【国際】「党は腐敗している」北朝鮮で噴き出した民の声…不正告発が急増
【国際】「党は腐敗している」北朝鮮で噴き出した民の声…不正告発が急増
北朝鮮で「信訴」とは、中国の「信訪」と同様に、理不尽な目に遭った国民が、そのことを政府機関に直訴するシステムで、一種の「目安箱」のようなものだ。民主主義や言論の自由のない北朝鮮で、庶民がお上に何かを申し立てることのできるほぼ唯一の仕組みだ。
現在、平安南道(ピョンアンナムド)では幹部による不正行為に対する「信訴」が急増しており、当局は慌ただしく対応に乗り出している。韓国のサンド研究所が運営するサンドタイムズがこの状況を報じた。
北朝鮮情勢に詳しい消息筋はサンドタイムズに対し、朝鮮労働党平安南道委員会(道党、県レベルの党組織)は、2025年3〜4月にかけて住民からの信訴が急増したことを受け、「幹部たちの行動が人民の間で嫌悪の対象となっている」と強く非難する電子文書を道内の各部署および市・郡の党組織に配布したと伝えた。
この文書では、幹部の姓だけを記載し(実質的には匿名)、不正行為の具体例を赤裸々に列挙しているという。典型的な例としては、病院と共謀して家族を「偽の患者」に仕立て、国の勤労動員を免除させたり、薬が不足する中で薬局から特権的に医薬品を入手したりする行為がある。
さらに、旅行証(国内移動に必要な許可証)の発行と引き換えにワイロを受け取ったり、「食べる卵が大きい」(ウマみがある)とされる給養奉仕網(国営レストランなど)に家族を就職させたりといった利権の私物化も確認された。
その他にも、子どもを有名大学へ優先的に推薦したり、住民を無償で動員して自宅の修理や畑の野良仕事をさせるなど、幹部による特権乱用の実態が浮き彫りとなっている。
道党はこれらの不正を「党の権威を損なう深刻な問題」とし、「己を特別な存在と錯覚し、人民の利益を踏みにじり、人民を召使いのように扱う行為は看過できない」と断じた。
これを受けて、4月19日から3日間にわたり、各地域で講演が実施された。講演内容は秘密扱いとされ、使用された資料は講演終了後に即座に回収された。資料の紛失や無断複製が発覚した場合は処罰対象となる。講演に参加できなかった幹部には再教育の義務が課された。
信訴によって名指しされたとみられる幹部3名は、解任および党籍剥奪の処分を受け、一般労働者に降格された。消息筋は「この講演は形式的な学習ではなく、中央の承認を得た実質的な統制措置である」と語り、「幹部の間でも空気が変わり始めている」と述べた。
しかし、民衆の不満は容易に収まる気配を見せていない。近年の北朝鮮では、「功労のあったという幹部が党や首領(金正恩総書記)を軽視し、人民の上に君臨している」との批判が広がっているという。
当局は世論の沈静化に力を注いでいるが、問題の根源は制度に組み込まれた特権構造にある。
北朝鮮には徹底した身分制度が存在し、幹部に登用されるには本人のみならず家族や先祖に至るまで「成分」「土台」(出自)に問題がないことが求められる。少しでも疑義があれば、進学、就職、軍への入隊などで差別を受けることになる。こうして社会階層は固定化されている。
党・軍・保衛機関の幹部層は、1990年代後半の「苦難の行軍」以降、国家の配給システム崩壊を受けて「自力更生」を掲げ、様々な特権を事実上「当然の権利」とみなすようになった。市場経済の部分的容認によって、幹部の私的搾取も制度化された。
こうした慢性的な腐敗にうんざりした住民たちは、当局が掲げるスローガン「不敗の朝鮮労働党」を「腐敗した朝鮮労働党」と揶揄し、不満をあらわにしている。
かつて高官を務めていた脱北者A氏は、「北朝鮮の幹部たちは権力を握ったときに私利を貪ろうとする傾向が強い」と語り、今回の平安南道での一連の事例は、「幹部層のモラル崩壊と住民の不満が臨界点に達したことを示す警告の兆しである」と分析したている
当局が幹部統制を強化しようとしているのは明らかであるが、今回の措置がかえって体制内部の動揺を招く可能性もある。住民の怒りが一部幹部の腐敗にとどまらず、体制全体への不信へと拡大するリスクがあるためだ。講演内容を秘密扱いとしたのも、具体的な不正事例が噂として広がり、さらなる不満の火種となることを恐れた結果だと見られる。
消息筋は、「北朝鮮の住民は幹部の腐敗を日常的に体験してきた」とし、「もはや単なる不満の域を超え、体制そのものの正当性に疑問を抱く段階に入りつつある」と警告している。
