【社会】2000円→1.8万円に値上げしたら大繁盛…外国人観光客に”お金を落とさせる”福岡の藍染工房の絶妙なアイデア

【社会】2000円→1.8万円に値上げしたら大繁盛…外国人観光客に”お金を落とさせる”福岡の藍染工房の絶妙なアイデア

福岡の藍染工房が、値上げをしたにも関わらず大繁盛しているという興味深い事例ですね。

日本の観光地が抱える問題は何か。立教大学客員教授の永谷亜矢子さんは「多くの観光地は、地域の共有財産で金儲けをしてはいけないという呪縛に囚われている。観光客のニーズに応じた適切な価格設定をしないと、観光地の持続可能性は失われる」という――。

※本稿は、永谷亜矢子『観光“未”立国 ニッポンの現状』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■「観光で金儲け」にやましさを覚える日本人

観光名所は、地域の共有財産となっているケースが往々にしてあります。そのため、観光関係者の中には、「客からお金を取って利益を上げること」にある種のやましさや抵抗感を覚える人も少なからず存在します。

なかには、ただ地域への貢献心から「金のためにやっているわけではない」とボランティアのように自らを酷使している事例も起きています。これでは、継続性に欠けてしまいがちですよね。

地元の人々からすると、せっかくの観光資源もあまりに日常の風景となってしまい、住民向けの安すぎる価格設定になっていたり、「もともと地域のためのものなので安価で当然」といった認識もあります。

もちろん、そうした伝統を受け継ぐのは結構なことですが、そうであっても、価格を地域外からの訪問者と地域住民とで分けることも検討するべきです。こうした価格の差別化は、アクティビティや伝統工芸体験のワークショップ、祭りなどで特に効果を発揮することがありますから。

■安すぎると観光客が押し寄せてしまう

客観的な視点を失ってしまい、適正な価格で値付けすることができないという“ビジネス化”に踏み切れない事例は、日本の観光業界でよく目にする光景です。重要文化財に指定された神社仏閣の拝観料がたった数百円といったケースは、日本各地に山ほどありますよね。

でも、海外からの観光客はそうした背景など知る由もありません。魅力ある観光地には連日、過剰なまでに観光客が押し寄せてしまい、観光公害となる現象もあちこちで起きています。

資金不足でハードが整っていないところに大量の観光客が溢れたら、当然、トイレや駐車場が不足します。住民の足である路線バスを観光客に占領されることも、よく聞く話です。安価のままマネタイズ目線が欠如していたら、オーバーツーリズムの問題はますます深刻になるばかりです。

■「今あるもの」で適切なお金をいただく

観光振興を目指すならば、「観光でお金儲けをすべきではない」という呪縛から脱却し、マネタイズを意識しなくてはなりません。適正なお金をいただくことで、ハード面の整備がなされて大勢の観光客の受け入れ態勢が整い、ひいては雇用を生んで「担い手」の確保につながります。

かといって、収益を上げるべく、人的・物的資源といった現状のリソースを超えたサービスの提供を目指すと、人気に陰りが見えた瞬間に破綻します。背伸びをするのではなく、自らの足元を見つめ直し、普段から手掛けてきたコト・モノをマーチャンダイジングすることから着手すべきです。「今あるもの」でいかに回していくかも、とても大切な視点です。

■観光地の「ハンカチ&コースター問題」

観光地では、工芸を体験できる工房が定番スポットになっていることが多いです。藍染など染め物や織物の製作体験では、判を押したようにハンカチやコースターの製作を謳っています。

ここで考えたいのは、きちんと消費者目線に立てているかどうか。ハンカチやコースターが悪いというわけではないのだけれど、せっかく作るならもっと満足度が高く、旅から帰っても思い出せるようなアイテムだったらよいのではないか、ということなのです。伝統工芸の体験コンテンツがハンカチとコースターに偏りがちな現象を私は「ハンカチ&コースター問題」と呼んでいますが、改良の余地は大いにあると思っています。

訪れた人にとって本当に価値があるものを製作してもらい、満足度を高めることができれば、単価を上げられるでしょう。だから、提供者側には「それ、本当にお客さんが欲しいものなの?」「魅力的なマーチャンダイジングに仕上がっている?」という視点が必要になってきます。

この“観光地名物”とも言うべき「ハンカチ&コースター問題」を乗り越え、体験価値の高いコンテンツへと昇華した事例を紹介しましょう。

■「2000円のハンカチ作り」を1万8000円のアート製作に

福岡県広川町の工房では従来、久留米絣(かすり)の体験プログラムとして、ハンカチ製作を2000円で体験できるプログラムを提供していました。久留米絣は、括(くく)りと呼ばれる技法で、あらかじめ染め分けた絣糸を用いて製織して文様を表現する技法で、現在は継承者が減ったために生産数が少ない高級な綿織物です。全国でも名高い久留米絣に触れて親しめて、その料金が2000円で、作るものがハンカチではもったいないと感じました。

そこで、こちらの工房は地域に特化した旅行会社の協力を得て、「お客さんが自ら製作した久留米絣を木枠に貼りつけたアート作品に仕立てる」プログラムへと進化させたのです。

とはいっても、作業内容はほとんど変わりません。設備や人員も同じです。自分好みのグラデーションに染め上げた久留米絣の完成品が、ハンカチかアート作品かという違いです。

この取り組みでは、価格を9倍の1万8000円に設定、海外の方々にも人気は上々のようです。また、藍染めの濃淡で出来栄えは大きく変わります。例えばリビング用と玄関用といったふうに飾る場所によって作り分けることで1人当たり数枚の作品を作ったり、あるいは複数回にわたって体験したがる人もいるようで、こうなるとさらに消費金額を上げることができます。アート作品として空間に飾れるものにすることで、「ハンカチでは起こりえなかった高収益化」に成功した事例です。

■4000円のコースター作りも「アート化」で…

沖縄の宮古島にも、宮古上布(じょうふ)という15世紀ごろから続く伝統織物があります。苧麻(ちょま)という麻の繊維で作った糸で織られ、琉球藍で染めて作るもので、日本の四大上布の一つに数えられています。

手触り、色合いが抜群に素晴らしく一反100万円もするものもある高級品なのですが、ここでも4000円でコースター製作の体験講座を行っていました。

そのため、体験プログラムのバージョンアップを図り、具体的には、既成の布をもとに作るのではなく、糸づくりである「よりかけ」の行程から関わってもらうことにしました。自らがよった糸を織り合わせて自分好みの配色の布地にしつらえて、藍染体験と同じように木枠に貼るというアート化です。

■20万円かけてアートを作ったケースも

職人さんはよりかけから着手することになるのですが、今まで自身が担っていた工程をお客さんにやってもらうことで作業の手間が省けますし、お客さんにとっては一から作業を味わえるので体験価値が上がります。価格は従前の7倍強となる3万円に設定しましたが、コースターという日用品ではなく、自身の伝統工芸アート作品とすることでビジネスとして成立します。

こうしたアート化が、さらなる観光消費を呼び込むきっかけになることも見逃せません。面白いことに、宮古上布の工房では「もっと大きいものが欲しい」というお客さんも現れて、「ダイニングテーブルの真ん中に置くような敷物が欲しい」などというリクエストが寄せられたそうです。

この場合、体験プログラムを提供する側からすると「面積が増える=作業が延びる」ことになります。つまり、客単価が上がるというわけです。実際、大きなアート作品を作るため、1週間かけて20万円が支払われたケースもあったと聞いています。

この事例の利点は、「リソースを大きく変えずに取り組める」ということです。なにか新しい設備や人員を導入するのではなく、今あるものでなにができるかを考えて改良に至ったという点がポイントです。

■「唯一無二の体験」にすれば高値でも観光客はやってくる

高価な反物の製作を体験できて、自分の体験をアート作品として形に残すことができる。しかも、宮古島でしか体験できない希少性も観光客には魅力です。文化と芸術を堪能でき、アウトプットをお客さんが「欲しい」「飾りたい」ものとして提供すれば、しっかりと売り上げにつながります。

全国の伝統工芸の中には何百年と続く高い技術や装飾性を擁しているものがたくさんあるので、お客さんの体験価値への探求心にうまくマッチすることでしょう。

付け加えますと、宮古島は年の半分が雨天なので、こうした体験講座のニーズは根強いです。温暖化の影響で、全国的に雨天が多い傾向が高まっているので、「雨の日向け屋内コンテンツ」として、このような価値と価格の高い体験講座はますます存在感が高まると考えます。

ハンカチやコースターがアウトプットでは、本来の伝統や文化といった価値に見合う価格が設定しづらく、なんとなく安い価格で提供されてしまいがちです。でも、久留米絣や宮古上布の事例のように、「唯一無二の体験と作品が得られる」という付加価値を認識できれば、それに見合った適正価格はある程度高値がつけられるはずです。こうした体験プログラムやアクティビティが地域にもっと増えればよいですよね。

■「祭りの廃棄物」をお金に代えた

観光資源のアート化でいうと、面白い事例があるのでもうひとつ紹介しましょう。

富山県小矢部市では毎年6月、五穀豊穣を祈念する「津沢夜高あんどん祭」という伝統祭がとり行われます。竹の骨組みに和紙を張って作った高さ7メートル、長さ12メートルにも迫る極彩色の巨大行燈の山車が、引手の巧みなコーナーワークで地区内を練り歩きます。

最大の見所は、巨大行燈が1対1でぶつかり合う「喧嘩夜高祭」。「ガーン」という大きな衝撃音とともに、巨大行燈がクラッシュする様子は思わず息を飲むほど。富山の人気の祭りです。

祭りのために丹精込めて作られた巨大行燈ですが、これまでは祭りが終わると廃棄されてきました。行燈を包む和紙には、般若や花々など艶やかな絵柄が施されているのですが、これが一夜にして廃棄物と化してしまうのは余りにもったいないです。

そこで、祭りで使われた行燈の和紙をリユースしアートにする「再利用ワークショップ」を催すことにしました。さまざまな絵柄から自分の好きな箇所を探し、自分なりに切り貼りしてフォトスタンドやキャンバスに貼り付け、思い出のアート作品にするという内容です。説明の通り、元手は実質タダ。そんな費用の掛からないイベントに外国人観光客らの応募が寄せられて、すぐに満席になりました。

■無価値のものも工夫次第で収益化につながる

山車の祭りは、終わった後に廃棄したり焼却されるものも多々あります。地域の人たちが祭りに向けて数カ月かけて製作した山車。再利用しないともったいないです。そもそもの素材が祭りの五穀豊穣、邪気払いなどの縁起物ですから「大切に飾りたい」といった価値にもつながりますよね。

これまでは事後に廃棄物として捨てられてきたものでも、企画ひとつで再利用価値は十分にあります。無価値とされていたものを、ひと工夫して収益化するという逆算思考を持ってもらいたいです。

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永谷 亜矢子(ながや・あやこ)
立教大学客員教授
大学を卒業後、リクルートに入社し広告営業、企画、雑誌の編集に携わる。2005年、東京ガールズコレクションを立ち上げ、イベントプロデュースやPR、社長業を兼任。2011年より吉本興業で海外事業、 総合エンターテイメントのトータルプロデュースを担い、2016年に 株式会社anを設立。企業&中央官庁、自治体へのマーケティング、 PRコンサルタント、施設やイベントからメディアまでの様々なプロデュース業を担う。2018年より立教大学経営学部客員教授。2019 年よりナイトタイムエコノミー推進協議会の理事に着任。以降、観光庁文化庁など有識者やアドバイザー、現在も富山県富士吉田市はじめ8自治の地域創生事業にハンズオンで長期的に携わっている。

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Thomas Faull

(出典 news.nicovideo.jp)

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