれない。

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岩田 太郎(いわた・たろう)
在米ジャーナリスト
NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。米国の経済を広く深く分析した記事を『現代ビジネス』『新潮社フォーサイト』『JBpress』『ビジネス+IT』『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などさまざまなメディアに寄稿している。noteでも記事を執筆中。

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モスクワから国民に新年のあいさつを述べるウラジーミル・プーチン露大統領、2025年1月1日 – 写真=©Adrien Fillon/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

(出典 news.nicovideo.jp)

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