【社会】世界を驚かせた「日の丸民間船舶」何がスゴいのか 戦艦「大和」以降も色々 世界中で引っ張りだこ?
【社会】世界を驚かせた「日の丸民間船舶」何がスゴいのか 戦艦「大和」以降も色々 世界中で引っ張りだこ?
旧日本海軍が大和型戦艦などの画期的な軍艦を生み出したことはよく知られています。同じく民間船でも、世界に驚かれるような船舶を生み出した歴史があります。日本で退役後も、船籍を変え世界中で使われる例すらあるのです。
日本初の船は鉄道連絡船
日本のクルマや鉄道の優秀さは、世界でも広く認知されているところでしょう。船も、旧日本海軍が当時世界最大の大和型戦艦を建造し、現在では海上自衛隊の潜水艦は優れた性能が評価されています。同様に民間船も、優秀な船舶を生み出しています。
日本国内で建造された最初の船舶は「太湖丸」(348総トン)です。この船は神戸の小野浜造船所で建造され、鉄道連絡船として琵琶湖で運航されました。
世界水準を超えたのは、1930(昭和5)年に大阪商船が建造した「畿内丸」級貨物船(8360総トン)です。貨物船の航海速力が10ノット(18.5km/h)程度だった当時、最大速力18.44ノット(34.2km/h)、航海速力16ノット(29.6km/h)と高速を発揮。横浜~ロサンゼルス間を11日間で結び新記録を樹立しました。ニューヨーク到着時には「日本は鉛筆の芯のように尖った船を持ってきた」と驚かれたそうです。
燃費のよいディーゼル機関の採用も画期的でした。旧日本海軍が大型艦用ディーゼル機関を試作したのが1932(昭和7)年ですから、「畿内丸」は海軍の先を行ったわけです。
「畿内丸」以降、日本の主要海運会社は外国航路を高速船に置き換えていきます。例えば1938(昭和13)年に就航した貨物船「金華丸」(9309総トン)は、最大速力21.6ノット(40km/h)、航海速力17ノット(31.5km/h)でした。
客船も1929(昭和4)年に就航した日本郵船「浅間丸」(1万6947総トン)で、最大速力20.7ノット(38.3km/h)、航海速力18ノット(33.3km/h)。豪華さも相まって「太平洋の女王」と呼ばれました。1936(昭和11)年に就航した鉄道省「金剛丸」(9309総トン)は、日本商船の最高記録である23.2ノット(42.9km/h)を発揮し、航海速力22ノット(40.7km/h)も高速であり、関釜連絡船として活躍しました。
そして1939(昭和14)年、日本郵船が最大速力25.5ノット(47.2km/h)の「橿原丸」級貨客船(2万7700総トン)を建造しますが、海軍に接収され「隼鷹型空母」となりました。
経済性で抜きんでる日本の船舶
こうした優秀な船舶は太平洋戦争で大半が失われます。戦後、日本政府は新造船建造融資政策を行い、日本郵船が1963(昭和38)年、最大速力23.6ノット(43.7km/h)、航海速力19.7ノット(36.4km/h)の貨物船「山梨丸」(1万118総トン)を建造します。さらに翌年「山城丸」(1万466総トン)を就役させました。
「山城丸」は航海速力19.5ノット(36.1km/h)を維持しつつ、機関出力を「山梨丸」の1万7500馬力から1万3500馬力に減らします。船体長は両船とも150mで同じ。最大幅は20.8mから23mに広がり、高速運航には不利でしたが、貨物搭載量を増やしたことで経済性を向上させたのです。
例えばアメリカが1953(昭和33)年に建造した「マリナー」型(9700総t)は、最高速力22.49ノット(41.6km/h)、航海速力20.1ノット(37.2km/h)ですが、燃費の悪い蒸気タービンで、かつ馬力も1万9250馬力と多いものでした。「山城丸」の優れた経済性は世界に評価されたのです。
さらに日本郵船は1966(昭和41)年、K級貨物船「紀伊丸」(1万1379総トン)を導入。貨物船として世界最速の24.93ノット(46.2km/h)、航海速力20.75ノット(38.4km/h)を記録しています。
その後、日本郵船と商船三井が超大型コンテナ船の建造に取り組むと、1971(昭和46)年、日本郵船の「鎌倉丸」級(5万1189総トン)が最高速力29.9ノット(55.4km/h)、航海速力27ノット(50km/h)を記録。翌年に商船三井「えるべ丸」級(5万1623総トン)、最大速力31.75ノット(58.8km/h)、航海速力27ノット(50km/h)で更新しました。
一方アメリカは、同年にコンテナ船「シーランド・ギャロウェイ」(4万1127t)を建造。最高速力33ノット(61.1km/h)、航海速力30ノット(55.6km/h)で世界一となりますが、オイルショックで燃費が問題となり、アメリカ海軍の特殊高速輸送船へ改造されています。
高速船の座にカーフェリーが登場
オイルショックで貨物船が速力を落とす一方、日本ではカーフェリーが新たな高速船となりました。日本初の長距離カーフェリーは1968(昭和43)年の阪九フェリー「フェリー阪九」(4979総トン)で、最高速力19.2ノット(50km/h)、航海速力18ノット(33.3km/h)でしたが、1974(昭和49)年の日本カーフェリー「高千穂丸」(9536総トン)では最高速力27.4ノット(50.7km/h)、航海速力25.6ノット(47.4km/h)と高速化。当時は日本最速フェリーでした。
そして1992(平成4)年に、マリンエキスプレスが航海速力世界一の「パシフィックエキスプレス」(1万1582総トン)を建造。同船は太めの船型を採用しつつ、最高速力27.7ノット(51.3km/h)、航海速力26.2ノット(48.5km/h)でした。
2003(平成15)年には新日本海フェリーが「はまなす」(1万6810総トン)を就役させます。「はなます」は世界初の推進システムを採用し、最高速力32.04ノット(59.3km/h)、航海速力30.5ノット(56.4km/h)は2025年2月現在でも日本最速です。同社は「すずらん」(1万7400総トン:2012〈平成24〉年)で最大速力29.4ノット(54.4km/h)、航海速力27.5ノット(50.9km/h)を、「はまゆう」(1万5400総トン:2020年)で航海速力28.3ノット(52.4km/h)を記録しています。
なお現役船としては、商船三井さんふらわあの「さんふらわあさっぽろ」(1万3816総トン)や「さんふらわあ かむい」(1万5512総トン)、太平洋フェリーの「きたかみ」(1万3694総トン)がこれに続くもので、いずれも航海速力24ノット(44.4km/h)です。2025年現在の最新フェリーとなる「さんふらわあ かむい」では、斜めの向かい風を推進力にできる「ISHIN船型」などの新技術を採用。二酸化炭素も35%削減するなど、環境にも優しい船となっています。
日本の高速船舶は国内での引退後も需要が高く、世界中で重宝されています。例えば、先述した「パシフィックエキスプレス」は2005(平成17)年の引退後、韓国→パナマ→メキシコ→キプロスと船籍を変え、今なお現役です。
