【社会】「喫茶店の倒産」が急増中で過去最多を更新か。地域の憩いの場を“ジリ貧状態”にした2つの要因
【社会】「喫茶店の倒産」が急増中で過去最多を更新か。地域の憩いの場を“ジリ貧状態”にした2つの要因
帝国データバンクによると、2024年度(2024年4月~25年2月)に発生した喫茶店の倒産は66件に達し、年度累計で過去最多を更新しそうだ。
倒産店の8割は小規模な町の喫茶店である。経営が厳しい理由として、食材、水道光熱費、人件費、賃料などが上がり、その上昇分を価格転嫁できないことが主な要因で、約4割が赤字経営を強いられているようだ。
特に、喫茶店にとって主要原材料であるコーヒー豆の価格高騰はより経営を厳しくしており、3年前と比べると価格が倍になっている。これらは町の喫茶店には大きな負担だ。
人流の復活で需要は回復傾向にあるものの、競争面でも大手カフェチェーン、ファミレスやコンビニとの顧客争奪戦が激化していることが倒産する喫茶店を増やしている状態だ。
今回は、勢力を拡大するカフェチェーンとの差別化を図り、生き残りを賭ける町の喫茶店を見ていきたい。
◆物価高騰と大手チェーンの台頭でジリ貧状態に
町の喫茶店はモーニングや手作りランチで差別化を図りながら、常連客の固定化や新規客の誘致に注力している。
しかし、喫茶店はコスト上昇だけでなく、客の滞留時間が長く客席の回転率も低いため、効率が悪い。加えて低い客単価のため低収益体質の店が多い。
くつろぎの時間を過ごせるのが、客にとって喫茶店の魅力ではあるものの、店にとっては複雑な経営心境だ。
また、町の喫茶店にとって一番の売りで差別化手段でもあるモーニングも、店主の高齢化による体調不良や人手不足で朝の営業を諦め、ランチから店を開けるなど営業時間の短い店もある。
このような機会損失が発生すると売上の低下につながり、更に自店を厳しい状態にしているようだ。コーヒーは嗜好品なので、節約志向の中で削られるケースが多く、値上げを逡巡してしまうのが実情。
一方で、大手カフェチェーンは規模の経済を発揮しコスト低減を図りながら店舗数を増やしており、その勢いに押されて町の喫茶店はジリ貧状態に陥る店が多くなっているようだ。
◆町の喫茶店が倒産が増える中、勢力を拡大するカフェチェーン
コーヒー市場は、カフェチェーンの存在が脅威だが、マクドナルドなどファストフード店、ファミレス、コンビニの店頭コーヒーなども競争相手だ。
カフェチェーン店には、セルフ型とフルサービス型があり、セルフサービス型には低価格・高回転型のドトールコーヒーと高付加価値・低回転型のスターバックスの2タイプがある。
フルサービス型はコメダ珈琲店だ。日本ソフト販売によると、カフェチェーンの店舗数1位はスターバックス(1,983店+91)、2位はドトール(1,037店∓0)、3位コメダ珈琲店(994店+50)となっている(2025年1月時点)。
ドトール以外は店舗数を確実に伸ばしており、特にスターバックスは91店舗も増やすなど勢いが最もある。コメダ珈琲店とドトールはフランチャイズで多店舗展開をしているが、スターバックスは直営店での展開だ。
他人資本を有効に活用しリスクを抑えながら積極展開しているコメダ珈琲店、ドトールに対し、管理統制を徹底するスターバックスは、店舗開発や運営マネジメントに関する基本的考えが異なるようだ。
これらカフェチェーンを簡単に紹介したい。
スターバックスは業績も絶好調で、第30期決算公告(2024年9月期)によると、売上3,215億9,600万円(前年比111,1%)、営業利益247億7,300万円(前年比115,4%)、営業利益率7,7%となっている。
コーヒーはもちろん、フラペチーノなどやケーキ・クッキー・ドーナツなどデザートメニューも充実しており、通りに面したオープンテラスなど、お洒落な雰囲気でステータスを感じながら、ひと時を過ごせる店である。
ドトールは、コーヒー豆の生産・調達から焙煎・卸・小売りまでを自社で一貫して行うことで高い品質を維持し、多様な業態店を展開し、コーヒーを中心に多様なニーズに対応している。
駅前やビジネス立地に出店し、滞留時間が短く客席回転率の高い効率経営を実現している。
2024年2月期の売上は772億円、営業利益は30億円、営業利益率3,9%と利益率は高くない。直近(2025年2月期)の業績は売上は+4,8%だが、客数が-2,7%減らしているようだ。
◆利益率の高いコメダ珈琲店
コメダ珈琲店はお客様にくつろいでもらえる店づくりと独自製法・材料にこだわった自社製造商品を提供する日本最大のフルサービス型喫茶店だ。
エリアフランチャイジーに運営を委託し、フランチャイザーとして加盟店指導に徹して、食材卸などを収益の柱としている。
モーニングやランチの人気も高くパンは自社製造を原則としている。業績は、売上432億円、営業利益87億円、営業利益率20,2%(2024年2月期)と上位2社とは収益構造が異なるから利益率は高い。
2025年2月期の第三四半期累計(2024年3月~2025年2月)の前年比は売上(107,9%)と利益(101,2%)となっている。
◆町の喫茶店には2つの成功事例が
廃業が目立つ喫茶店ではあるが、明るい話題もある。
一つはインバウンド客を誘致できていることである。外国人旅行者にとっては日本の文化を堪能したいとのことで昭和のレトロ感ある町の喫茶店も魅力のようだ。
観光スポットである、大阪新世界の通天閣前にある喫茶店は、外国人客でいっぱいで地元の人が入れない状態だ。
その店は昔ながらのフルーツサンデー・クリームパフェ・メロンソーダなど、懐かしいメニューで、お皿やグラスなども歴史を物語っており、心が和むものばかりだ。そういう点も、外国人客には喜ばれているようだ。
もう一つは、独自性を発揮しながら地域密着で頑張っている町の喫茶店も多く存在することだ。筆者の自宅近くの繁盛している喫茶店は、自宅兼店舗で家賃の負担が必要なく、夫婦二人で運営しており、繁盛する町の喫茶店のモデルのような店だ。
20坪程度の小規模店でテーブルやイスもお洒落とは程遠く、大型店のコーヒーチェーンやファミレスなどのように落ち着ける雰囲気などではないかもしれない。
しかし、メインのコーヒーにはこだわりがあり、サービス満点のモーニングを目当てに朝から常連客が来店するなど、店はコミュニティの場として地域に於ける存在感を発揮している。
◆チェーン店にはない町の喫茶店だからできる強み
ランチも適度な品揃えで、客単価の向上や粗利益の確保を実現し経営を維持しているのである。
ランチはファミレスと比べると価格も高く品ぞろえも少ないが、マスマーケットをターゲットにしたファミレスメニューと地域に密着した独自性ある喫茶店との内容の違いは明白。
ここ最近は価格もファミレスが圧倒的な低価格で提供していた頃と違い、今は安価なガストですら760円でドリンクバーを付ければ約1000円だから、価格差はほぼないことも店にとっては追い風だ。
また、町の喫茶店は、客席の回転率の低さがネックとなるとは言いながら、その店の常連さんは 店の経営の維持を考えてくれている人が中心だ。
席が埋まってきたら自ら席を開けてくれ店の売上向上に協力してくれるなど良好な関係を形成しているから、いつも常連客で席が埋まった状態である。こういう店だったら廃業を考えることはないと思う。
地域住民がこよなく愛し、長きに渡り地域コミュニティの場として存在感を発揮してきた老舗喫茶店が、店主の高齢化と後継者不在を理由に閉店することは随所に見かけられる。
中には、老舗喫茶店の閉店は地域や自分たちにとって大きな損失だとのことで、住民が志願してその店を継いだというケースもある。
昭和のレトロ感がある町の喫茶店は、地元住民の憩いの場・コミュニティの場として存在価値があったり、インバウンド客にも喜ばれ、地域の活性化に貢献している。今後もその存在価値を発揮し、可能な限り続けていって欲しいものだ。
<文・中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
