【社会】2013~23年都道府県出生減(少子化)ランキング。合計特殊出生率との相関は「なし」
【社会】2013~23年都道府県出生減(少子化)ランキング。合計特殊出生率との相関は「なし」
少子化対策をするうえで、出生率を一つの目安にする自治体は多い。しかしながら、統計上出生率の低さと少子化速度に関連はないとされる。では、何を指標として少子化対策を取ればいいのだろうか。そこで本稿では、少子化対策における重要な指標について、ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏が詳しく解説する。
10年間で全国平均は29.4%減なるも、ワースト11位までは4割減
9月に公表された厚生労働省「人口動態調査」2023年出生数確定値によって、2013年から2023年の10年間で見た都道府県の出生数の減少率が明らかとなった。
まず、直近10年間の全国平均出生減少率(以下、出生減率)は29.4%であり、わずか10年で生まれる子どもの数が3割減という深刻な少子化が発生していることがわかる。
全国平均よりも出生減率が高く、より少子化が進んでいる高少子化エリアは31エリアだった。一方、全国平均より減少率が低かった、比較的緩く少子化が進む低少子化エリアは16エリアで、「子どもが生まれる場所が少ないエリアに偏在化」している傾向もより明確となった。
全国平均では3割減であるが、ワースト11位までの秋田、岩手、福島、青森、静岡、山形、栃木、新潟、北海道、高知、愛媛は10年で約4割減というハイスピードな出生減となっており、極めて深刻な少子化状況にあると断じることができる。
東京圏への若年女性の就職期の転出超過が激しい東北圏では、地元の若年女性減から発生する婚姻減からの出生減、という「社会減がもたらす出生数の縮小ループ」が少子化進行に大きな影響を与えている。ちなみに初婚同士夫婦あたりの子どもの数は、全国平均のみならず東北地方でも半世紀前の水準であり、深刻な少子化の原因が「夫婦の子どもの数の問題」とは統計的には全く言えない。そうではなくて、「カップルなくして出生なし」という未婚化が主因であるものの、東北エリアを含めた社会減(若年女性の転出超過)エリアでは、そもそも若い女性が就職で地元から消えていることが婚姻減に直結する状態にある。
それにもかかわらず、自治体が「健康福祉部」マターで少子化対策に取り組み続けて、女性流出を生み出している雇用問題への根本的対策を打たない状況が続く限り、この出生数激減傾向は不変といえるだろう。
東北地方、中部地方の広域雇用人口ダムの決壊
次に、出生数減少率が全国平均以上の高水準、かつ3割減のエリアが20エリア存在する。これらのエリアを見ると、ワーストランキング上位の12位に宮城県がきており、3割減(34.9%)とはいうものの4割減に極めて近い減少率となっている。東北地方に関しては、主たる女性移動先と一般的に信じられてきた宮城県が東北地方の人口ダムの役割を果たすことができず、地元から多くの女性を東京都に就職期に転出超過させて社会減エリアとなっており、このような状況では東北地方全体としても人口の未来は極めて厳しい状態にあるといえる。
さらに2019年以降、愛知県が転出超過エリアに転じ、東京一極集中に関して大阪府の次に貢献しているエリアとなっているため(集中人口の10%が愛知県からの移動による純増)、中京圏の雇用人口ダムも決壊が生じている。そのため、東京圏に就職する女性が増え(≒愛知企業より東京圏企業を選ぶ傾向が強化)、静岡、岐阜、三重(5.14.15位)、といった中京圏エリアにおいて、出生減率がワースト上位にあがってきている状況にも注意したい。
中部エリアにおいて今後警戒したいこととして、2027年の東京~名古屋間のリニア開通(予定)がある。東北新幹線開通後も、東京圏の労働市場に東北地方の労働者が新卒就職期に最も多く流入し続けているように、中部地方と東京の間のリニア開通による「ストロー効果」が懸念される。中部地方において、令和時代の若者のライフデザインにあった労働市場の整備が東京圏より遅れている現状のまま開通すれば、女性社会減加速からの自然減加速、という負の出生減スパイラルが強まる可能性が高い。
早急に出生率をベンチマークにした自治体少子化対策をやめること
最も緩やかに出生数減している東京、大阪の2エリアのみが約2割減という結果となったが、最もゆっくり少子化が進んでいるこの2エリアの期間平均合計特殊出生率は1.1、1.3と低い。図表1で出生減発生期間(10年)の都道府県の平均合計特殊出生率を最右列に示したが、出生率の高低が少子化のスピードに影響をしているとは言い難い状況であることも示唆されている。
これを分散図で示すと図表2のようになる。図表からもわかるように、10年間の出生率の高さと少子化速度(出生減率)に相関関係はない。出生率が高いから子どもが減りにくいわけでも、出生率が低いから子どもがどんどん減るわけでもないので、出生率の高さで自治体の少子化対策の巧拙を語ることは、統計上の禁じ手であるといえる。そもそもこの合計特殊出生率という指標は現状の「若年未婚女性人流」に対して極めて脆弱な指標なのである。
また、少子化を出生率で語る弊害として、「少子化が加速する対策を良策として打ってしまうリスク」弊害がある。例えば、岩手県のように出生率が高いほど、出生減が激しいエリアなどでは、中山間部などの「少子化が大きく進んでいるものの、出生率が高い」少子化エリアの特徴(自然豊か、待機児童0、低女性雇用、高三世代同居率、高い親との同居率、家が広い、戸建てが多いなど)を少子化対策として推奨してしまうことで、さらに少子化を進めることにもなりかねない。
未婚女性が就職期に地元を去ることが一極集中のメイン事象である*以上、「若い女性もいないのにどうして人口の未来があると思えるのか」に自治体は気づかねばならない。人口減が課題の自治体は、性差による生物学的限界(男性は産めない)という視点で、過疎・社会減対策を根本的に見直すことで、なぜこれまでの地方創生政策、地域少子化対策が奏功しなかったのかに気づくことができるだろう。
*ゆえに、未婚女性が就職期に去るエリアほど、地元の「有配偶率(人妻割合)」が自動的に上昇し、女性1人当たりが生涯に持つ子どもの数を示す出生率も上昇してしまう。地元から若い女性が去ることによる出生率上昇効果が知られれば、「出生率が高いのに出生数が大きく減るのはなぜか」は自明の話となる。